20話 電話と遭遇
「もしもし」
「あ、もしもし?」
なぜ疑問形。僕に聞くな。正しい回答なんて出てこないから、電話質問箱にでも入れておけ。
「どちら様ですか?」
「私だよ♪」
オレオレ詐欺の亜種、私私詐欺かな?それなら、切っちゃおっか。
僕は電話を切り、着替えるために自室に向かおうとすると、また電話が掛かってきた。
「しつこいな。もしもし」
「どうして切っちゃうの?」
それだけ、聞いて電話を切ってしまった。
(今のは特に怪しい所が無かったのに、なぜ切ってしまったんだ?まぁ、あざとかったからかな?)
自分で納得する理由を勝手につけていると、またまた電話が鳴った。
「おかけになった電話番号は現在使われておりません」
「蒼君?ふざけてないで、ちゃんと電話に出てもらえる?」
やはり、ダメか。にしても、相手は誰だ?声を聴いてもピンとこない。
「すみません。どちらさまですか?」
「え?」
「え?」
「何を言ってるの?私だよ!」
「しっかりと名前を言ってください。言わないなら切りますよ」
「分かったわよ。酒匂鈴だよ。もぉ~朝から冷たいな~蒼君は」
「酒でも飲みましたか?テンションがおかしいですよ」
明らかに委員長の話し方がいつもと違った。少し、甘ったるい感じがした。
「飲んでないよ~ところで、私はどうなの~」
いきなり話が変わったと思ったら、意味が分からないことを言い出した。やっぱり酔ってるだろ。
「普通じゃないですか?特に変わったところも悪いところもなく、至って普通です。ノーマルです」
「え~そんなぁ~じゃあ、小鳥遊さんと比べたら?」
(何を言い出すんだこの人は!夕里と委員長を比べたらだって?僕からしたら、長年一緒にいる夕里が良いけどもし、今の委員長の態度が演技だとすると、いつ間にかクラス……いや、学校中に僕が委員長より幼馴染を選んだと言う、幼馴染エンドのはずなのにバッドエンドに行くと言う、意味の分からない事態になるが、ここで選べませんなんて言ったら、今度は何を言われるか想像出来たもんじゃない。なら、委員長を選んだとしたら、それもそれで面倒なことに発展しそうな気がする。う~ん?僕はどっちを選べばいいんだー!)
僕は迷った挙句、逃げに転じることにした。
「少し、時間をください」
「だ~め。今選んで」
(くっ!この鬼畜委員長。略して『鬼畜長』!そ、そんなことよりさっさと決めないと。やっぱり、原点回帰して夕里を選ぶしかないのか?いや、ここでまさかの第3の答えを出す!と、しても誰がいいだろう?天邪鬼だとロリコン扱い。酒吞童子でもロリコン扱い。キャットだと年下好き扱い。まぁ、この中だとキャットが的確何だろうけど、ふとした時に委員長がキャットにこの話をしていたのを五徳ちゃんが聞いたら、浮気されたと思い殺される。はぁ~考えすぎなのかな?もう、いっか。僕の心に従うか。その後のことはその時だ)
「僕は夕里を選びます」
「……」
「委員長?」
「蒼君は小鳥遊さんを選ぶんだ……」
委員長からさっきまでの甘ったるい声がなくなり代わりに冷たく沈んだ声が聞こえた。
(やっぱり、演技だったか。だけど、このテンションの代わり様はどうしたんだろう?)
僕がそう思っていると、電話から委員長じゃない女の人の声が聞こえた。その声は聞き覚えがあった。
「委員長、そこに夕里がいるんですか?」
「そうだよ。小鳥遊さんが私の家に泊まりに来てて今から学校に行くところだったんだけど、蒼君の話が急に出てきてこの流れに……」
「はぁーそうですか」
「あ、待ってね。小鳥遊さんに変わるから」
委員長はそう言うと、夕里に電話の相手を変えた。
「……おはよう。蒼」
「おはよう」
「なんで、私を選んだの?」
(あぁーこれはまた難しい質問来たな。まぁ、ここは無難に……)
「僕と夕里は長いこと一緒にいるから、彼女にするなら夕里のほうがいいなーと」
「蒼、その答え童貞臭い」
「童貞言うな!まぁ、今まで付き合った人なんていませんし。仮に出来てたとしても、童貞なんて卒業出来てないよ!」
「なら、私で卒業する?」
(えー!何、この展開。予想をはるかに超えたよ!あれだよね!ふざけて言ってるだけだよね?あぁ、分からない)
僕は急な童貞卒業させてあげると、いかにも怪しいことを言われて動揺しっぱなしだけど、ここはおふざけだとして答えてこの場を乗り切ることにする。
「夕里が良いなら」
「じゃあ、夜に私の家に来て」
(は?マジで?いやいやいやいや。そんなあっさりいくって、まさか夕里は本気だったのか。これはまずいぞ、行くとしても家には天邪鬼・キャット・五徳ちゃんがいる。ましては、天邪鬼なんて従僕探し専用レーダーなんて持っているし。どうすれば……)
「わかった」
僕はそれだけ言って一方的に電話を切った。
「どうしたの?」
「なぁ、天邪鬼。今日の夜、出かけるけどいい?」
僕は主である天邪鬼に夜に出かける許可を取る。その時の僕の顔は赤くなっていたのだろう、天邪鬼は何かを察したのか快く許可を出してくれた。
深く詮索してこなかった天邪鬼に不安を覚えながら着替えに自室に行く。
登校途中に珍しく七五三田に会った。いつもは七五三田の方が早く登校しているが、今日は何故にか僕と同じ遅めの登校だった。
「おはよう。七五三田」
「あぁ、おはよう……どうだ、猫又と五徳は」
そう聞いてくる七五三田はどこかやつれていた。
「元気だよ。そんで、お前はどうした?」
「え?いやぁ、何でもないよアハハ……俺なんて、百鬼夜行しか相手してくれないんだ……」
(何その乾いた笑い。不安なんですけど……しかも、百鬼夜行って結構いるよね!?)
「そ、そうか」
僕は突っ込むことはせず、通学路を歩く。に、しても今日はやけに人が多い。月曜日だからだろうか。まぁ、人は月曜日を『憂鬱の月曜日』と言ってたような言って無いような……そして、春先に人身事故が増えるのもこのせいだ。
(はぁー何思ってるんだろ……あれか、2日も学校行って無いと体の調子が悪いし、脇腹痛いし……)
僕が脇腹を擦っていると、誰かに足を蹴られた気がした。後ろを見るが、七五三田がだらだら歩いているだけだった。
「なぁ、七五三田。今、僕の足を蹴ったか?」
「へ?蹴ってないよ。そんな気力なんてないよ……」
七五三田じゃないとすれば、誰なんだ?まさか、新手の妖怪?まさかね……そう思って振り返るが、妖怪らしい奴はいなった。
「おかしいな。確かに蹴られたんだけどな……」
僕が振り返ると見覚えのない服を着た、見覚えのある顔をした女性がいた。
「久しぶり、東雲蒼」
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