あっけない幕切れ

 ニュースが一区切りつくと、殿村はコーヒーカップを置いた。

「またですよ。殿村さん。今月に入ってもう5回目です。うちは大丈夫でしょうか?」

 同僚の小宮が不安そうに言った。

「さあな」

 彼は普通のテレビから目を離し、ずらりと並ぶモニターの方を見た。画面に並ぶのは日本初の核ミサイル基地である、自衛隊第1特殊戦略兵器基地のミサイル格納庫内が様々な角度から映し出されていた。

 第1特殊戦略兵器基地は佐渡にある。かつての観光地の面影はもはやない。すべての島民は立ち退きを迫られ、代わりにミサイル基地を維持する軍人――もはや自衛隊員とは言えない――と技術者達がやってきた。殿村と小宮はその技術者だった。彼らは当然、爆発事故について一般の人間以上の情報を持っていた。

「だが、事故が起きないようにするのが俺たちの仕事じゃないか?」

「そりゃそうですけどね。他のとこだって関係者は最大限努力していたはずじゃないですか? しかしこうも事故が重なるなんて・・・」

「確かにな。ただ、どこの施設もできてからかなり経っているし、経年劣化でいろいろ問題でもあったんじゃないか? その点、この施設はできたばかりだ。当面は大丈夫だろう」

「だといいんですが・・・」

 妙な口ぶりだった。

「おい、お前何か変だぞ。なにが言いたいんだ」

 小宮は殿村の顔をじっと見た。

「実は俺、ひとつ考えたことがあるんです。最近の爆発の原因のことなんですが・・・」

「言ってみろよ」

 小宮はそれでもしばらく迷っていたが、ようやく口を開いた。

「これから言うことはただの仮説、いや、単なる冗談と思ってもらってもかまいません」

 芝居がかった小宮の言い方に、殿村は不安を覚えた。

「このところ続いている爆発事故は2つの共通点があります。ひとつは核弾頭、原子力空母など、兵器の爆発であるということです。原子力発電所などの設備にはまったく起こっていません。

 そしてもうひとつ、被害が驚くほど少ないということです。どんなに酷いものでも、基地内がメチャクチャになるくらいで、周辺地域には爆発は及びませんでした。極端な例では、原潜のミサイルが爆発したにも関わらず、ミサイル格納庫にしか被害はなく、無事本国の港に帰りつきました。

 それに、政府はさっきのニュースのように言ってますが、どの爆発の時にも放射能はまったく検出されませんでした。核爆発としてはあり得ない話です」

「確かに、それが不思議なところだ。まあ、どちらかというと有難いことだが」

「そうです。もしこの爆発を起こしている誰かがいるとしたら、その誰かは決して狂人でもあくまでもないでしょう」

「おい、あの爆発は事故じゃないというのか? 人為的なものだと・・・」

 殿村の声は我知らず大きなものになった。小宮はその問いには答えなかった。

「今月最初の爆発の時――あれは被害が酷い方で、基地内部の人間は一人しか生き残らなかったんですが――半ば狂ってしまったその男がなんと口走ったか知っていますか?」

「ああ、I saw fairies. しかし、あれは狂人が・・・」

「そうでしょうか?」

 小宮は殿村の言葉を遮った。

「レオ・シラードが提唱したコバルト爆弾のコバルトの語源を知っていますか? ドイツの民間伝承に出てくる妖精の名前ですよ」

「それがどうしたっていうんだ? そんなものはただの伝説だし、結局コバルト爆弾は実用化されていない。今はもっと効率のよい核兵器が使われている」

「そうですね。それだけ人間は原子の構造を理解した。今我々は実験で自然界にはありえないような原子まで作り出している。人間が新しい原子を作り出すのはまさしく錬金術。とすると原子は錬金術師が追い求めた賢者の石。古代の錬金術師の認識が正しいなら、それはあらゆる物質に宿る精霊なのです。すなわちあらゆる原子には何らかの意思があるということでしょう。人間は核兵器を作ることで、その意思を目覚めさせたのではないでしょうか?」

「ストップ」

 殿村はまるで狂人を見ているかのように同僚を見ていた。

「たとえそうだとして、それが最近の事件となんの関わりがあるって言うんだ?」

「もし今まで眠りについていた者たちが目覚めたときに、破壊兵器になっていたら、自分の意志に反して破壊者にさせられていたらどうすると思いますか?」

「それは・・・」

 完全に小宮の迫力に押されていた。おそらく小宮が考えているであろう結論が思わず口から出た。

「いい気はしないだろうな」

 小宮は頷いた。

「絶望して、世をはかなむかもしれません」

「待てよ!」

 殿村は身を乗り出した。

「じゃあ、あの事故は妖精の集団自殺だとでも言うのか?」

 小宮の答えを、非常警報の耳障りな音が遮った。反射的に殿村は、核兵器を24時間映し出しているスクリーンに飛びついた。一瞬眩い光が溢れたかと思うと、スクリーンは真っ白になった。

 殿村は最後の光の中に、小さな人影が見えたような気がした。

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FAIRY TALE M.FUKUSHIMA @shubniggurath

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