第6話 最後のレイド

『台貴知高校レイド成功。龍堂学園6 台貴知学園11』

『うおおおぉぉぉ!』

 噴火のように歓声が沸き起こる台貴知高校応援席。

『ぐわっはっはっは!』

 それに負けじと豪快な笑い声を奏でる庵堂龍造。


 自軍コートに戻った紀藤を皆が笑顔で出迎えるが、鬼灯だけはその顔を緩めていなかった。

「紀藤……さん、いくら試合とはいえ、他校の男子にあのような振る舞いは……」

”ドキッ!”っと紀藤の心が揺れる。

(え? ひょっとして……やきも……)


「台貴知高校の女子がふしだらな目で見られるから、以後自重……」

”ズン!”

 鬼灯のみずおちに紀藤の拳がめり込む。 

「ぐはぁ!」

「"キャプテン!” よそ事を考えておりますと、足下をすくわれますわよ」 


 そんな二人をやりとりを眺めている男子メンバーは心の中でつぶやく。

(鬼灯、お前は勉強とマギカ・バディ以外にも目を向けた方がいいぞ)

 ある女子メンバーは

(愛ちゃん、ファイト!)

と、心の中で声援を送っていた。

 

 その後、両校は一進一退の攻防を繰り広げた。

 やられたらやり返す! 取られたら取り返すとばかり、出鱈目な大技の打ち合いとストライカーによる殴り合いとなっていた。

 

 台貴知高校側は総力戦と、ほとんどのメンバーがレイダーとして参加した。


『【魔炎爆まえんばく】! 六連射!』

 鬼灯が【魔炎弾】より強力な火の魔術、【魔炎爆】を龍堂学園メンバーに浴びせ、他のメンバーも


『【魔氷弾まひょうだん】! 吹雪ふぶき!』

『【魔空刃まくうは】! かまいたち!』

『【魔岩弾まがんだん】! 散弾術!』

と、それぞれ水、風、土属性の魔術で龍堂学園メンバーを襲う。


 いくら甲斐が味方の前に防壁を張ろうとも、メンバーはすぐさま逃げ回ったり、勝手にレイダーに突撃していってはまともに攻撃を食らってダウンしたりと、もはや龍堂学園チームの結束はバラバラであった。


 そんな龍堂学園側のレイダーは相変わらず白鳥と目黒が努めた。

『ヘイお待ち! 【炎の鳥 味噌汁お新香付き】ですね! 毎度あり~!』

 白鳥は大きい炎の鳥に二羽の炎の小鳥を連れ立った技を発する。

 大きい炎の鳥に気を取られている間に、二羽の炎の小鳥が台貴知高校メンバーの膝裏や足首を襲い、着実にダウンを稼いでいた。


『うおおおぉ! 喰らえ! プロレスラー富士原ふじはら たつの必殺技!【ドラゴンスクリュー】』

 目黒は走りながら飛び上がると、拳を握り両腕を頭の上に伸ばし、鬼灯に向かってドリルのように回転しがら突っ込んでいった。

 しかし簡単にかわされ、目黒の体は幾度となく地面を転がる羽目となった。


 長期戦になると見込んだ台貴知高校側は、メンバーチェンジでヒーラー(治癒者)を参加させる。


 ――ヒーラー(治癒者)は攻守一回ずつ競技に参加すれば、タイムアウト、ハーフタイムでメンバーを治療させることができる――。


 この時のレイダーは目黒。

 攻撃力がほとんどないヒーラーを攻撃するのは、マギカ・バディにおけるセオリーだが

「ヒーラーを攻撃するなんてなぁ、おとこがすたるぜ!」

と、あえて攻撃対象から外した。


 そして前半二十五分が終了し、十分のハーフタイムとなった龍堂学園のベンチでは、

 甲斐に向かって『防壁がでたらめ!』。

 白鳥に向かっては『ギャグを入れる攻撃はやめろ! うっとおしい!』。

 目黒に向かっては『自爆ばかりしやがって! ダウンさせられないなら、せめてタッチで点を入れろ!』

と互いが互いに文句をつけたりと、相変わらず仲間内の結束はバラバラであった。


 そんな龍堂学園の惨状を尻目に、台貴知高校側ではヒーラーが皆の傷をいやしていた。


 後半になっても競技場にそびえ立つ魔光掲示板まこうけいじばんに表示された両校の点数はめまぐるしく増加し、観客席からはどよめきと歓声、そしてそれ以上の笑い声で盛り上がっていた。

 そしてその笑い声をもっとも大声で轟かせているのが、龍堂学園学園長、庵堂龍造であった。


 両校の攻防は同点のまま後半二十五分が終了し、十分の休憩の後、十五分の延長戦が行われた。


 そして、のこり時間わずか! スコアは、”99 VS 99”!


 もはや両者ぼろぼろで、立っているのもやっとであった。

 最後と言うべきレイドは龍堂学園。レイダーは目黒であった。

(へっへっへ……こうなったら、”あの技”の封印を解く時が来たようだぜ)

 一人にやける目黒。

 白鳥と交代しながらレイダーとして台貴知高校と戦ったが、目黒によって得られた点数は0であった。


 『『『『『……』』』』』


 もはや龍堂学園メンバーからの【マギディ】は聞こえてこない。

 目黒と同じように、ただ立っているだけだった。


 台貴知高校のキャプテン鬼灯が、息も絶え絶えにみんなにげきを飛ばす。

『い、いいか~……決してレイダーを”ダウンさせるな!” ダウンさせたら試合が終わってしまう。み、みんなであいつを担ぎ上げて……デッドエンドラインから……外に放り出せ!」


 台貴知高校が完全勝利する唯一の方法、それはレイダーである目黒をいかにダウン”させず”、デッドライン上から外に放り出し、自爆点一点を得るかにかかっていた。

『延長戦タイムアップ。なお、レイドが終了するまで試合は続行されます』


 《神の眼》によるお知らせが両校のメンバーに届けられる。


――もしこのまま両校同点のまま延長戦が終了したら、コート上に残っているメンバーが多い方が勝利。

 同数の場合は《神の眼》が両者のダメージを判断し、ダメージの少ない方が勝者となる――。

 

 ちなみに台貴知高校唯一の交代要員であるヒーラーは、度重なる【治癒ちゆ】の使用により体がオーバーヒートし、頭に氷嚢ひょうのうを乗せたまま、ベンチでダウンしていた。


『アタックサークルに入ったレイダーは十秒以内に攻撃を。十……九……八……』

 

 アタックサークル内でカウントダウンぎりぎりまで体を休める目黒。

『三……二……一……ゼロ!』


 アンティである台貴知高校からは、魔術やストライカーによる攻撃はない。

 皆、目黒を担ぎ上げる為に体力を温存していた。


 そんな緊張した空気が漂う中、目黒はゾンビのように体を揺らしながらゆっくりと歩を進める。

 向かう先は台貴知高校キャプテン(仮)である鬼灯。


 両者に言葉はない。

 ただ一人、大将の首を狩る為、ゆっくりと鬼灯に近づく目黒。

 逃げることなく、仁王立ちのまま目黒をにらみつける鬼灯。


 他の味方が目黒の体を担ぎ上げるまで、目黒の攻撃を受け止め、足止めさせるのが我が使命! とばかり、目黒は残った力で体を踏ん張らせる。


 台貴知高校のメンバーは目黒の体を担ぎ上げる為、ゆっくりと目黒を取り囲み、徐々にその輪を縮めていく。

 やがて相対する目黒と鬼灯という名の、二匹の雄。


『!』

 言葉にならない咆吼が目黒の口から放たれ、左足が前へ出ると同時に、その体重移動の力を借りて、目黒の右拳がゆっくりと弧を描きながら鬼灯の顔面を襲う!


『!』

 鬼灯も声にならない雄の雄叫びを上げ、わずかに力を蓄えた左腕を持ち上げ、顔面をカバーする。


『!!』

 二つの肉と骨が奏でる、音にならない波紋がコート上を走る!

 目黒の右拳は鬼灯の左手首によって防がれてた!


 動きの止まった目黒に向かって、他の台貴知高校のメンバーもまた、ゾンビのように歩を進める。

 鬼灯の顔に浮かぶ勝利という名の甘い美酒。

 しかし、目黒の顔にも、勝利を味わう微笑みが浮かび上がった。


『『!』』

 両者に流れる力が新たな波紋を生み出す。

 ゆっくりと体重をかけ、己の拳を鬼灯の顔面に近づける目黒。

 拳をもらわないよう、そして倒されないよう、何とかそれを左腕一本で踏ん張る鬼灯。

 やがて鬼灯の左腕は己のひたいへとくっついた。


『!』

 言葉にならない驚きが、信じられない光景が鬼灯の眼に写る。

 堅く握られた目黒の拳がほどかれ、中指がゆっくりと鬼灯の顔の中心へと伸びていく。


”ピン!”


 爪と鼻の肉がぶつかる音。

 そしてわずかに宙に舞う、”鼻水”と言う名の水滴。


(ふぁ、ふぁにぃ~)

 心の中で吠える鬼灯。

 目黒から放たれた《鼻ピン》によって、鬼灯の骨や筋肉を支えていた気力が一気に萎え、その体はゆっくりと背中から倒れていった。


”ドォスゥゥ~~ン!”

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る