第11話 マジュツ部
見取り図を見ながら、龍一は部室棟へ足を運ぶ。
部室棟は三階建てだが、実質的な造りは校舎と変わりなく、普通の教室を半分に仕切り、教室の前と後ろが別々の部室となっていた。
一階の真ん中に入り口と階段があり、一階部分は他の高校にもある文芸部、写真部、漫研、ボランティア等が部室を埋めていた。
棟の左右には、広めの教室である多目的教室があり、そこには吹奏楽部と演劇部の名が記されていた。
二階は主に男子運動部の名があるが、さすがに空室が多かった。左右の多目的教室部分は空欄で、廊下の左右の部室にはメモに記されていた《オカルト&占い研究部》と《マジュツ部》の名前が記されていた。
そして三階部分は女子部の部室があり、多目的教室の一つは女子部の備品倉庫、もう一つは《生徒会室》になっていた。
「そういえばマジュツ部って、部活紹介に出てなかったような……。何をしている部活なんだろう? 占い&オカルト部があるから、ひょっとして《魔術》?」
龍一は怖いモノ見たさで部室棟の中に入り、階段を上り、マジュツ部の部室へと向かっていった。
――部活体験一日目、マジュツ部部室
『チキショー! まさかトイレの前で”コスプレ女”に会うとは。なにが”校則違反……全部脱ぎなさい”だ! おい白鳥、このユニフォーム、生徒会に申請したんじゃないのかよ!』
『ふっ! そんなの、あの場から逃げる為の方便、まさに出任せですよ……』
『おまぇ、竹ノ内にばれたら、竹刀じゃすまんぞ。おそらく木刀を……』
『その時はこの白鳥、甘んじて全てを受けいれましょう! 私の白い肉体を真っ赤に染め上げるまで……あぁ、打ち込まれていないのに、想像するだけで体がほてってしまいます』
『ちょっと待て! いつからうちは”変態部”になったんだよ!』
『しゃべっている暇はありませんよ目黒君。もうすぐ彼が来ます。ていうか、もう既に部屋の前に来て、今、まさにノックをしています。さぁ早く服を……』
『って、なんで白鳥! パンツまで履き替えてるんだよ!』
『彼との初体けn……いや初顔合わせですから、やはり勝負下着でないと心が落ち着かない……あ、あれ、目黒君、ちょっとそこどいて!』
『ちょ待て! 何でこっちに倒れてく……』
ドア越しから聞こえる会話で、ノックが聞こえないと判断した龍一は、ゆっくりとドアを開けた。
「失礼します。ノックをしても返事が……。あ~すいません。……失礼しました」
パンツ一丁の淡い淺黒の筋肉質の男の上に、パンツを脱いだ色白で細身の男がのしかかっている情景を見た龍一は、非礼をわび、ゆっくりと扉を閉めようとしたところ、
「ちょ、ちょっと待って下さい! これには深いわけが!」
「待てやごるぁ~! おんどりゃ~! 逃げられると思うなよ~!」
「う、うわぁぁぁ~!」
龍一よりも十センチ近く背の高い、しかも全裸の男二人が目を血走らせ、ゾンビのごとく龍一に襲いかかった。
マジュツ部の部室は机と椅子が乱雑に置かれており、壁際には一人暮らし用の小さい冷蔵庫とオフィス用のスチール書庫、縦長のロッカーが適当に配置されていた。
壁面にはプロレスや総合格闘技のポスターやカレンダー、海外のアクション映画のポスターが貼られており、およそ魔術に関係のあるモノは微塵と感じられなかった。
「ようこそ、我がマジュツ部へ。私が部長の白鳥羽斗です。こちらは目黒武雄君。席は……適当に座って下さい」
白鳥と名乗った男は白いタキシード姿に白のシルクハットをかぶっていた。
「押忍! 目黒だ! よろしく! あと白鳥、俺は小難しい話は無理だから、勧誘はお前に任せるわ、わりいが俺はちょっくら一眠りさせてもらうぜ」
対する目黒は今やゲームの中でしか見られない真っ黒の学ランを身に纏い、ボタンを外した胸元からは格闘技団体の名前がプリントされたTシャツが覗いていた。
「あ、庵堂龍一と申します。よろしくお願いいたします」
龍一は若干二人と距離が空いている椅子に座り、座ったまま頭を下げ自己紹介を行った。
「おやおや、早速警戒されてしまいましたか。確かにマジュツ部なんてカタカナな名前、《魔法師》名門の庵堂の名から見れば、半端者の集まりのように思われますからね」
龍一の正面の椅子に座った白鳥は、さわやかな笑顔を向けた。
(半端物と言うよりは、むしろ半裸者、いや、”ほとんど全裸者”では?)
と突っ込みたいのを我慢して、龍一はついさっき起こった疑問を白鳥に向かって口にした。
「占いをしている方からここに行けと言われたんですが、なぜですか?」
「君を、庵堂龍一君を欲しがる部、いえ集団は、なにも一つだけではない、と言うことです。おそらく我々を含めて三つの集団に順番に行くようにと言われたと思いますが?」
「あ、はい。そうです」
「その集団の間でいわば紳士協定を結びまして、君を勧誘する順番を決めたわけです。君がその三つの集団、または全く別の部活に入部しても、今後我々は一切、君に対して関知しないと……」
「あの……僕を入部させたいお気持ちはありがたいんですが、僕は中学時代、特に部活はやっていませんし……。しいて言えば曾祖父と将棋を少しやったぐらいですが……」
「おやおや、おとぼけになりますか。さすが庵堂家の《男子》。ごく自然な会話をして、簡単に素性を明かさないのは魔術師、いや既に魔法師の風格が備わっておりますね」
「……おっしゃる意味がよくわからないんですが?」
さすがに龍一も首をかしげ、怪訝な顔を白鳥に見せる。
「なるほど、私ごときでは素性を明かすには雑魚すぎると……。ならば、例えその力の片鱗でも、私たちの前にさらけ出してもらいましょう!」
白鳥はシルクハットをとり、タキシードの袖からステッキを取り出すとクルクル回転させ、手品師のようにシルクハットを二回を叩いた。
「さあ、白い鳩が出てくると思いましたか? そんなわけありゃ~すか! 鳩は鳩でも白ではなく、炎の鳩でした~!」
シルクハットからまさしく炎に包まれた鳩、いや、鳥の形をした炎が飛び出した。
炎の鳥は白鳥の頭上を軽く旋回した後、白鳥がステッキを龍一へ向けると、それにあわせるように、一直線に龍一に向かって飛んでいった。
「え、え? ええぇぇ~~!」
炎の鳥はあっけにとられた龍一のお腹にぶつかると、”ボン!”と爆発し、オレンジ色の炎が制服を食べるかのように燃え始めた。
「う、うわ! 火! 火! 水! 水!」
龍一は慌てて周りを見渡し、水を探していた。
「お、おい白鳥! いくら何でもやり過ぎじゃ?」
白鳥の呪文に目を覚ました目黒は、心配そうに叫んだ。
「ご安心を。あの炎は服は燃えますが、肉体、髪の毛一本すら何らダメージを与えません。さぁ、庵堂龍一よ! おのが力を使い、我が《
「う、うわぁぁぁぁぁ!」
龍一の悲痛な叫び声がマジュツ部の部室中に響き渡った。
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