第10話 部活占い
(白鳥、本当にあいつで間違いないんだな)
黒の学生服に筋肉質の浅黒い肌、
(目黒君、私の情報網を侮って貰っては困ります。彼こそ庵堂龍造先生亡き今、庵堂家唯一の《男子》、そして正当なる《後継者》、庵堂龍一君です。龍の名を冠しているから間違えようにありません)
真っ白のタキシードとシルクハットを身につけ、か細い体つきと象牙細工のような白い肌、その髪も白髪というより銀髪の、白鳥と呼ばれた二年の男子生徒は、隣にいる目黒と呼んだ男子生徒に向かって、妖しく微笑みながら答えた。
(お前のその情報網とやらを信じて、俺らが何回赤点、追試、補習になったかわかっていっているのか? せめてテストの山ぐらい当ててからいってくれ)
(それは貴方が、テストの山を一問百円でおおっぴらに売っていた為でしょうが。おかげで教師の耳に入って全問題を作り替えられる羽目になって……)
(その金を8:2で持っていったのはどこのどいつだ!)
『そこの”
左腕に”風紀”の腕章をつけ、竹刀を構えている女子生徒が、仁王立ちになって二人を睨み付けていた。
「や、やぁ、これは剣道部主将の、竹のふしこさん。ごきげんうるわしゅ~」
「竹ノ内節子だ! 目黒! お前また体中に”
あわてて目黒と竹ノ内の間に白鳥が割って入る。
「これはこれは、節子様とお呼びするべき所を失礼いたしました。隣の朴念仁に変わりお詫び申し上げます。なおこの制服は本年度より”我が部”のユニフォームとして既に生徒会へと申請しております。なおこの白鳥、日々風紀の為にお働きになる節子様の為なら、いつでもこの身を捧げる所存でございます」
白い学生服が汚れるのにもかまわず、白鳥は片膝をつき、胸に手を当て、竹ノ内の目の前で
「ま、まぁ、なんだ。生徒会の許可がおりているなら……。こっちも怒鳴って悪かったな。あと、ここは新入生の勧誘場所じゃないから、すぐ部室に移動しろよ」
「御意にございます。では目黒君。我等も部室へ戻りましょうか。では節子様、我々は
「ああ、悪かったな竹ノ内。今度購買の紙パックジュースでもおごってやるわ」
「別にそこまでせんでええのに……。あと新入生に変なちょっかいをかけちゃかんよ」
竹ノ内は回れ右をして、わずかに頬を朱に染め、歩きながら呟いた
(まったく、勉強はまぁいいとして奇行さえ何とかなれば、180近い長身、ワイルド系と王子様系のルックスと、男子運動部の助っ人にすすんで参加する運動神経、何より、普通なら二人は学園のアイドルになってもおかしくないのに……」
『『ええっ! なぁんだぁってぇ~!』』
生徒会長の甲斐と比べると決して恵まれていない左右の胸の横で、目黒と白鳥が耳に手を当ててその呟きを一字一句聞き漏らさないよう聞き耳を立てていた。
その姿を見た瞬間、竹ノ内は持っている竹刀で面、胴、突きの華麗なコンビネーションを力尽きるまで二人に浴びせた。
「よろしくお願いします」
順番が来た龍一は、軽く一礼しながら椅子に座った。目の前に座る魔女のコスプレをした女生徒は、鉛筆とメモ用紙を龍一の前に置いた。
「じゃあ、この紙に……貴方のクラスと氏名を……書いて下さい」
周りが騒がしい中、呟かれた声は細い絹糸みたいだっだが、なぜか龍一はその声を聞き漏らすことがなかった。
「これで……いいですか?」
《一年J組 庵堂龍一》と書いた紙を龍一が渡すと、コスプレ女生徒はその紙を軽く見つめ、ゆっくりと顔を上げた。
並んでいる時は占い師の女生徒を、雰囲気的に上級生と思っていたが、顔を上げた瞬間、年下、中学生かと思うような幼く小さな顔と瞳が、帽子のつばから龍一を覗いていた。
そして名前の書いた紙を机の上に置くと、両手の平を水晶玉の上に掲げて無言で水晶玉をなでていた。それが終わるとメモ帳を一枚破り、部活名を記入し始めた。
「これを……。この順番で体験して」
「はい。あ、ありがとうございます」
龍一が受け取ったメモ用紙には、
《・今日 マジュツ部 ・明日 生徒会 ・明後日 オカルト&
占い部》
と記されていた。
「あの……マジュツ部ってなんですか? しかも明日は生徒会って?」
「みんな部室棟に部室があるから。生徒会室もそう。行けばわかるから……」
龍一の問いにコスプレ女生徒は、相変わらず細い声で淡々と答えた。
「えっと、僕の前の人には中学時代は何をやってたとか、得意なスポーツとか聞いてましたけど、僕にはなにも……」
「聞く必要がないから聞かなかった。ただそれだけ。必ずその通りに行ってね」
「わかりました。あの、もしこれで決まらなかったら?」
占い師の女生徒はわずかに視線を上に上げ考えると
『その時は……もう一度、その順番で回ってくれると……私はうれしい』
「……それでも決まらなかったら?」
『そうね、貴方がやりたい部活を、自分でつくるって手もあるよ』
帽子の影から覗く淡い紅の蕾からは、占ってもらった人間が進む道ではなく、占い師の願望が、わずかなぬくもりと笑みを含んだ囁きから感じられた。
「どうも、ありがとうございました」
細い声だが、なぜか逆らえない、体が自然に動いたかのように、龍一は席を立った。
「次の人ごめんなさい。ちょっとお手洗いに行くから……」
龍一は占い師の女生徒の声を背中に聞きながら、部室棟へ向かった。
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