第4話 龍堂学園、初ストライカー
「ふ・ざ・け・ん・じゃ・ねぇ! なにが『私がみんなを護るから』だ! 寝言は寝ながらほざけ!」
「鳥居の言うとおりだ! ディフェンダーがこれじゃあおちおち背中を預けられねぇぜ!」
レイダーの順番でいがみ合っていた鳥居と目黒二人が、今度は結託するかのように甲斐に向かって怒鳴りつけていた。
「珠美ちゃん、落ち着いてね」
飛びかからんとする鳥居の体を金剛は前から抱きついて、何とか鳥居を落ち着かせようとする。
二人の叱責を無言で受け止める甲斐。
「稲津さん、金剛さんのように、貴女も目黒君に抱きつかないので……」
”ズン!”
「のおおぉぉ!」
稲津のピンヒールの先端は、場の空気を読まない言葉を放った白鳥の足の甲にめり込んだ。
そして稲津は皆を落ち着かせる為、場をなだめる為に口を開いた。
「まだこっちが一点勝っているし、”初陣”に失敗はつきものよ。見て! 龍造先生も笑っていらっしゃるわ。それに先生もおっしゃっていたでしょ?
『マギカ・バディで、”存分に遊んでこい!”』って!」
そして稲津はみんなに微笑みを向ける。
それに釣られてか、みんなにも笑顔が戻る。甲斐の顔にも。
「それでは”キャプテン”。次のレイダーは誰にするのですか?」
稲津は微笑みながら甲斐に尋ねた。
「目黒君にお願いします。台貴知高校は進学校ゆえ、体力的には他校より劣ると分析します。存分に相手コートを引っかき回して下さい!」
「よっしゃぁぁぁ! 派手にブチかますぜ!」
『龍堂学園のレイダーは十秒以内に相手コートのアタックサークルへ』
《神の眼》からのアナウンスに、目黒は台貴知高校のコートに走り出す。
その背中に向かって稲津は声をかけた。
「武雄! 暴れていいけど自爆だけはしないでね!」
『わ~ってるよ真理! あと、さっきの笑顔、かわいかったぜ!』
目黒は振りかえると”大声で”返事を返し、眼の横で人差し指と中指を立てると軽く振った。
「ばばっっかかじじゃゃなないいのの!! いいままははししああいいちちゅゅううよよ!! ななににいいっっっててるるののよよ!!」
クールな外見と表情から想像も付かない赤い顔と少女のような動揺が、龍堂学園のコート上に満たされた。
「へっへ! さっきはよくもやってくれたな! 倍にして返してやるぜ!」
アタックサークルに入った目黒は、自身を取り囲むメンバーではなく、大技を放って休む為にデッドエンドライン前に立っている、台貴知高校キャプテン(仮)の鬼灯をターゲットにとらえた。
――アンティ側も全員がレイダーに向かって攻撃するのではない。大技を放ったメンバーをレイダーから遠ざけ、休ませる時もある――。
「いたいた。ストライカーたる者、狙うは常に大将の首ってね」
『『『『『マギディ……マギディ……マギディ、マギディ、マギティ! マギディ!』』』』』
目黒の体が味方からの【マギディ】によって蒼く光る。
左足を前に出し、前傾姿勢で構えた目黒は、その口から詠唱を奏でる。
「【加速】……【防御】……拳に【魔力付与】」
――タッチ攻撃する時は、【魔力付与】、またはそれに準ずる術を施した手によってタッチをしなければならない――。
「そして脚には【跳躍】! ……いっけぇ!」
カウントテンを待たずに、目黒は己の体をカタパルトから射出された戦闘機のように、鬼灯に向かって一直線に跳ばす。
「「「「「!」」」」」
予想以上の目黒の射出スピードに、台貴知高校のメンバーは一瞬、対応が遅れた。
(速い! だがウチのチームワークを舐めるな! 【防御】!)
鬼灯は目黒と距離をとりながら腕を前に交差し、【防御】の術を唱え目黒の攻撃に備える。
(
まばたきの間に、目黒の体は鬼灯の目の前から消えた。
どよめく観客、そして唖然とする鬼灯以外の台貴知高校のメンバー。
「や、ヤツはどこだ! どこにいる!」
目黒を捜す鬼灯の耳に、味方からの叫びが届けられる。
「キャプテン! ……あそこです」
鬼灯が眼にしたモノ。
「う! うわ! おっとっと……なんとぉ! これしきぃ!」
それは足を滑らした目黒がよろめきながらも、何とかダウンしないよう片足でケンケンしながら、やがてデッドエンドライン手前にたどり着き、何とか耐えている姿だった。
”ポン!”
一思いにと、鬼灯は目黒の背中を軽く押した。
「うわあああぁぁぁ!」
”ビッターン!”
目黒は受け身もとれず、そのまま顔面から地面に叩きつけられた。
『龍堂学園レイド失敗。デッドエンドラインを越えたことにより台貴知高校1点獲得。龍堂学園6 台貴知高校6』
『うおおおぉぉぉぉ!』
思わぬ自爆点により火山の噴火のごとく沸き上がる台貴知高校の応援席。
そしてそれに負けじと、龍堂学園長、庵堂龍造の馬鹿笑いが競技場に満たされた。
あんぐりと口を開ける、龍堂学園キャプテンの甲斐。
学園長と同じように馬鹿笑いするメンバー。
「あ……あれほど言ったのに」
幼なじみの稲津だけは、頭を抱えてうずくまっていた。
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