第3話 龍堂学園 初アンティ(防衛)
『攻守交代。台貴知高校のレイダーは十秒以内に相手コートのアタックサークルへ。十……九……八……』
「キャプテン頼みます!」
「ファイト!」
台貴知高校のキャプテン(仮)である二年生男子、鬼灯が、味方の声援を背中に受けながら龍堂学園のコート中心にあるアタックサークルへと走る。
そんな鬼灯を見ながら観客の間で
「なぁ、なんで台貴知高校って全員二年生なんだ? やっぱ進学校だから三年は引退したとか?」
「なんでも壮行会の時に料理研究会が作ったローストビーフで部員のほとんどが腹を壊したらしい。火の通しが甘かったとかなんとか……。んで生き残った二年生を筆頭に急ごしらえのチームが作られたんだとよ。しかも唯一の交代メンバーはヒーラーしかいないらしいし……」
「マジか! んじゃ実質両校とも今いるメンバーだけで試合をするのかよ! 龍堂学園はともかく、台貴知高校は名前の割に毎年運がないよな。実力はそこそこあるのによ……」
「でもそんな運も密接に関係するから、マギカ・バディのおもしろさがあるんだけどな」
攻守交代となり、アンティとなった龍堂学園チームは、台貴知高校のレイダーをラインの外へ逃がさないよう、セオリー通り、アタックサークルの円周と各ラインの間に立つ。
ミッドラインには甲斐。
サイドラインにはそれぞれ目黒と稲津。鳥居と金剛のペア。
そしてデッドエンドライン側には、自爆以上の顔の腫れや全身にアザができた白鳥が一人でラインを守っていた。
――アンティ側はアタックサークルに近づきすぎればレイダーの攻撃をまともに浴びるし、かといってラインまで下がると、レイダーを容易に逃がすことになるのである。
それにアンティ側でも、タッチ攻撃は無効だが、魔や術、肉弾攻撃でレイダーをデッドエンドラインから外に押し出せば、アンティ側にも一点が手に入る――。
『『『『『マギディ! マギディ! マギディ! マギディ! マギティ! マギディ!』』』』』
アタックサークルに入った鬼灯の体が、味方の【マギディ】によって蒼く輝きはじめた。
(さすが庵堂龍造先生の門下生……会場の笑いをとりながらいきなり六点も取るなんて……だったらこっちも一発勝負で!)
鬼灯の顔に気合いが入り、体の輝きも増す。
(大技が来るわね……でも、私の【
鬼灯の様子を分析した甲斐は心の中で呟き、そしてみんなに声を飛ばす。
「ディフェンダーの私がみんなを護るから、後は練習通りに!」
返事もできないほど他の五人は緊張しているのか、甲斐の耳にはメンバーからの返事は届かなかった。
甲斐もレイダーの魔術に全神経を集中する。
『【
脚をやや開き
(さすが高校の試合は違う。でもこれぐらいなら!)
「【対魔防壁】!」
甲斐の口から発せられた【対魔防壁】の魔術によって、龍堂学園メンバー全員の前に魔力の盾が展開された。
(よし!)
と心の中で拳を握る甲斐。
しかし鬼灯の放った数十もの【魔炎弾】は直進せず、まるで鬼火のように
(えっ!?)
”ドォン!” ”ドドン!” ”ドンドン!” ”ドドドン!” ”ドゥゥン!” ”ドォォン!”
龍堂学園のコート上を無数の爆炎と爆音が轟いた。
『おおおぉぉぉ!』
台貴知高校らしからぬ大技の成功に、観客の間からどよめきが走り、
”ひょっとして最弱政権交代かも”
と台貴知高校応援団の中からも、淡い期待を描く者が多数現れた。
鬼灯の魔炎弾の直撃を受け、”ゴホッ!”っと咳き込みながらもなんとか立っている甲斐が見たものは、煙を漂わせながらうつぶせに、仰向けに、そして大の字に倒れている五人の仲間と、その屍を乗り越えてサイドラインから外に出て、甲斐に向かって言葉を投げかける鬼灯の姿であった。
「さすが『城壁の姫』と
『台貴知高校レイド成功。龍堂学園6 台貴知学園5』
『ううぅおおぉぉ!』
台貴知高校の応援団が、早くも勝利の雄叫びを競技場中に轟かせた。
格好つけて甲斐に向けて言葉を放った鬼灯だが、すぐさま心の中で冷や汗を流しながら呟いた。
(うっそぉ! 練習以上に完璧に決まっちゃうなんて! え? ひょっとして今の俺、ちょ~かっこいいってか! いや落ち着け……これは我が台貴知高校に”運”が向いている
「龍造先生……うちのチーム、大丈夫ですよね?」
龍造の後ろに座る風紀委員長の一年女子、《
「ぐわっはっはっは! 確かに台貴知高校は”運”を味方につけちょるが、ほんだからといって全ての”幸運”が台貴知高校に向いておる訳じゃないだがね。台貴知高校の最大の”不運”、それはのぅ~今日が《
悪運を払い飛ばすような破顔を、龍造は竹ノ内のみならず応援席全てへと向けた。
「赤口って、六曜の赤口ですか? 全てがうまくいかないっていう……」
「そうじゃ。ほんで”火”を使うのも縁起が悪いとされちょるし、お昼以外も凶じゃ。はてさてこの勝負、近年まれに見る”迷”勝負となるだがね……」
まるで全てを”予知”しているかのように、龍造の二つの”眼”は、妖しく競技場内を睨んでいた。
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