第2話 龍堂学園 初レイド(攻撃)
『ただいまより、全国高等学校マギカ・バディ選手権夏大会 地区予選一回戦。龍堂学園 VS 台貴知高校の試合を開始します』
《神の眼》から発せられた試合開始の合図によって、観客席からは応援と歓声が響き渡る。
『よろしくお願いします!!』
両校一礼のあと、《神の眼》が操るゴーレムによるコイントスによって先攻を選んだ龍堂学園。
しかしそのコート上では……。
「先陣は武人の誇りだ! まずこの俺に行かせろ!」
「ろくに魔や術の攻撃を防げない脳筋野郎は、アンティの時だけ暴れていればいいんだよ!」
試合前の緊張した空気を打ち砕くように、目黒と鳥居の罵声が相手コートのみならず観客席まで届いていた。
観客席の一部から苦笑と失笑のさえずりが奏でられる。
「稲津さん……」
「ごめんなさい金剛さん。私、脳筋馬鹿には関わりたくないの」
目黒の幼なじみである稲津に場を収めてもらおうと金剛は声を掛けるが、あきれたように稲津は背中を向けた。
「やれやれ……最大の敵は味方とはよく言ったものです。始まる前から仲間割れとは……。所詮、我等は結成して二ヶ月足らずの急ごしらえのチーム。それにお一人を除いてルールすらおぼつかない輩……。それをまとめる人間にはいささか力量、いや人徳不足ですかな? おっと、これは失言……」
斜めに構えた白鳥がチームの現状をまるで他人事のように語る。
まるで誰かを責めるように……。
しかし甲斐は白鳥の皮肉すら魂の高揚に変換し、メンバーに向かって宣言する。
「キャプテン命令です! 先陣は白鳥君でお願いします。まさかできないとは……言わないわよね」
白のドレスをどす黒く染め上げる漆黒の闘気が甲斐の体を包む。
その妖しく光る眼、歪んだ唇。粘っこく白鳥の耳に纏わりつく”魔女”の声。
龍堂学園のメンバー、そして会場の誰もが頭の片隅にある、甲斐登喜子と言う名の女生徒の名。
昨年度、全国中学選手権夏冬連覇をなしとげた、《
「御意!」
指名された白鳥は先ほどの皮肉もどこへやら、甲斐に向かって恭しく片膝をつき、キャプテンの御意に従った。
『龍堂学園のレイダー(攻撃者)は十秒以内に相手コートのアタックサークルへ。十……九……八……』
《神の眼》の指示により、白鳥は台貴知高校のコート中心にある半径十メートルの円、《アタックサークル》へと駆ける。
(フフ……会長も粋な計らいを。ここはいきなりの大技で皆の度肝を抜くのが得策ですね)
白鳥が相手コートへ入った瞬間、レイダーである白鳥より放たれた術が観客席へ飛び込まないよう、《神の眼》によって台貴知高校のコートが無色透明の【
「みんな、【マギディ】の準備を。練習通りにやればきっとうまくいくから」
甲斐の掛け声によって、龍堂学園の他のメンバーは、白鳥に向かって魔力供給呪文、【マギディ】の準備を始める。
人によってポーズはいろいろあるが、龍堂学園のメンバーは基本の型であり、カバディと同じように腕と脚を大の字に広げ、やや腰を曲げパラボラアンテナのようにその体を白鳥へと向けた。
そして白鳥がアタックサークルに入った瞬間、メンバーの口から絶え間なく【マギディ】が唱えられた。
『『『『『マギディ……マギディ……マギディ、マギディ、マギティ! マギディ!』』』』』
『アタックサークルに入ったレイダーは十秒以内に攻撃を。十……九……八……』
レイド開始とも言える《神の眼》のカウントダウンが場内に響き渡る。
アタックサークル内の白鳥の体が、味方から供給される魔力によって蒼く輝き始める。
白鳥はシルクハットを脱ぎ、ステッキを掲げ高らかな雄叫びを上げた。
『いりゃぁ~せ~よっとりゃぁ~せ~! この帽子の中から出てくるのはウサギか、はたまた薔薇の花束か? ……そんなわけありゃ~すか! 白き炎の鳥に決まっとるだがね~!』
白鳥がステッキでシルクハットを”七回”叩くと、炎の鳥が”七匹”シルクハットから飛翔し、一直線に台貴知高校のメンバーを襲った。
「「「「「「!」」」」」」
いきなりの大技に驚く台貴知高校であったが、いくら弱小高でも伝統と経験だけは新設校である龍堂学園の比ではない。
レイダーの攻撃がアタックサークルを出なければアンティ側はレイダーに対して攻撃できないため、台貴知高校メンバーはすぐさま防御姿勢をとる。
己の体に【防御】の魔術を唱える者。
腕を顔の前にクロスさせ、例え直撃してもダウンしないよう脚を踏ん張る者。
ギリギリまで引きつけてすんでの所で交わそうとする者。
しかし白鳥が放った炎の鳥はそんな台貴知高校の悪あがきをあざ笑うかのように直前で旋回して背中へ、頭上へ、そしてお腹へ向かって飛ぶ。
『ドドドドドドォォォォォォーーーーーーンンンンンン』
”六つ”の爆発音がコート上にこだまする。
灰色の煙を纏った台貴知高校のメンバーが一人、また一人と灰が崩れるように倒れていった。
「ハッハッハ!
いきなり相手メンバー全員をダウンさせ、高笑いする白鳥の頭上に旋回する”七匹目”の炎の鳥。
敵を見失った炎の鳥は、白鳥を新たな目標として一直線に舞い降りた。
それに気がつく龍堂学園のメンバー達。
しかし、レイド側のメンバーはレイダー以外【マギディ】以外の言葉を発するのが禁止されている。
観客もあっけにとられて、昭和のバラエティー番組のような掛け声を白鳥に向ける者は誰もいなかった。
「ハッハッハ!」
”ズドォォォン!”
馬鹿笑いする白鳥の頭上に落ちる炎の鳥は、これまで以上の爆炎と爆音を白鳥の体から噴き上がらせる。
これも昭和のバラエティー番組のように、口から灰色の煙を吐き出しながら自嘲気味に白鳥は呟いた。
「ふっふっふ……そう来ましたか。……そういえば……ウチのチームが六人でしたから……相手チームも六人でプレイするのでしたね……」
(((((馬鹿だこいつは……)))))
【マギディ】を唱えるのすら馬鹿らしくなるほどの白鳥の所行に、龍堂学園のメンバーは同時に同じ言葉を心の中で呟いていた。
――マギカ・バディのルールではいくら相手チームの選手にタッチしたり、ダウンさせても、センターライン、サイドラインを越えなければ、タッチやダウンさせた分の点数を得ることはできない。
また敵に一点を与えても良いなら、デッドエンドラインを越えても良い――。
ここまでしてダウンしては元も子もないと、白鳥は何とか体を引きずり自軍のコートへと戻ることができた。
『龍堂学園レイド成功。龍堂学園6 台貴知学園0』
『いやったぁ~!』
龍堂学園のコート、そして応援席からも歓声が上がる。
学長である龍造も立ち上がり、まるで子供のようにはしゃいでいた。
「ふっ! これしきのこと、この白鳥羽斗の手にかかれば……」
歓声を上げながら笑顔で白鳥の回りに集まるメンバー達。
しかし白鳥を称える為、伸ばした手には明らかに殺意がこもっていた。
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