いつも隣にいてくれたね。

 全てが終わった例の異変。

 私たちはバスに乗り込み、この地域で戦っていたフレンズ達の様子を見に行くことにした。


 バスを走らせること10分、ここまで走って見えたものは何もなかった。そう、それはあの黒セルリアンも見えなかったということ。


 そして更にバスを走らせ山を抜けた時、そこにはたくさんのフレンズがいた。


 私とミライさんはすぐに誰もいなくなってないかをチェックして、確認した。


 誰も居なくなってなかった。

 良かった。しかし、心は未だ、大きな穴が空いていた。


 もはやキョウシュウエリアはパークとしての機能を持たなくなっていた。

 黒セルリアンこそ消えたものの、ただのセルリアンが大量に発生し、居住区にまで進出するようになってしまった。

 そのため本部はここを破棄するのですぐに撤退するようにと私たちに通達した。


 反対した。当然だ。私たちはセーバルを待たないといけないんだ。決してここから離れる事なんてできない。


 しかし、トップ直々に私とミライさんに連絡がよこして、辛いのは分かる。でも、もうこれ以上犠牲を出したくないんだ。もう、あのような悲劇を起こしたくないんだ。頼む、君たちまで居なくならないでくれ!と言われてしまった。


 その声は震えていた。鼻をすする音なんて何度も聞こえた。フレンズが大好きなあの人の事だ、あの日五人のフレンズが居なくなってしまった事を聞いて、心は限界に達していたのだろう。

 私はまた自己嫌悪に陥っていた。すると、突然後ろからマカセテと、機械の音声が聞こえて来た。


 振り向くとそこにはラッキーがいた。


「ボクハ セルリアンニタベラレナイ。 ダカラ セーバルタチ ノ カエリヲ マツコトガデキルヨ。ダカラ ボクニマカセテ。」


「ラッキー、でもそうすればキミは…。」


「カマワナイヨ。ボクタチハ イッパイイルカラ サミシクナイヨ。ダカラ アンシンシテ。」


「…………。」


 結局私たちはラッキーの手を借りる事にした。

 何か異常があればすぐに呼んでくれと伝えて、ラッキーをこのキョウシュウエリアに置いて行くことにしたのだ。


 そしてここから離れる最後の日。

 ミライさんが私に観覧車に乗りませんか?と誘って来たが断っておいた。…あの山を出来る限り見たくなかったから。


 私は近くにあったベンチに座り込む。

 そうすると疲れが一気にドッと押し寄せて来た。

 なぜか閉園のBGMが流れ出した。普段は楽しい曲なのに、オルゴールにしてるせいで悲しい曲となっている。


 涙が出そうだ。でもそんな時は、あの山の虹を見る事で抑えた。必死で。


「……あぁ、私はまるで囚人のようだよ。」


 虹に囚われた囚人。泣こうとするたびにあのセーバルが脳裏に浮かんで私を止める。


 もう、疲れた。なにもかも。


 ゆっくりと目を閉ざそうとする。


 ……なんだろう、このまま目を閉じたらずっと起きれなくなる気がする。

 でもきっとそんな事はない。また目は開いて1日が始まるんだ。何度も。何度も。変えようのない現実に打ちのめされるんだ。


「ここにいたんだ、園長。一緒にジャパまん食べよ!作りたてだよー」


「……サーバル。」


「えへへ、隣、座るね。」


 私の座っていた場所のすぐ隣にサーバルが座って私にジャパまんを渡す。

 ……渡されたジャパまんは暖かかった。けど、隣に座っているサーバルが私の膝に頭を置く。そっちの方が、暖かかった。


 空はあの時のような黒ではなく、鮮やかなオレンジの夕焼けが支配していた。


「…………ねえ、園長」


「初めて出会ってから今まで、いろいろな出来事があって、たくさんの思い出ができたね」


「ガイドさんともすごく仲良くなったし、いーっぱいの仲間たちにも会えたし、私の大切なトモダチも一人増えたよ!」


 ………?なんだ?おかしいような、でも、居心地がいいから、このまま。


「ほーんと、北へ南へと大冒険だったね。ずいぶん遠くまで行ったものだよ、うんうん」


「でも、まだまだジャパリパークには、私たちの知らないフレンズがたくさんいるんだよ!」


「園長。これからもずっと一緒に探検しようね!約束だよ!さあ、行こう!」


 ああ、行こう!行けばきっとみんながいる。あっちにみんながいるんだ!

 私はサーバルに手を握られて引っ張られる。そして私も立ち上がろうとした時、私の膝で寝転んでいたサーバルのせいで立ち上がれなかった。










 は?
















「………お前、誰だ!」


「………何言ってるの?私はサーバルだよ!」


「嘘をつけ!お前の手は嫌に冷たいし、よくよく見たらお前はサーバルじゃない!いったい誰なんだ!」


「……楽になりたいんでしょ?だったら私について来なよ、そうすれば、みんなに会えるし楽しい毎日を過ごせるよ。」


「確かに、楽になれるかもしれない。私もそう願っていた。でも、みんなを捨ててまで楽になろうとは思わない!」


「嘘つき。あなたが今も願っていたから、こうなっているのに。」


「惑わされないぞ、私がこう思えていて、状況が変わっているって事はその願いを棄てたという事だ。だから、もうお前の助けはいらない。」


「………そう、なら良かった。」


 途端、サーバルの姿が崩れていき、私がそこに浮かび上がる。その顔はまっすぐ私を見つめていた。


「……きっと、また取り戻してみせるさ。逃げも隠れもしない!」


「その意気だ。でも、忘れないで、サーバルがいたから、キミは助かったんだから。」


 私は膝の上で寝ているサーバルを見つめる。すーすーと規則正しい寝息を立て、こんなに騒いでいるのに起きようとしない。


「もう忘れないよ。私は一人じゃない。みんながいる。ありがとう、気づかせてくれて。」


「……さようなら。」


 目の前の私は静かに消えてゆく。その塵は空へと舞い上がった。


 自分の頰をつねる。するとすぐに目が冴えてきた。膝の上でサーバルが寝ている。私の片手にはジャパまん。急いで食べて、サーバルの頭を撫でた。


「ん、……園長、起きたんだね。」


 サーバルが静かに目を開けて私を見つめる。


「うん、おはよう。サーバル。」


「ーーーーーありがとう。」


「え?私なにかした?」


 サーバルがとっても不思議そうな顔でこっちを見てくるが


「ううん、なんでもない。」


「えー!教えてよ!何があったのー?」


「教えなーい。」


「園長の意地悪!」


 黙っておいた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


いよいよ船出の時だ。

港には二つの船が浮かんでおり、私たちはその片方に乗り込む。もう片方はラッキーが私たちに連絡が出来なくなった時のために残していくそうだ。


「ではみなさん!行きましょうか!」


「「「「「「「おーっ!」」」」」」」


さぁ、行こう。

きっと、希望はあるさ。

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