雨の中の虹
そう、美しい光景だった。
しかし、なんだろう。
この光景何処かで見たような?
「うっ…!?」
頭痛がする。
かなり頭が痛くて頭を抱えて跪く。
「うぅぅう、ぅあ!?」
そして、思い出した。
決して思い出したく無い絶望を。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「そうです!パッカーンといきましょう!」
「そうだよ!パッカーンだよ!」
サーバルが慌ただしく入った部屋の中からそんな会話が聞こえてくる。
私は準備を終えたのでそのまま部屋に入って2人に言った。
「さ、決心もついたし、いきましょう!きっと私達なら勝てる!」
「うん!園長がいれば私たちの前に敵なしだよ!」
「ふふっ、では園長さん!運転は任せます!」
「わかりました!任せてください!」
私とミライさんとサーバルはすぐにロッジを出るとそのまま車に乗り込んだ。
ジャパリパス、見た目はサファリバスだが内装は素晴らしいテクノロジーの宝庫であり、今まで一緒に旅をしてきた宝物だ。
「じゃあ、行きましょうか!」
「ええっ!」
「レッツゴー!」
私は運転席に乗り込み、ミライさんは私のすぐ後ろへ着く。サーバルは屋根に開いたまんまるの穴から飛び出す。
最後にこんな風な意気込みをすると、何がおかしかったのか、三人で笑いあった。
………三人で笑いあったのは、これが最後だった。
あの黒いセルリアンは絶望的に強かった。
何度削っても削っても、やはり再生する。
四神の力でこの忌々しい山を封印せねば打つ手はない。
私はカラカル達を乗せて、すぐに火口を目指した。四神の援護をするために。
火口付近に着くとそこには恐ろしいモノがそこにはあった。
黒く、溶岩のようなドロっとしたモノ、いたるところに目があり、それらは全て私たちをギョロリと見ていた。
「これが、セルリウム…。」
圧倒的な威圧感、見上げるほどの大きさ、それはあの女王すらも超える。アレを目の前にして、誰も動けなかった。
アレと睨み合う沈黙の時、突如後ろのほうから聞こえてきた瓦礫を退ける音に私たちは目を向けた。
するとそこに居たのは、ボロ雑巾のような羽を持った、薄汚れた赤色のフレンズ。
それがかつてあれほど美しい羽を持ち、炎を連想させるような綺麗な赤色と白色の衣服を纏ったあのスザクだと気づくのに時間がかかった。
「す、スザクさん…大丈夫ですか!?」
ミライさんがそう言って心配そうにする。するとスザクはゆっくり立ち上がり、今にも倒れそうな姿でこちらを見てこう言った。
「ぅ、ふふっ、どうしたのじゃ?このような場所で立ち往生していると危ないぞ?」
初めて会った時を思い出す。
あの時のスザクはもっと綺麗でもっと強い存在であった。しかし今ではもうそのような事を彼女を見て考えることは出来なくなっていた。
「そ、そんな、私たちの心配より自分の心配をしてよっ!」
サーバルが大声を出してスザクに近づこうとする。が、
「ふん、お前らに心配される程、まだ我は堕ちてはおらぬわ!」
途端、スザクは真っ赤な炎に包まれる。まるで私たちの助けなどいらないと言う風に、その炎はそれなりに離れている私たちの肌に汗が出るほどの熱風を吹かし、雲を貫く火柱を創り上げた。
「くぅっ、よいか!我はこれから全ての力を使ってあやつを封じ込めるっ!お前らを巻き込みかねない程大きな炎が出るだろう。早急にここから離れよ!」
その炎の柱に呼応するように、また別の場所で三つの大きな音が聞こえる。
あのおぞましいモノの左側には白い服を着たビャッコ。
右側には青い服を着た龍の尾をもつセイリュウ。
向こう側には姿こそ見えぬものの凄まじい爆音を鳴らし地面を抉るゲンブ。
「っ!みなさん、ここから撤退です!付いて着てください!」
このままここにいたらスザクの言った通り、巻き込まれる。私は急いでミライさんに続いてここを離れた。
「………行くぞ!」
そして始まった
壮絶な戦いが。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今は見晴らしの良い崖というか、周りよりも高い場所にいる。
目の前には火口が見えて、四神達が戦っている様子がよく見える。
随分遠くまで離れたものだ。
これほど離れなければならない程、四神とセルリウムとの戦いは激しかった。
四神の活躍でアレは随分と小さくなった。
しかし封印は上手くいっていないようだ。
「ねぇ園長!このままだとまずいよ!」
優勢だった四神も徐々にアレに押されて着ている。
このままでは間違いなく四神達は負けて、封印は失敗し、このキョウシュウエリアはアレに飲み込まれるだろう。いや、もしかしたらキョウシュウエリアだけじゃすまないかもしれない…!
必死に考える。
どうすればこの状況を打破できる!
どうすればスザク達を助けられる!?
しかし、何も思いつかなかった…。
そんな時、自分の後ろで誰かの足音が聞こえた。
すぐに今行ってもどうしようもできない。と言ったが、その足音は止まらない。
なんだと思い、後ろを振り返ると、そこにはセーバルがいた。
「…………ぁ、」
そして思いついた。思いついてしまった。
この状況を打破できる方法を。しかしそれは…!
「ダメだセーバル!絶対に行かせない!」
「ど、どうしたの園長?」
「みんな!セーバルを止めてくれ!セーバルは自分を犠牲にしてアレを封印するつもりなんだ!」
「!?」
みんなは驚く。
私はすぐにセーバルを抑えにかかるが、フレンズの力には敵わず、あっさりと抜け出された。すでにセーバルは羽を大きくして飛び立とうとしてる…!急いで止めなくては!
すると、視界の隅に一つの影が映る。
それはサーバルだった。
サーバルはすぐにセーバルに追いつくとがっちりと抱き締めた。
「セーバル!セーバル!そんなのダメだよ!他の方法ならきっといっぱいあるよ!だから、だから行かないで!」
「………さーばる。」
「今セーバルが行かないと、きっともう誰も笑えなくなる。セーバル、そんなのイヤ。」
「今行っても…、っ!私たちは笑えないよ!」
涙をポロポロ流すサーバル。
セーバルはサーバルの腕をほどき、サーバルと向き合う。そして、頭を撫でた。
「よしよし、よしよし、泣いちゃダメ。セーバル悲しくなる。」
「じゃあ、じゃあっ!行かないでよ!」
「…それも、ダメ。」
「じゃあ、どうすればいいの?」
「………笑顔で、見送って。」
「セーバル……。」
セーバルは頭の虹色の羽を大きくする。
そして、ゆっくりと飛び上がった。
「……うんっ、分かったよ。泣かないからさ、絶対に、ーーーー絶対に帰って来て。」
「うん。帰ってくる、だからみんな笑ってて、絶対に。約束だよ。」
……いや、帰ってこれない。このまま行くとセーバルは絶対に帰ってこれない。私はすぐに止めに入ろうとするが、ミライさんに肩を掴まれた。
「園長さん、……信じましょう。セーバルさんならきっと、きっと帰って来ます!」
「ミライさん…そうは言いますが!」
「それに、もう、もう……っ!これ以外にもう方法がないんです。」
「………!」
その言葉を言うのにどれだけ心を痛めたのか、ミライさんは今にも大泣きしそうな表情だった。でも、セーバルの約束を守るために必死でこらえてる。
私は、ミライさんにこんな思いをさせた自分を心底憎み、殺したくなった。
しかし、今はこんな汚らしい感情を持つべきではない。私は自分の心を浄化して、静かに立ち上がる。そして自分の作り出せる一番の笑顔でセーバルに言った。
「セーバル、………行ってらっしゃい。」
「………うん、行ってきます。」
セーバルは羽ばたいて、山頂へと向かった。
「セーバルーッ!頑張って!ルル、応援してるから!」
「セーバル、私はあなたが帰ってくるときに迷わないようにあなたの歌を毎日歌って道しるべとなるわ。だから帰り道の心配なんてしないで、全力で頑張って!」
「セーバル!あんたがいなきゃサーバルが壊れちゃうから早く帰ってくるのよ!」
「セーバル!今度帰ってきたら私のお気に入りの温泉を紹介するわ!源泉掛け流しのすごいやつよ!期待してて!」
「セーバル様!貴方はどんな時でも一人じゃありませんわ!もし辛くなったら、いつでも呼んでください!そうすれば、何処からでもこの私が駆けつけますわ!」
「セーバルさん!帰ってきましたら、また楽しい日々を暮らしましょう!このパークガイドが全力でサパートさせていただきます!」
「セーバル!私、約束守るから!ずっとずぅーっと!笑ってるからさ!だから!」
「だから、………帰ってきてね!」
遠くに見えるセーバルの姿。
黒く雷の音が聞こえる雲に負けないぐらい虹色に輝いていた。
「ちゃんと聞こえたかな?」
「きっと聞こえてるわ。だから安心なさい。」
「うん。」
私たちはいつまでもセーバルを見つめていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「この!このぉ!くっ…、もっと力が残っておれば!」
「手伝いに来たよ。」
「!?、なぜお前がここにいるのじゃ!早く立ち去れぃ!」
「このままじゃきっとアレを封印できない。だからセーバル手伝うよ。」
「………、もしお前が手伝えば、もう戻れなくなるぞ。ずっと孤独で、居なければいけなくなるのじゃ。それでも構わぬのか?」
「大丈夫、セーバル約束した。きっと帰ってくるって。みんなも待ってるから、早く帰らないと、ね?」
「…ふんっ、自分が情けないわ。自らを守り神と名乗っておきながらこの様な者を巻き込むとは。………力、貸してもらうぞ。」
「うん。」
「よし、我らがアレの攻撃を抑える。」
「わかった、ありがとう。」
「……では、行くぞ!」
スザクが一気に力を解放し、セルリウムの攻撃を迎え撃つ。その隙にセーバルはセルリウムの大元、すなわち火口へと一気に近づく。
そして、辿り着いた。
(サーバル、みんな。……ばいばい。)
セーバルは火口へと身を投げた。
そして、結晶となった。
セルリウムはその恐ろしい姿を綺麗な結晶へと身を変えてゆく。
「よし、今じゃ!アレを封印し、2度とこの世にあの薄汚い黒色のサンドスターを出さぬようにするのじゃ!」
四神達の姿は一斉に眩い光に包まれる。
光がなくなったとき、そこに残っていたのはフレンズの姿ではなく、石版であった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
全部、結晶になった。
あんなに気持ちの悪かったセルリウムが、全部、虹色に輝くサンドスターになった。
あの後私たちは火口へと向かった。
そこには見上げるほどの大きな綺麗な虹色に輝くサンドスターの結晶と、神々しい石版が東西南北に落ちていた。
みんなきっと泣きたかった。
この異変が起こるまで、みんな一緒に楽しい事をしていたのに、セーバルも、四神達も、みんな笑いあっていたのに、この日、全てをぶち壊されたのだから。
でも、泣けなかった。いつまでも私たちの心に残り続けたあの虹が、私たちの心を縛り付けたから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます