ついに…

「…園長、セーバルはどこにいるの?このままだと巨大セルリアンを先に倒すことになっちゃうよ。」


 サーバルが園長に向けて不安そうな声を出す。

 今園長達は広大なサバンナの地を歩き続けていた。太陽はその姿を赤く染め、また空も淡いオレンジ色へと姿を変えていた。

 目的地まであと少し、崖もすでに見えている。故にサーバルはこのままではセーバルと一緒に冒険ができないと、焦っていた。

 一方、園長はギクリととした様子で無言でただ崖を目指して歩き続けていた。園長は焦っていた。


(どうしよう、これ以上は隠せないかな?巨大セルリアンなんて最初から居ないって、くぅっ、自分の不器用さを恨むよ。………こんな時、ミライさんならどうやって解決するのかな。)


 園長の心は彼女達に秘密を隠していることで罪悪感がいっぱいになって、押しつぶされそうになっていた。

 たまに彼女達が仲良くお喋りしていても園長はうん、あはは、などと相槌を打つだけで積極的に話に参加しなかった。

 しかし、この後にステキな事が待っていて、それでみんな笑顔になると思うと、園長の心は更に強くなった。


(後少し、後少しなんだ…。セーバルのサプライズを成功させるためにも、頑張れ!私!)


 園長はその場しのぎの言葉をサーバルに伝えた。


「大丈夫、もうすぐ会えるから。」


 優しくて、どこか暗い表情を持つ園長がそう言うと、サーバルは園長を信じる事にした。


 そして、ついに…


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「わあぁ、きれい!見て見てみんな!とっても綺麗だよ!」


 崖の上から見る碧とオレンジのグラデーションがかかった海に落ちていく夕日、その光景はここまで歩いてきた旅人達の心を夕日がしっとりと癒していくのだった。


「うん、とっても綺麗。セーバルもそう思うよ。でも、みんなと見る夕日はもっと綺麗。」


「うんうんそうだよね!…セーバルと一緒に見たかったなぁ。」


 サーバルは一人、目の前の絶景に自身の願いをその口から零していた。

 一方、カラカル達はその顔を驚愕の色へと染めていて、その口はただ開けられていただけだった。

 やがて静寂に気づいたサーバルが後ろを見る。


「………セーバル?、…!?、セーバル!?いつの間に!」


「…気づいてなかったんだ、すごーい。サーバルは相変わらずドジっ子。」


「え!え!ご、ごめんね!気づかなくて…。」


 ちょっとムッとして背中に手を組んで体をサーバルから逸らすセーバルに、慌てて謝るサーバル。

 それを少し見たセーバルは少しニコリと口を動かすと、すぐに体をサーバルに向けた。


「別に気にしてない。だってサーバル、この景色を見てもセーバルの事忘れてなかったから。」


「……、えへへ、じゃあ、一緒にこの景色を楽しも?ねっ!」


 うん。そう小さく呟いたセーバルはサーバルの左へと並ぶ。


「全く、気づいてなかったなんて、サーバルはほんとに」


「ドジっ子だって?うふふ。」


 カラカルが少し驚いて前を見るとそこには夕日に背を向けて、手で口元を隠し、からかうように笑うサーバル。


「…、ふふ、にゃに言ってんのよ、私はあんたに本当に可愛いんだから。って言おうとしたのよ。」


 その言葉に逆に驚かされたサーバルは、顔をうつむけ、顔を赤く染めた。そんなサーバルを見て満足げなカラカルはサーバルの右に着いた。


「みんなが揃うってやっぱり気持ちのいいものね。この想いを歌にして歌っちゃおうかしら。」


「「「それはダメ!」」」


 ネコたちに反対を受けたトキは怯まずにむふふ、と歌の歌詞を考えながらカラカルの隣へ。


「あたしね、思うんだ。みんなに出会えて本当に良かったって!だから、ありがとう!」


 夕日のせいか、あるいは自分で顔を赤く染めているのか、そんなルルはトキのそばへ立つ。


「そうですわね。このジャパリパークの平和を共に守ることのできる友と出会い、行動を共にするというのはとても嬉しいですわ!」


 セーバルの左手の方へ立ち、ぶんっと勢いよく夕日へ向けて槍を振るう。その真っ直ぐ夕日へと伸びた槍は、友と共にこのような景色を生み出すジャパリパークを守ろうという強い意思を感じさせた。


「本来私は園長を助けるために旅に同行していたわ。でも、一緒にした旅はすごく楽しかったわ。つまりは、その、私もあなた達と出会えて良かったって事ね。」


 恥ずかしいのか、変装用の丸メガネをつけたギンギツネはその長い髪をふわりと揺らしながらシロサイの方へと歩み寄る。


「みんなのことは今も変わらないが初めはライバルだと思っていたのだ。でも、“仲間”として旅に付き合ってやるのも悪くないのだ!」


「アライさん、もう少し素直になりなよー。」


「むむ、フェネックこそどうなのだ?」


 ニヤリと笑うアライさんにきょとんとしたフェネック。


「…私は、アライさんが居ればどこへでも。」


 ボソリと呟いたフェネックの言葉をアライさんは聞き取ることができなかった。


「もう少しはっきり言うのだ!」


「いや、今はみんなが居ればどこでもいいかな?」


 サーバル達の方を見ながらウィンクをするフェネック。その姿にサーバル達は少し笑った。


「フェネック!アライさんに何か隠してないか!?」


「何にも隠してないよー、アライさん。」


 フェネックが先にギンギツネの隣へと移動すると、アライさんも慌てて追いかけてフェネックの隣へと走り寄った。


「…ふぅ、成し遂げたよ。ミライさん。」


 ようやく心の荷が下りた園長は休みながら少し後ろの方で彼女達をぼんやりと眺めている。そこへ歩いて来る人影二つ。


「手伝ってくれて本当にありがとうございます!園長さん!」


「うふふ、園長さん、お会いできて本当に嬉しいです!」


 園長が振り返るとそこにはいつもの帽子をかぶったミライさんに、心から嬉しそうに尻尾を揺らすオイナリサマがいた。


「………、はぁ、大変だったんですよ?」

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