セーバル、不在
さて、気を取り直して早くセーバルを探したいところだが先にこの二人に聞いておかなければいけない事がある。
「ねぇねぇ、二人はどうしてここにいるの?それにさっき聞こえたんだけど巨大セルリアンって…。」
「私たちはさっきまで巨大セルリアンがいるって言う場所まで行こうとしてたのさ、でも途中で“すごい歌”が聞こえてきたと思ったらセルリアンの群れが見えたからさ、アライさんが突っ込んで行っちゃったのさ。」
「ふっふーん!アライさんは無敵だからどんなにセルリアンが固まっててもへっちゃらなのだ!」
「…それって巨大セルリアンの退治を誰かに依頼されたって事よね?誰からされたの?」
「やー、それが珍しいことにガイドさんからでさー。報酬をいっぱいくれるんだって。」
ジャパリパークのセルリアン退治は基本的にそのセルリアンが現れた近くにいるフレンズに任される。このとき、依頼したヒトの主な仕事は依頼を受けたフレンズたちのまとめ役である。
そしてフレンズ達がセルリアン退治に協力した時、倒したセルリアンの数、強さから報酬が増えたりするのだ。
報酬の内容はお菓子や、お店の商品や食べ物引換券など、様々である。
このシステムによってフレンズと職員の絆をより強固なものとなるのだ。
さて、どうしてミライさんが依頼するのが珍しいのかと言うと、実は私もよくわからない。それどころかこの会話を聞く前までミライさんが最近彼女達と行動を共にしていなかったことすら知らなかったのだ。
「でももしそれだとまとめ役はどうなってんのよ。」
カラカルが質問をするとアライさんが元気いっぱいに口を開けて答えた。
「ミライさんが園長をまとめ役にすると言ったから園長がまとめ役なのだ!よろしくなのだ!」
「…もしかして園長ってガイドさんに仕事を押し付けられてる?」
トキがこちらを見つめ、首をかしげた。
いやいや、そんなことないよ。と、答えるも、わたし自身そんな気がしていたので断言できず、後にたぶん…と付け足してしまった。
一体なぜミライさんは私をまとめ役に指定したのだろうか、私はパークガイドではなくカメラマンだと言うのに…。
しかし、だからと言ってミライさんに不満が溜まることは無く、むしろ感謝すらしていた。最近こうやって彼女達と行動することが出来なかったからだ。
…とはいえ、怪しすぎる。
少し私が目を閉じていろいろ考えていると、カラカルに声をかけられた。
「園長、何か考えるのは後にして、先にセーバルを探しましょ?時間も約束の時間まで近づいてきてるんじゃないかしら。」
私は時計を見てみると、時計の数字は14:35と表示されていた。
私は皆に声をかけると、トキが岩を見つけた方向へと進みだした。
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岩と大量のジャパまんはすぐに見つかった。しかしセーバルの姿はどこにもなかった。
「セーバルー!居たら返事してー!」
しかし何処からも声は帰って来ず、ただ風が吹き抜けるだけであった。
トキが上空から探したが、セーバルの姿は確認できなかったようだ。
サーバルはガッカリとした表情で、せっかくみんな揃うと思ったのに…と呟いていたので、私はサーバルの頭を撫でてやった。そして、もうすぐ会えるよ。と、伝えておいた。
本当!?そう言うサーバルの顔は先ほどとは違い、希望に満ちた満面の笑みが浮かんでいた。
さて、ここにいない事は確認出来た、いるのは間違いなく"あそこ"だろう。
確信を持てた私はサーバル達に集合場所に戻ることを伝えて、歩き出した。
当然だが、トキとカラカル、フェネックは私に疑問投げかけた。
「戻るにはまだ早すぎないかしら、まだ空から確認出来てない場所もあるわ。」
「そうよ園長、私達も、まだ岩の辺りを探しただけじゃない。」
「だねー。どうしてこんなに早く切り上げるのさ?」
セーバルの場所が分かった、そしてセーバルはここにはいない。だから集合場所に戻るよ。と、私が断言すると、彼女達はみな驚いた顔をしていた。有無を言わさず私が歩き出すと、皆も思うところはあっただろうが付いてきてくれた。
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集合場所には園長率いるセーバル捜索隊の姿があった。捜索隊が何も話さず、無言で佇んだいたせいか、空気はとても悪くなっていた。
カラカル、トキ、フェネックは園長に不満の目を向ける。サーバルはこの空気の悪さに少し身を縮こませて、オロオロしていた。
そこに突然声が響き渡る。それはあまりの居心地の悪さに耐えきれなくなったアライさんの声であった。
「みんな何をそんなに怖い顔をしているのだ!どうしてそんなに園長を見つめるのだ?」
一瞬驚いた彼女達であったが、すぐにアライさんの質問に答えた。
「簡単な話だよ、アライさん。園長がなぜかセーバルの居場所を知ってるのに私たちに何も喋ってくれないからさ。」
「ほんっと、園長はどうして何も言ってくれないの?」
カラカルとフェネックのだんまりを決めた園長への不満は徐々に高まっていた。
そこにトキの一言が入る。
「園長…、何に気づいたの?」
その一言に園長の顔は驚き、焦りが浮かび出した。
そして、園長は静かにこう言った。
「…今は話せない。けど、約束するよ。セーバルには私にしっかりついて来てくれればちゃんと会える。だから、今は私を信用してついて来てくれないかな?」
園長のこの何の根拠もない言葉を信用するのは、一般的に考えればあまりにも難しいものだった。
しかし、彼女たちは違った。
彼女たちはその言葉を聞くとにっこりと笑った、そしてその中を代表するかのようにサーバルは一歩前へ出て、言ったのだった。
「何を今更言ってるの?園長を信用しないわけないじゃん!だからね、…どこまでもずっとずーっと、ついて行くよ。」
そう、今更なのだ。
今までの旅の中で彼女たちと園長の絆は決して解けない物となっていた。それはたとえどんな困難に遭っても千切れない絆。
そんな絆で結ばれた相手をどうして疑うことが出来るのか?いや、出来るはずがないのだ。
そもそも彼女たちは園長が何かを隠していてもここまで気を悪くすることはなかった。気を悪くしたのは園長が何も言わずにただ黙ってしまったことだった。それは彼女たちにとってはまるで自分たちを拒絶してるかのように思えたのだ。
「まったく、意固地になってだんまりしちゃって、最初からそう言ってくれればいいのよ。」
初めは口を開けて唖然としていた園長は、やがてそのことに気づくと笑顔を見せ、こう言った。
「うん。…ありがとう、みんな。」
「でも、園長があそこで何かに気づいたのは間違いないみたいね、何か分かったかしら?トキ。」
「いえ、何も分からないわ。ただ、あそこで深く考えていたみたいだったから。」
「ふーむ、これは少し調べる必要がありそうだねー。後でさりげなく聞いていこうか。」
とはいえ、知りたがるのは人の性、それはフレンズとなった彼女たちも例外ではなかったようだ…。
一方園長は、知られる事を防ぐことができたので気を抜いてしまい、この三人の話に気づくことは出来なかった。しかし、これで良かったのだろう。彼はフレンズの美しさを保つことができたのだから。
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