いたずらっこ

 サーバルの日記

『今日は久しぶりに園長に会うことができたんだよ!』

『久しぶりに会った園長はなにも変わってなくって、優しい笑顔を私に見せてくれたんだよ。えへへ、思わず顔がにやけちゃったよ。』

『それで次は頭を撫でてもらったり抱き寄せてもらったり、果ては一緒に冒険に行くことにもなったし!今日はとっても幸せだよ!』

『そういえばあの耳につけてた変なものはなんだろう?聞いてみたら話をそらされちゃうし…。でもまぁまた園長と冒険できるならなんでもいっか!』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 サーバルが日記を書いている…。

 サーバルの書こうとしてる内容が全て聞こえてくるので耳につけた補聴器の電源を切る。

 さすがにフレンズの日記を盗み見るようなマネはしない。


「これでよしっと!それじゃあ、カラカルの縄張りへレッツゴー!」


 そう言っていつものハイテンションで前を突き進んで行く。

 私もそれに着いて行く。


 サバンナは今日も快晴だ。太陽の位置を見てみるとまだまだ低い位置にある。当分は木に隠れなくても大丈夫だろう。

 サーバルに視点を戻すと背の高い小麦色の草がサーバルの姿を覆い隠そうとしていた。しかし大きな耳だけは隠すことはできず、ぴょこんと小麦色の草の上に飛び出ていた。私はその耳を頼りに後をついて行った。


 サバンナはいつも美しい、太陽が全てを照らし、常にカラッとしている。小麦色の草が一面に生えていて、バオバブの木が所々に生えているのに一種の芸術のように感じる。

 そしてなにより一番素晴らしいのは、数多くの動物たちが自由に暮らしていることだ。


 しかし、このジャパリパークのサバンナには更に素晴らしい事が一つある。

 それはアニマルガール、フレンズがいる事だ。


 本来野生の世界では分かり合えることのない別々の種族の動物が、このジャパリパークではフレンズになることによって話し合う事ができるし、分かり合うことも、友達になる事だって可能になる。

 これこそがこのジャパリパークにおいて最も素晴らしく、そして大切なものだ。


「あ、しーっ!園長、喋っちゃダメだよ。動いてもダメ、ここからは私に任せて。」


 コソコソ私に話しかけるサーバル。

 …まさかセルリアンがすぐ近くにいるのか?

 私は先ほどまで切っていた補聴器の電源にスイッチを入れた。

 そうすると、途端に周りの音が手に取るようにわかり、さらにサーバルの心の声も聞こえてきた。


(カラカルはこの時間お昼寝タイムだからね、日頃の恨みも兼ねて、たっぷり驚かしてやる!)


 …心配は必要なさそうだ。

 しかしカラカルの昼寝を邪魔するのはマズイんじゃないだろうか、始めてカラカルに会った日、カラカルはひどく怒っていたがその原因は昼寝を邪魔されたからだ。

 やっぱり心配になった私はすぐにそれをサーバルに忠告する。が


「へーきへーき、夜行性だから。」


 私の忠告はあっけなく無視された。

 どうやらサーバルはカラカルを驚かす事に夢中になっているようだ。

 となればもはや私にできることはない。

 せっかくだ。事の顛末をしっかり見せてもらおう。

 そう思い、私はそっとカメラを構えた。


 足を忍ばせゆっくりと数本ある内の一本のバオバブの木に近づいて行くサーバル。まったく音を出さないのはさすがネコ科といったところか。

 私は今カラカルが何をしているか確認するため、補聴器の音量調整を更に上げた。


 そして、私の聴力の世界が変わる。

 黄金色の草が揺れるたびに普段は気にもしない音が今の私にはまるで雷が降ったかのように大きく聞こえる。

 どこかでネズミがいるのだろうか、トタトタと小さな足音も聞こえる。

 更にサーバルの足音までもが聞こえた。

 この世界で私はカラカルに関係する音を探す。

 するといろんなざわめきの中に一つ、規則正しい寝息のような音が聞こえた。

 カラカルだろうか?

 サーバルの方を見ると既にバオバブの木の根元にたどり着いていた。

 それでもこの規則正しい寝息のようなものは乱れる事なく聞こえてくる。

 完全に眠っているようだ。

 私がそう思った瞬間、サーバルは飛んだ。

 大ジャンプだ。バオバブの木を超える高さにまで飛んでいき、体を一回転させ、カラカルが寝てるであろうバオバブの木の上に落ちて行く。そして…、


「がおおおおおお!」


 耳に凄まじい痛みを感じ、咄嗟に補聴器の音量調整を下げる。

 痛みが酷すぎてカメラなんて撮ってる場合じゃない!

 私は耳を抑え、うずくまる。

 ちゃんとこの痛みはひくだろうか、もしかして耳が聞こえなくなったりしてないだろうか。

 様々な不安が私に押しかけるが、痛みは直ぐに引き、耳の聞こえにも特に異常は感じなかった。

 安心した私の耳に次は


「うわぁぁぁぁぁ!?な、なに!?」


 というカラカルの絶叫が耳に入ってきた。


「わーい!寝起きドッキリ大成功!えへへ、ビックリしたでしょビックリしたでしょ!」


 そう言って喜ぶサーバル。それにカラカルが静かに問う。


「…ねぇ、サーバル。あんた、なんのつもり?」


「なにって…、日頃の恨みを晴らしたんだよ!カラカルにはイタズラされてばっかだからね!これは復讐だよ!日頃の行いが悪かったね!」


「そう…、ただの復讐なら、私もなにも言わなかったわ。でも…」


 ふっふーん、と胸を張る明るく黄色いオーラを放つサーバルにドス黒いオーラを放つカラカルがゆっくりと立ち上がる。

 …誰がどう見ても間違いなくわかるだろう。

 カラカルは怒ってる。それもツノが生えている幻覚が見える程にまで。


「でもね、サーバル。私、一つあんたに言った事があるわよね?」


「え?なんか言ってたっけ。」


「ふふっ、ふふふふふふ、それはね、サーバル。」


 カラカルが姿勢を低くする。そして…


「サーバル、“私の優雅なお昼寝タイムだけは邪魔するな”よ!よく覚えておきなさいっ!!!」


「ひぃっ!ご、ごめんなさーい!」


 サーバルはようやくカラカルが怒っていることに気づき、バオバブの木から飛んで逃げた。

 そしてカラカルもサーバルを追って、バオバブの木から飛び降りた。


 こうして、サーバルの命がかかった。そう錯覚するほどの狩りごっこが今始まったのだった。

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