サーバルの小さな冒険

@ozizousama

おはよう!

 サバンナに今日も朝がやって来る。

 暖かな陽の光がサバンナ中に降り注ぎ、優しい風が黄金色の草原を揺らす。

 どこからか象の声すらも聞こえる。

 そんな大いなる自然の中で今日も彼女、サーバルはそこにいた。


「ふみゃぁ…み、みみ…」


 そんな奇妙なかわいらしい声を出しながら彼女は伸びをする。手を前に突き出し、お尻を少し上げて伸びをする。木の上だというのに器用なものである。

 伸びが終わると次は毛づくろい…と思いきやサーバルは鏡とくしを取り出し、少し乱れてしまった髪を整えていた。


 昔はこんな道具なんて無く、乱れた髪は自分の唾液などで整えていたらしいのだが、人がここにやってきたことでフレンズ達には文明が与えられた。

 そのためこのような大自然の中に暮らしてるにも関わらず、文明的で便利な暮らしをしているのだった。

 今やかつての暮らしなどフレンズ達にはとうてい考えられないものだ。


(今日は何しようかな?カラカルとセーバルを誘ってお買い物に出かけようかなぁ…。)


 ほら、こんな風にかなり野生的なサーバルでさえも文明的な考えをしているのだ。


 …それにしても便利なもんだ、コレ。

 そう思い、私は耳につけた機械を一度外し、手のひらに乗せて眺めてみる。

 どんな小さな音も聞き逃さない補聴器だ。

 ミライさんに実験してほしいと頼まれ受け取ったこの機械だが、実はコレ、フレンズ達の心の声も聞くことができるのである。

 非常に悪趣味なものだが、観察が趣味の私にはコレはうってつけの代物だ。


「……むむ。」


 気がつくとサーバルはジッとこちらを見つめていた。

 そして、大きくジャンプした。

 まずいと思う暇もなくすぐにサーバルは私の上に落ちてきて


「うみゃーーー!おはよう園長!こんなところでなにやってるの?」


 …元気な挨拶をしてくれた。


 おはよう、サーバルちゃん。

 と返事して、ここに居た理由を話す。


「え!?私を観察してたの?ふーん。でも、どうして隠れていたの?私、園長なら別に観察されても気にしないよ?」


 自分の存在を明かさないで観察する事で、その対象のありのままの姿を見ることができるからだよ。とサーバルに伝える。

 ミライさんは直接フレンズと会って観察するのが好きみたいだが、私はこちらの方が合っている。…まぁ、直接会って観察したり話をするのも好きだけど。

 ところでさっきサーバルが言ってた園長ならいいとは一体どういう意味なのだろうか。私が信頼できる人間ということか?そうだとしたら、嬉しいな。


「…園長、私難しい話はよくわかんないよ〜。」


 そう言うとサーバルは涙目でこちらを見つめてきた。

 かわいい。

 そんなサーバルを私は思わず撫でていた。さらに抱き寄せていた。


「ふみゃぁ…。」


 目を閉じて気持ちよさそうにするサーバル。まるでネコだ。


「ねぇ、園長。今日はカラカルとセーバルと一緒に遊ぼうと思うんだけど、なにをしたらいいかな?」


 …難しい質問だ。

 私にはここに来る以前の記憶がない。だから友達となにをしていたかなど全く覚えていないのだ。

 この前、パークが復興して一ヶ月ぐらいした後に私の友人を名乗る人物と出会った事がある。しかしその人物を見て話をしても、なにも思い出せなかったのだ。

 結局、その人物は少し悲しそうな顔をして去って行ってしまった。

 …私はなにを話せばいいのかわからなかった。


「うーん、お買い物に行こうかなぁとも考えたんだけど、もっと楽しい事をしたいなぁ…。」


 買い物に行く事が遊びになるのだろうか?

 私にとって買い物とは観察に必要な物を買うことなのだが。

 以前ミライさんに買い物のなにが楽しいのか聞いてみたことがある。

 するとミライさんは女の子は見るだけでとっても楽しめちゃうんですよ。と答えた。

 全く理解できなかったが、女の子というのはそういうものなのだろう。


「そうだ!女王事件の時みたいにみんなでまた冒険したいな!ね、園長もそう思うでしょ?」


 そう言ってサーバルは私に問いかけてくる。

 確かに、あの冒険は大変だったけど一番楽しかった思い出だ。

 冒険なら楽しい遊びになるんじゃないか?と思い、サーバルにそれを伝えたら


「うんうん、そうだよね!

 よぉーし!それじゃあカラカルとセーバルを誘いに行こーう!」


 そう言ってサーバルは気分ハイテンションで歩いて行く。


 元気なその姿を見てるだけで、私の心はなにか暖かいものに包まれた気がした。


 もっとあんな元気なサーバルを見たい。

 そう思った私はサーバルに着いて行く事にしたのだった。

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