第32話 魔女
スターリンの別邸への攻撃。
この攻撃にはスターリンによって、差別的に扱われる少数民族やスターリンの政敵勢力などが加わっている。米英の諜報員は不穏分子である彼らに情報と武器を提供し、この日に備えていた。
スターリンの暗殺の為に密かに結集した戦力は500人に満たなかったが、奇襲と言う事もあり、ソ連の精鋭部隊を圧倒する戦いであった。
警備の部隊が割かれていく中、魔女暗殺部隊は入口へと進撃を続けた。
米英日の諜報員部隊は死力を尽くし、損害を出しつつも瑠璃達を別邸へと送り込んだのだった。
爆破された扉から突入する米軍武官やルーシー。彼等は手にした短機関銃や自動小銃を撃ち捲りながら、邸内の戦力を制圧していく。容赦無く手榴弾も用いられ、ソ連兵や使用人の死体が出来上がって行く。
邸内に響き渡る爆音や銃声にスターリンは怯えた。
元々、暗殺を恐れていた彼だけに、それが現実となった今、恐怖を感じていた。
「逃げる・・・どこにだ」
別邸には極秘の逃げ道も存在した。しかし、周辺にも敵勢力が存在するという報告を受けている以上、安易に逃げ出す事も出来なかった。
スターリンは妻である女に悲鳴を上げながら抱きつく。
「た、助けてくれ。俺は死にたくない」
その姿を見て、彼女は慈しむように見下ろす。
「良いのよ。あなたはよくやりました。もうお眠りなさい」
女の言葉にスターリンは無き顔で見上げる。刹那、女の手にある金色のルガーP-08自動拳銃が吼える。銃弾はスターリングの背中から腹を貫いた。
「あぐぅ・・・そ、そんな・・・俺を見捨てるのか?」
「ふふふ。新たな殺戮の時代の幕開けの為には必要なのよ」
スターリンの身体が床に転がる。
女は黒いドレス姿で立ち上がる。
「さて・・・次は東欧かしら・・・それともアジアかしら・・・」
笑いながら彼女は拳銃を片手に部屋を出た。
スターリンが潜むとされるセーフティルームの頑丈な扉が爆破された。
吹き飛んだ扉を踏みながら、男達が雪崩れ込む。その後にルーシーの姿もあった。
「おい!スターリンだ」
床にはスターリンが転がっていた。
「本物か?」
誰もがマジマジとすでに死んでいるスターリンを眺める。ルーシーも彼の顔をしっかりと見た。
「本物よ。殺されたみたいね」
ルーシーはスターリンの背中に刺し傷がある事を確認した。
「魔女はどこに?」
瑠璃は周囲を探るも誰も居なかった。
「逃げたか・・・逃走路が隠されているかも知れない。すぐに探して」
彼等はすぐに逃走路の探索を始めた。
その時、瑠璃が何かに気付く。それは彼女の巫女としての才覚であった。
「感じる・・・魔女はこちらの方角に逃げています」
それを聞いたルーシーが笑みを浮かべる。
「ようやく巫女らしくなったわね」
それを聞いて、瑠璃は顔を赤らめる。
さすがの魔女も隠し通路を完全に隠して、逃げる時間は無かったのか、容易に隠し扉が発見され、瑠璃達は魔女を追い掛けた。
それを魔女は感じ取る。
「まずいわね。こちらを感じ取れる者が居るみたいね」
魔女は瑠璃の存在に薄々気付いていた。
千年の時を若い肉体のままで過ごしたとは言え、その身体能力は人間のそれと変わらない彼女は懸命に走るも、鍛え抜かれた男達の足に敵わない。
何とか、邸宅から逃げ出した魔女であったが、その先に用意されている脱出用の高級自動車に乗り込む前に瑠璃達に追い付かれてしまう。
「車を破壊しろ!」
激しい銃撃が高級自動車を撃ち抜く。防弾処理をされているとしてもライフル弾を防ぐまでは無かった。
魔女は拳銃を構えながら、それでも余裕の笑みを浮かべたまま、瑠璃達を眺める。
「あら・・・初めまして・・・物騒な方々ね」
瑠璃は拳銃を構えながら前に出る。
「あなたが魔女ね・・・見付けたわ。災厄の鬼・・・」
「鬼?人を化け物みたいに言わないで」
魔女は瑠璃を睨む。それでも瑠璃は怯まない。
「もう勝ち目は無いわ。死んで・・・殺戮の歴史に終止符を打つわ」
瑠璃は狙いを定める。
「悪いけど・・・千年の時を過ごした私にあんたみたいな小娘が勝てると思って?」
そう魔女が言った時、突如、瑠璃達の仲間の男が味方に向けて発砲した。
あまりの事に混乱に陥る瑠璃達。その瞬間、魔女は奥に用意されていたバイクに飛び乗る。キック一発でエンジンが始動し、彼女はアクセルを一気に開けた。
タイヤがスピンしながら、バイクは一気に加速していく。
ルーシーが慌てて、短機関銃を撃つがそれは魔女に当たらなかった。
男達は狂ったように周囲に乱射を続ける。その瞳は何か狂っていた。瑠璃は彼等に向けて発砲した。仲間とは言え、仕方がない事だった。
制圧を終えた頃には瑠璃の仲間は6人にまで減っていた。
「何が起きたんだ?」
男の一人が不安そうに死んだ仲間を見下ろす。
瑠璃はその姿を見て、感じ取った。
「多分、魔女に魅了されたんです。魔女は男・・・それも野心を持った者を魅了して、思い通りに操ります」
それが魔女の能力であった。
「解っていて、すぐに殺せなかった私の力不足です」
瑠璃は後悔した。そもそも射撃の技量が足りない事は解っていた。故に躊躇った一撃がこのような事態を引き起こしたのである。思えば、魔女の不敵な笑みはそれを見越した事だった。
ルーシーは残された車両を眺めながら、使えそうな軍用四輪駆動車を見付けだす。
「くよくよしている暇は無いわ。ここで逃したら、あの女、今度は世界中に原爆を落とすわよ。さぁ、行くわ。ここに居るのは魔女に魅了されなかったって事ははっきりしているんだから」
瑠璃はすぐに助手席に飛び乗る。男達も荷台に飛び乗り、魔女を追い掛けた。
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