第27話 モスクワ騒乱
陸上自衛隊は小樽正面にて、ソ連軍との激闘を始めた。
火力不足ながら、用意周到に待ち伏せを掛けた陸上自衛隊の攻撃にソ連軍は動きを止めた。
バズーカ砲が唸り、ありったけの銃弾を撃ち込む自衛官達。
数で有利なソ連軍ではあったが、地雷によって、散開が出来ずに集中攻撃を受ける形となった。先頭を進んでいた戦車も転輪が吹き飛ばされ、動けず、砲台と化していた。だが、それでも戦車の砲撃は自衛隊を苦しめる。
在モスクワ米大使館の地下では密かに掘られた地下通路がモスクワの下水道と繋がる。ハンマーによって破壊される壁の穴から酷い臭いが漂って来る。
「臭いわね」
ルーシーと瑠璃は顔を顰める。先に下水道へと入っていた武官のワッツがM3グリースガンを片手に告げる。
「時間がありません。ここもスペツナズが配備されている可能性はあります」
瑠璃はスペツナズと言う言葉に「なに?」と問い掛ける。ワッツは簡単に答えた。
「スペツナズはソ連の特殊部隊ですよ。厄介な連中です」
「そ、そうですか」
戦闘になれば、まともに戦えるのは武官と警備の兵を合わせた16人とルーシーを含むスパイの教育を受けた大使館員の10人だけであり、瑠璃は護身用にS&WのM36回転式拳銃を持たされているが、戦力外であった。
彼等は下水道を進む。すでに入手済みの下水道の地図を確認しながら、スターリンの居場所にもっとも近い場所を探し出す。
だが、それは彼等を危険へと導いた。
敵の多いスターリンが自らの居場所近辺の警備を固めないわけが無かった。
下水道において、彼等は警備の兵と遭遇したのだ。
突発的な戦闘が始まる。
M3グリースガンとトンプソンマシンガンの短機関銃しか装備してないアメリカ側に対して、SKSカービン自動小銃などを装備したソ連側の激しい銃撃が襲う。圧倒的な火力の前にアメリカ側は1人、また1人と倒れていく。
ルーシーは瑠璃を守りながら、手にしたM3グリースガンを撃つ。
「まずいわ。無謀だとは思ったけど、こんな所で躓くなんて・・・」
「ルーシー!一度、大使館まで戻るんだ。それしか無い」
キッド武官が叫ぶ。だが、退路にも敵の姿が現れ、銃撃が始まった。
完全に囲まれ、全員が終わったと思った。
その時、前を塞ぐ敵兵が次々と倒れていく。
「何が起きている?」
警備兵が突然の事に驚く。すると倒れたソ連兵の代わりに人影が現れた。彼等は大声で英語を叫んだ。
「我々は協力者だ!ここから先は案内する。こちらへ!」
それを信じていいのか。キッドとルーシーは顔を見合わせるが、選択肢は無かった。彼等は一斉に駆け出す。
人影の姿が見えた。彼等は白人やアジア系の顔立ちであった。手にはステン短kに関銃やライフル銃などが握られている。
「我々は報道関係として、潜入していた英米日の諜報員です。すでに魔女とスターリンの居所は判明しています。我々が案内します」
追手を殲滅したルーシー達は新たに加わった諜報員達と共にモスクワの下水道を走り抜ける。
スターリンは原爆によって、北海道の敵勢力と増援になるだろうアメリカの艦隊の殲滅を目論んでいた。更に原爆を増産し、忌々しいと感じていた中国の毛沢東の殺害も計画していた。
無論、それらの暴挙と呼べる計画は彼だけで考えたわけじゃない。
魔女だ。
魔女に惑わされたスターリンは野望を漲らせ、ただ、ひたすらに殺戮を計画した。
この狂気を彼の側近たちも受け入れた。無論、正気では無い。怒りや恐怖、欲望に支配されたからこそ、これから起きるだろう何百万、何千万人の殺害を受け入れたのだ。
それに反対を示した者は片っ端から、逮捕、拷問、殺害された。
モスクワでは同じソ連の民ですら、地獄を味わっているのだ。
ソ連が理想とした共産主義、社会主義は幻想であった。
実質はスターリンによる独裁体制、恐怖政治であった。
スターリンは暗殺から身を守る為、モスクワ郊外に建設した別邸に居る事が多かった。そこは自然の要塞であり、場所も国家機密とされている上に容易に侵入が出来ないようになっている。ここで彼は指示を出していた。
機嫌良く、ウォッカを口にしながら、部下の報告を聞いていた。そこに慌てて駆け込んで来た兵士。
「報告します。現在、モスクワ市街にて、戦闘中であります。敵はアメリカのスパイだと思われます」
それを聞いたスターリンは手にしていたグラスを床に放り捨てる。絨毯の上で割れるグラスを無視して、スターリンは怒り狂った。
「アメリカか。アメリカが俺の命を奪おうとしているのか?許さない。アメリカにも原爆を見舞ってやれ」
それを聞いた将校は驚く。
「し、しかし、情報ではアメリカにも同様の爆弾があると・・・」
口答えをした将校をスターリンは睨んだ。
「口答えか?」
そう尋ねられ、将校はガクガクと震え出す。
「い、いえ・・・確認をさせていただいただけであります」
「そうか・・・じゃあ、やれ。ありったけの原爆を落とせ。足りなければ、作らせろ。どんどん作らせろ。世界を灰にしてやるのだ。残るのは我々だけだ」
そう言うと、スターリンは大笑いをした。
その背後には一人の女がニヤリと笑みを零す。
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