第25話 北海道侵攻
ソ連軍は約4000人の兵士を砂浜に上陸させた。
揚陸された最新鋭中戦車のT-54の砲塔にはレフレンチェコ大尉が乗っていた。
「無事に上陸が出来たか・・・敵は水際での防衛を諦めたという事はこの先、激しい戦闘が予想される。こっちには航空戦力も火力支援も無い。ひたすらに攻めるしかない。地獄の始まりだな」
レフエレンチェコ大尉に課せられた使命は電撃的に小樽を制圧する事であった。一切の被害を無視して、彼の率いる戦車隊は小樽へと突入し、札幌攻略の為の橋頭保を築くべしであった。
日本侵攻を命じられた時からレフレンチェコは自らの命が無いだろうと感じていた。彼はベルリン攻防にも参加し、長らく戦車兵として戦い続けて来た。だが、今回の作戦は無謀としか言いようが無かった。
せめてもの救いは彼が乗る戦車が最新鋭と言うだけであった。
ベルリン攻防時は重戦車にも乗っていたが、中戦車とは言え、火力、装甲と共に満足が出来るレベルであった。
未舗装の雷電国道を突き進む彼らは突如として砲撃を受ける。
レフレンチェコは先頭を進む部下が砲撃を受けて、停止した事に怒りを覚える。
待ち伏せをされる事は解っている事だった。故に索敵を厳命していたにも関わらず、先制攻撃を受けたのだ。
幸いにも敵の砲弾で被害を受ける事は無かった。
レフレンチェコは即座に敵の火点を探り、反撃に転じる。
茂みに偽装して潜んでいたM4中戦車が砲撃を続ける。車体を覆う程に土嚢が積まれ、防御力を高めていた。
「くそっ、水際作戦を棄てたのも待ち伏せに時間を費やすためか」
激しい砲撃戦が始まった。日本軍の砲撃はソ連の戦車の装甲を破る事は出来ず、一台、また一台と撃破されていく。
30分における戦闘でレフレンチェコは敵の殲滅を終えた。
敵戦果の確認をすれば、待ち伏せをしていた戦車の多くはすでに旧式化したアメリカや日本の戦車であった。これを見たレフレンチェコは勝てると思った。日本側は最新鋭の戦車を配備していないと確信したからである。
札幌の第一師団、第八九師団では最初の待ち伏せが失敗に終わった事に落胆した。
そこに布陣されていたのはアメリカから貸与された戦車を多く配備されていた戦車連隊であった。火力において、もっとも強力な部隊がいとも簡単に殲滅してしまったのだ。普通科連隊が対応に当たっているが、米軍から貸与されたバズーカ砲や無反動砲の数は足りず、敵戦車の侵攻を止める事は出来なかった。
当初、予定していた遅滞作戦は完全に失敗し、悪戯に損害だけが上乗せされ、小樽間近まで主力の普通科連隊は後退をしていた。
「このままだと小樽に入られるぞ・・・」
連隊長は市街地戦を恐れた。市民への退避勧告はすでに済ませてあるが、この北海道で、簡単に市民の避難が出来る場所など無かった。市街地戦に突入すれば、市民への被害が出る事になり、その事は師団本部の悩みの種だった。
レフレンチェコは戦車の整備の為に小休憩を取っていた。
如何に戦車が新型となっても、整備無しで長距離を移動する事は不可能だった。
だが、彼等は確信していた。日本軍の戦力は大した事が無い事を。
アメリカ軍から貸与されただろう戦車も旧式且つ、火力も低いM4戦車。敵では無かった。小樽の制圧が終われば、本国からの補給も有利になる。補給線の確保こそが北海道制圧の鍵だった。
しかしながら、この戦果に喜んだのはスターリンであった。北海道に楔を打った事で彼の更なる欲望が噴出する。
「日本を半分にする。是が非でも上陸部隊の増強を・・・更に戦力を北海道に送り込め。何としてでもだ」
この命令に誰もが困惑した。
今回の上陸さえ、奇跡であった。すでに海上戦力の多くは失われ、新たに建造中の艦も間に合うはずもなかった。ただし、陸上戦力だけなら、輸送する船は何とか掻き集める事は出来た。日米の海上戦力がどれだけあるか分からないが、損害を無視してでもソ連は北海道に地上戦力を送り込むしかなかった。
大空を飛ぶのは双発の二式偵察機であった。
現状、北海道に配備されている航空機は飛行場の整備不良から、大戦時のレシプロ機ばかりであった。それも充分な数は揃って居らず、ソ連軍に対して、有効な航空支援を行えずにいた。
だが、幸いにもソ連軍には有用な対空火力が無く、高高度からの偵察に関しては無難に行う事が出来た。その為、自衛隊はソ連の情報を確実に入手する事が出来た。
「ソ連軍は機械化を徹底したか。最新鋭の戦車とトラックなどを多く用いて、高速で進軍を続けている」
ドイツ軍の電撃戦に関しては日本でも研究はされていた。ソ連軍の進軍は明らかにドイツ軍の電撃戦に習った物である。足りないとすれば、航空支援と火力支援が無い点だけだ。だが、ここからソ連軍が小樽、札幌へと一気に雪崩れ込むのは予測が着いた。
しかしながら、それらを阻む為の手は現状では無い。
ソ連軍の上陸地点が不明だった為に道北を中心に展開させていた戦力を移動させる事は機械化の進んでいない自衛隊では不可能であり、明らかに戦力不足であった。
遅滞作戦を行う陸上自衛隊は戦力の3割を失い、潰走をしつつ、札幌郊外にて、再度、陣地の構築と再編成を行っていた。
唯一、敵戦車との戦闘で逃げ延びる事が出来た九七式チハ中戦車に搭乗する高井一等陸尉は掩体壕に戦車を入れて、敵を待った。
「敵の戦車相手にこいつの主砲じゃ役立たずだ。狙うのは敵の装甲車、並びにトラックをやる」
再編成された連隊は僅か700人の兵士によって、防衛線が敷かれた。塹壕を掘るにも時間は無かったので、タコツボが主で、散兵する形で敵を待ち構える。ここに来て、航空支援に関しても調整が取られた。数少ない爆撃機に爆弾が用意され、敵の戦車を撃破すべく、一撃を狙っている。ここが決戦の場であると誰もが思った。
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