第24話 艦隊決戦

 やまとは最後の斉射を終えた。最強の武器であった46サンチ砲は砲弾を失い、飾りと化した。副砲の15サンチ三連砲が唸る。同時にその巨体を悠々と見せつけるようにしていた。

 「この艦を囮にする。敵の砲弾を全て受けるつもりでいろ」

 やまと艦長は伝声管やまとの様子が伺えた。艦隊司令は作戦であるとは言え、やまとを捨て駒的に使う事に怒りさえ湧き上がる気持ちだった。

 「やまとを沈ませるな。敵艦隊の側面に出て、一斉砲撃。水雷戦隊は一気に水雷攻撃で奴等を仕留めろ。数は多いが、経験と性能ではこちらの方が上だと教えてやれ」

 その命令に動き出す日本艦隊。

 やまとの影から出て来たくらまは砲撃を始める。

 正確無比な砲撃がソ連艦隊を襲う。それでもやまとに火災を起こさせた事で血気付いているソ連艦隊は新たに現れた日本艦に対しても恐れる事なく、砲撃を行う。

 激しい砲撃戦の始まりだった。やまとも残された副砲を唸らせる。そして、盾となるべく、猛然とソ連艦隊に船首を向けて、突入した。

 

 北海の荒波を掻き分け、突き進んで来る巨体にソ連艦隊は釘付けにされた。

 重巡キーロフの艦長はやまとの巨体に怯えた。巨大な主砲が今にも火を噴くのでは無いかと恐れた。その恐怖が彼等の目標をやまとに向けさせた。砲撃はやまとに集中され、駆逐艦はやまとへと肉薄し、魚雷を放った。

 大小、数十発の砲弾と魚雷、5発が左舷にやまとに命中した。それでも巨躯は止まることをせずにソ連艦隊へと突入した。これはあまりの奇策であった。さすがのソ連艦隊もこの事態に対処が出来ず、突入してきたやまとを避けるように艦隊が分断されていく。水雷攻撃を行ったソ連駆逐艦もあまりの事に混乱したように散り散りになる。その機を逃さぬ日本艦隊であった。7隻の駆逐艦が列を成し、一斉に全ての魚雷缶から、魚雷を放った。

 それらはやまとも含めたソ連艦隊へと扇状に軌跡を残しつつ、飛び込んでいく。

 一斉に立ち上がる水柱。

 日本が誇る酸素魚雷が力を発揮した。

 一撃でソ連駆逐艦を撃沈させ、重巡であっても大破させた。

 不幸にもソ連艦隊中央に居たやまとにも自軍の魚雷の一発が当たる。

 やまとは艦尾を破壊され、推進力を失う。それでもやまとは最後の力を振り絞って、戦いを続けた。

 なおも数が残るソ連艦隊は決死の覚悟で日本艦隊との砲撃戦を続けた。彼等はとにかく、北海道上陸までの時間を稼ぐ。それが使命だからだ。

 燃え上がる北海。

 やまとは甲板上を黒煙で覆われつつも、流されるようにソ連艦隊から離脱していく。くらまも何発か被弾しつつも、敵艦隊へと攻撃を止めない。

 日ソの両艦隊は死力を尽くして、戦い続けていた。

 

 激しい艦隊決戦が行われている間にソ連上陸艦隊は上陸地点である島武意海岸に近付いていた。

 当然ながら、そこには陸上自衛隊が待ち受けているが、ソ連艦隊からの艦砲射撃に苦戦する。現状において、航空戦力は用意する事が出来ず、終戦時の物資不足から砲門も足りてなかった。

 タコツボに潜む陸上自衛官の多くは砲撃に怯えるしか無かった。

 上陸地点となる砂浜の後方には僅かなM3戦車と九七式中戦車、数種の軽戦車による戦車隊が待機した。

 戦車隊の横に設営された指揮所では誰もが重苦しい雰囲気となっていた。

 「どうやら、海自は敵の上陸艦隊に損害を与える事が出来なかったようだな」

 「それだけ敵も本気と言う事だろう。かなり激しい海戦が行われているという情報も入っている」

 「だとすれば、このまま、敵は上陸を決行するだろう・・・残念だが、航空支援は間に合いそうにない」

 「守りの多くは南方や関東に集中させていたからな。北海道は完全に手薄になっていた。今更、言っても遅いがな」

 「とにかく、陸上戦力は中央から移動している。水際で抑えきれば、勝ち目はある」

 「これだけの戦力でか?物資も不足気味・・・そもそも敵が戦車部隊を上陸させたら、こっちの戦力でまともにやりあえるM3戦車は僅か3両だぞ?あとは整備もままならない旧軍の中戦車ばかり」

 「ふざけるなっ!何を負けるみたいなことを言っている?」

 怒号を飛ばす参謀。それを制する指揮官。

 「待て。事実は事実として受け止めろ。現有戦力では敵に圧倒される。ここは水際作戦よりも遅滞作戦に切り替える。敵の補給は貧弱だ。敵の目的は札幌にある。それまでの道中で敵を削れば良いだ」

 その作戦に全員が納得した。

 

 ソ連上陸艦隊は上陸舟艇を砂浜にランディングさせた。そこに僅かながら陸上自衛隊の砲撃が行われる。すでに砂浜にタコツボを掘って展開していた自衛官達はその場から撤退しており、空になった陣地だけが遺されていた。

 沖に停泊した輸送船からもカッターに乗り込んだ兵士達が上陸を目指し、制圧の完了した砂浜に物資が陸揚げされ始めた。

 陸上自衛隊の僅かな砲も弾薬不足から、撤退を始め、後退した陸上自衛隊の部隊は敵を待ち伏せする為に彼等の使いそうな移動経路に展開を終えた。

 

 ソ連上陸艦隊が上陸を行っている頃に艦隊決戦は終わりを告げた。

 ソ連艦隊は僅か3隻の駆逐艦が沈没を免れた状態で火の手を上げるだけであった。しかしながら、日本艦隊も殆どが破壊され、沈没を免れているだけに過ぎない状態であった。

 集中砲火と魚雷攻撃を受けたやまとは艦を30度も右舷に傾け、黒煙を上げ続けていた。

 海戦の終結と共に生存者の救出が行わている。

 中破したくらまの艦橋では苦渋の選択に迫られていた。

 艦隊司令部ではソ連の上陸艦隊に対して、攻撃をするかどうかの議論がなされる。

 戦力として投じる事が可能なのは重巡級護衛艦くらまと駆逐艦級護衛艦が3隻。それもどれもが海戦によって破壊されていた。くらまも船速も半減しており、復旧を含めても即座に動ける状況では無かった。

 「残念だが・・・ソ連の上陸艦隊に対する攻撃を断念せざる得ない」

 艦隊司令の言葉に誰もが苦しい表情を浮かべた。

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