第23話 原爆
突然に発生した大爆発。
それは自衛官達にとって、想像を絶する物だった。
荒れ狂う爆風は灼熱を伴い、波を巻き上げ、艦隊を襲う。
輪陣形の一番外側に配置された駆逐艦が爆風と高波に飲み込まれる。
艦隊は陣形を維持が出来ぬ程に翻弄され、散り散りとなる。
各艦の艦長は艦を維持するだけに懸命だった。
全ては数分の後に収まる。
艦隊司令は被害報告を求めた。
旗艦やまとの被害は甚大であった。外装の多くは破損。電子装備、アンテナ類が破壊され、レーダー、通信は不可能になった。艦橋の窓は破損して、艦橋内で死傷者が出た。艦長も負傷したが、指揮を執り続けている。
3隻の駆逐艦は大破。沈没を免れたが、搭乗員の3割が死傷した。他の艦も多くが破損し、やまと同様に電子機能を失った。無事なのはやまとの影に隠れる位置に居た新造の重巡級護衛艦くらまと駆逐艦級護衛艦4隻だけであった。
「後続の支援艦艦隊も無事だそうです」
後続の支援艦艦隊は無傷な事から、すぐに合流を果たし、大破した艦を放棄、負傷者を支援艦に移送した後、作戦の続行が決定した。
防空の為に飛び出した桜花の殆どは滑空にて、支援艦隊へと到達している為、全員が無事に脱出後に救出されていた。
補給艦すざきの甲板には救出された桜花操縦者の姿があった。桜花は軽量化の為に車輪などの着陸機構は一切、無い為、搭乗員は機体を棄てて、脱出するしか無かった。多くの搭乗員は救出するまでの間、洋上を漂う為の低体温症にならない為に厚着をしている。その全員がズブ濡れのままだった。
「毛布です。お湯を船内に用意してますので、こちらに」
乗組員が彼等に声を掛けていく。
「あぁ、それより、艦隊は?」
その一言に乗組員の顔色が褪める。
「状況は不明ですが・・・爆撃によって、艦隊に大きな損害が出たらしいです」
その言葉に彼等はやるせない感じに拳を甲板に叩きつけた。
重巡級護衛艦くらま艦橋
やまとの影に隠れ、無傷であったこの艦に艦隊司令部が移された。
計画が中止された改鈴谷型重巡を踏襲する形で建造中止された301号艦を完成させた物であった。急造を前提にしたため、船体自体は計画通りであったが、装備等はアメリカから貸与を受ける形である為、見た目はアメリカ艦のようであった。
艦の内部に関してもアメリカに準拠している為、日本海軍艦艇に馴染んだ者には奇妙な雰囲気であった。しかし、すでに慣熟訓練を受けた乗組員はアメリカ製の機材を器用に操った。
通信士が偵察機からの通信を受け取る。それはソ連艦隊の座標であった。
レーダー機能を大幅に消失した日本艦隊にとって、偵察機による索敵は唯一、敵艦隊へと繋がる手段であった。
空母を有さない日本艦隊にとって、やまとの保有する偵察機の数は救いであった。
やまとから発進した多くの偵察機は第二次世界大戦中に多く用いられた二式水戦や零式水戦であった。ジェット機が普及する中において、廃れつつあったが、水上機である事、ヘリよりも高速かつ、長距離飛行が可能な事は偵察機として、最も有用であると判断されていた。
くらまからの通信によって、大本営はソ連が原爆を使用した事を理解した。原爆については日本でも研究がなされており、情報に匹敵するのは原爆以外にないだろうと考えた。同時にこれはGHQにも伝えられた。
GHQの最高司令官であるマッカーサーは驚いた。
原爆はすでにアメリカでも開発を終えている。日本に対して、使用し、ソ連を牽制するつもりであったが、その前に日本との講和が結ばれ、使わずに終わったのだ。その破壊力はマッカーサーも承知しており、それをソ連に先に使われた事に苦虫を噛み潰す思いであった。
彼はすぐに横須賀基地にある戦略爆撃機隊に原爆の搭載を命じた。彼はソ連だけが原爆を持っているというわけじゃない事を見せつけるつもりであった。
原爆投下の成功を知らされたソ連艦隊は歓喜した。
万が一にも無傷の日本艦隊と遭遇するならば、作戦がとん挫した可能性は高かったからだ。下手をすれば撤退も出来ずに殲滅される可能性だって、あった。艦隊司令は原爆の威力について、半信半疑ではあったが、大打撃を与えたと聞けば、安堵した。万が一にも敵の残存戦力が襲撃してきたとしても、撃退が出来ると信じていた。
しかしながら、この時点でソ連軍は日本艦隊の位置を見失っていた。そもそも、電子技術に劣るソ連軍は偵察機さえもまともに搭載して無いからである。航空戦力も原爆投下の為に全てを出し切った為、あてに出来なかった。
そして、5時間後。
ソ連艦隊は北海道を目前にしていた。
後続の上陸舟艇などはすでに上陸準備を始めている。
この時、突如として、水柱が艦隊周辺に立った。
それは大口径の砲撃であった。水平線より先からの砲撃にソ連艦隊はなす術がなかった。
「敵艦隊だ。こちらから討って出る」
ソ連艦隊司令官は圧倒的な長距離砲撃では損害が大きくなるばかりだとし、敵艦隊へと向かい、艦隊決戦に持ち込む事にした。同時に航空支援も発したが、いつになるかは不明であった。
ソ連艦隊の動きは偵察機がつぶさに観察をしていた。偵察機からの報告を受けながら、やまとは自慢の43サンチ三連砲二門を斉射させる。
「ありったけの砲弾を放て」
やまと砲術長は叫ぶ。やまとの主砲弾はもともと、多くは積んでいない。斉射7回程度しかない。超長距離砲撃で敵艦隊を殲滅が出来るなら誰も思ってはいない。しかし、強力な砲撃で幾分か相手艦隊に損害を与えることで、甚大な被害を受けたこちら側との戦力差を埋めたいのである。
砲撃から逃れるためと敵艦隊の殲滅を賭けて、一気に速度を上げて、突進をするソ連艦隊。速度を上げる駆逐艦が水平線の先に日本艦隊を発見する。だが、それは同時に日本艦隊からの攻撃が始まる事でもあった。
この時点で駆逐艦2隻が大破したが、それでも戦力的には充分だと判断したソ連艦隊はこのまま、突進を続け、一気に艦隊決戦を始めるつもりであった。
日本艦隊側も迫りくるソ連艦隊に対し、陣形を直す。
「敵艦隊が接近してきます。数は重巡3。軽巡5。駆逐艦14」
観測員が叫ぶ。
「戦艦が居るとは言え、中破も抱えるこちらの戦力だと拮抗していると言えるか・・・だが、ここで敵の上陸部隊を沈めないと、北海道が戦場になる。死力を尽くして、敵を殲滅する」
日本艦隊も縦陣形にて、敵に斉射を加えんと主砲を回した。
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