第13話 極東大戦勃発

 日ソの緊張は高まりつつあった。

 明確な休戦協定すら結ばれていない両国が曖昧な国境線を求めて、小競り合いを続けている。

 ソ連の最新鋭戦闘機Mig-15が樺太の基地から飛び立つ。

 朝鮮戦争を経験して、それなりに練度の高いパイロット達は春先の流氷を見下ろしながら北方四島上空へと向かう。

 ソ連の航空編隊に対し、姿を現すのは独特な形状が特徴的なエンテ式の機体。日本海軍が開発を行っていた震電をベースにジェット戦闘機として開発をした神電であった。

 まだ、空対空ミサイルの開発は途上であり、開発が成功しているのはアメリカだけであった。最新鋭兵器故に現状ではまだ、日本には供給されておらず、神電の翼下には増槽のみがあった。

 互いに主張する国境線が違う以上、北方四島上空は競合地域であった。睨み合うように互いを警戒する編隊同士。

 だが、決して、攻撃を仕掛ける事は無かった。あくまでも様子見と牽制である。彼らがここで戦闘を勃発させれば、即座に米ソ大戦・・・それは核戦争へと繋がるのでは無いかという懸念からだ。


 だが、この日は違った。ソ連空軍の戦闘機編隊は明らかに戦闘を前提にした動きであった。日本海軍戦闘機編隊は敵に先手を取られないように回避運動に入る。有利な位置を得ようとする追いかけっこが始まる。

 この状況は無線にて、『翔鶴』艦橋に伝えられる。

 「奴ら・・・実戦を意識した模擬戦のつもりか?それとも・・・」

 艦隊司令は険しい表情で海域を眺める。

 ここ最近のソ連潜水艦の動きにも気になる点はあった。これまでは領海を主張するような行動や警戒行動だけだった。だが、最近は確実にこちらの戦力を探るような情報収集行動が多くなっていた。

 ソ連戦闘機の37ミリ機関砲が唸る。

 それをヒラリと躱す神電は搭載された五式三十粍機関砲を唸らす。Mig-15は不用意に前に飛び出し、機関砲にて穴だらけになる。そして、撃墜された。

 欠陥の多いMig-15と一応の完成を見た神電とでは運動性能に大きな差があった。この時点において、3機のMig-15が撃墜された。しかしながら、これは始まりでしかなかった。


 空戦の始まりと同時に北海道・東北沖や日本海側においてはソ連の潜水艦が活発に行動を始める。

 日本の貨物船などが撃沈され、明らかな後方破壊活動であった。

 ソ連からの開戦宣言は無いが、実質的な開戦が始まった。

 情報収集の為に派遣された伊19潜水艦はウラジオストクからのソ連艦隊の出撃を確認した。それはかなりの大艦隊で方角的には北海道へと進んでいる。

 

 急遽、御前会議が招集され、居並ぶ政府、軍部の重鎮達は顔色を変えながら議論を始めた。

 総理はアメリカとの事前協議の内容を明かす。

 「現状においてはあくまでも休戦が破られただけに過ぎず、米ソの関係が悪化していると言ってもかつての盟友であり、極秘会談の内容に沿ったもので、表立った支援は困難であると」

 「アメリカの支援が無ければ・・・ソ連との全面対決は困難なものに」

 軍部は試算した結果を資料にしていた。

 「現状で動きがあるのは極東艦隊のみ。しかしながら、増強が続けられている当艦隊の戦力は大和に匹敵する大型戦艦を旗艦とする巡洋艦主体であります。殆どは建造間もない新鋭艦であり、かなり危険だと想定します。それとすでに北方四島には飛行場が建設されているとされ、敵のジェット戦闘機などの運用も可能かと思われます」

 「飛行場か・・・航空戦力で圧倒する事も難しいのか」 

 「かなりの数の航空機が本国から回送されているとの情報があります」

 「政治的な面においてはソ連は全てを拒絶。第三国との協議をしておりますが、どこもソ連は一切、交渉をしないと拒絶しているとか」

 「ソ連は一気に北海道まで制圧して、大戦中の密約を成就させる気だろう。核のカードをちらつかせれば、アメリカは黙らせられる自信があるんだ。同時に・・・核兵器の実験も考えているのかもしれない」

 その言葉にその場が凍る。

 「核兵器が運ばれたという情報でも?」

 天皇陛下が不安そうに尋ねる。

 「実は・・・ソ連の核兵器を研究する施設から運び出された核兵器の行方が追えていません。最新型の原爆、水爆などが極東へ運び込まれた可能性は考慮すべきかと」

 「圧倒的な被害を見せつけ、日本に北海道防衛を諦めさせる。もし、屈すれば・・・今後は核兵器を見せつけるだけで、何でも叶う世界になります」

 軍部の高官の説明に全員が硬直する。

 「戦うしかない。奴らに核兵器を使わせないまでに完膚無きまで叩きのめす。それしか活路はございません」

 陸軍大臣がそう陛下に進言した。元々、戦争に関しては否定的な陛下であったが、核兵器の使用、ソ連の危険な程の拡大主義の前に頷くしか無かった。


 1954年3月12日午前4時15分

 対ソ連攻撃命令が大本営から発せられる。

 北海道の駐屯地は忙しくなる。

 米軍から供与されたM24チャーフィーやM3戦車が動き出す。

 小銃に関しては米軍と同様の弾薬が使えるように改造された九九式小銃を持った兵士達の姿が目立つ。

 彼等はこれより輸送船に乗り込み、北方四島奪還任務に赴くのだった。

 

 彼らに先次て、空爆を行う為に北方四島に向かっている第一機動艦隊の空母2隻では夜明け前の暗闇の中で懸命な発艦作業が行われていた。

 日本軍唯一のジェット戦闘機である神電が次々と暗闇へと飛び立つ。彼らの発艦よりも先に発艦を終えていたのは大戦中の機体である彗星や流星であった。ほとんど大戦中の状態で運用される両機による編隊は夜間飛行さえも危険であった。だが、それでも熟練の飛行士達は、懸命に低空飛行による侵攻を続けた。

 ソ連のレーダー網は日本軍の低空飛行による接近を察知する事が出来なかった。レーダーの開発は日進月歩ではあったが、ソ連の電子技術は僅かに遅れていた事は否めず、更には日本側がレーダー対策を徹底的に練った結果であった。

 

 だが、レーダーは北方四島に接近する飛行機編隊を捉える。それに合わせて、飛行場から配備されていたMig-15ジェット戦闘機が次々と飛び立つ。彼等も日本側が攻撃命令を発した事を得ていたので、警戒していたのだ。全ての戦闘機を出し尽くした飛行場ではいつ、敵が襲来しても良いように備えていた。

 だが、彼らの予想を大きく上回ったのは、レーダーに発見された編隊とは別から日本の攻撃隊が姿を現した事だ。予想以上の数に防空部隊の攻撃も歯が立たず、飛行場は激しい空襲に晒される結果となった。

 そのころ、迎撃に飛び立ったソ連戦闘機編隊は接敵をした。相手は日本側のジェット戦闘機の編隊であった。日本側は陽動の為にジェット戦闘機隊を攻撃隊と別行動にしたのだ。レーダーに掛かるように派手に飛び回った戦闘機隊はソ連編隊へと攻撃を開始した。

 ジェット戦闘機同士の高速の空中戦が始まる。まっすぐに向き合った中で、神電は両翼に備えた噴進弾を発射する。これは無誘導ながら、近接信管と時限信管を備えている為、タイミングよく発射すれば、爆発によって相手にダメージを与える事が出来る。

 それは敵編隊の周囲で爆発を起こし、数機が落下していく。ソ連軍はそれに慌てて、編隊が崩れる。日本の戦闘機隊はそこに飛び込んだ。

 神電は速度で劣るが、運動性能ではMig-15を遥かに上回った。軽々と敵の背後へと回り込み、砲撃を与えていく。ソ連機を次々と撃墜するも、ソ連機も奮戦して、日本機を撃墜していく。一進一退の攻防が続いた。

 

 ソ連の潜水艦は第一機動艦隊に群がった。

 ソ連の海軍整備計画によって、潜水艦が多数、配備されていたこともあり、日本側の想定以上の潜水艦が姿を現した。

 多数の魚雷が第一機動艦隊を襲う。急造された海防艦などは船速の遅さもあり、魚雷の餌食になっていく。

 

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