第14話 中国参戦

 北方四島にあるソ連軍基地へと襲撃をする日本軍機は思いもよらぬ苛烈な対空砲火を受ける。航空写真による評価はソ連軍の対空兵器の配備は左程では無いとされていたが、実際には評価の10倍近い対空火器が配備されており、基地に到達するまでに多くの損害が発生した。

 爆撃には成功をしたが、戦果は想定を遥かに下回り、基地の機能を消失させるには至らず、戦力も4割を失った。

 第一機動艦隊司令部では予想外の結果に焦っていた。

 「まずいな。ソ連軍の戦力を見誤ったか」

 「情報不足でしたね。まさかこれほどまでに極東に戦力を割いていたとは」

 「西側に圧力を掛けるフリをして、こちらに回していたんでしょう・・・やられました」

 「とにかく・・・航空戦力はほぼ、壊滅状態だ。本国からの増援を願うしかない」

 「待機させていた支援艦隊をこちらに向かわせています。我々はこのまま、上陸部隊の支援に向かうしかないでしょう」

 「そうだな。攻撃部隊の回収を急がせろ。再編成して、地上部隊の支援をさせる」

 航空戦力を大幅に低下させた第一機動艦隊は沿岸へと移動を開始し、地上部隊の直接支援する事になった。

 

 ソ連陸軍極東司令部では被害が次々と集まって来る。

 「最悪の事態は回避したが・・・日本軍の上陸を許したぞ」

 司令官は不機嫌そうに言う。

 「現在、敵上陸部隊の殲滅の為に全軍を動かしています。数ではこちらが上であります」

 参謀長がそう報告をする。

 「数か・・・最後はありもしない水爆でもチラつかせるかね?本国はいつになったら、要求したはずの水爆をこちらに送ってくるのかね?あれがあれば、敵の艦隊など一瞬に消し去る事が出来たのではないかね?」

 司令官は傍に立つ政治将校に尋ねる。

 「それは・・・本国に対する批判かね?同志少将」

 「批判?違うだろ?要求した事が叶えられるのはいつかと尋ねたのだ。同志大佐」

 「ふん・・・悪いが、水爆はこちらに輸送されない。製造にかなりの時間を有するのでな。安易にこんな極東の島へと運び込めないのだ」

 「そうか。では、我らはこのまま、日本軍の猛攻に晒される事になるが、本国は増援をしてくれるのかね?」

 「出来る限り・・・約束は出来ないがね」

 「冗談じゃない。我々は日本人に捕虜になれと?」

 「敗北主義は逮捕するぞ?」

 「敗北も糞も・・・勝てない戦いをさせているのは誰だ?」

 「同志少将・・・言葉が過ぎますぞ。反逆の罪で逮捕されたいのですか?」

 司令官と政治将校が睨み合う。

 「海軍より報告。敵の新たな艦隊を確認。空母を含む艦隊です」

 「ちっ・・・折角、凌いだと思ったが・・・新手か・・・次は防ぎ切れないぞ。制空権を奪われる」

 指揮官が狼狽しながらそう呟くと、政治将校が激昂した。

 「許さん!何としてでも敵艦隊を壊滅させるのだ!極東艦隊は何をしている。早く、早く、敵を殲滅させろ」

 指揮官はただ、叫ぶだけだった。


 「ソ連と日本が開戦したか」

 毛沢東はニヤニヤとしながらその状況を確認した。

 「朝鮮半島ではアメリカに煮え湯を飲まされましたからね」

 重鎮が居並ぶ会議の席で誰かがそう告げる。

 「あぁ、元はあの男が仕掛けた事だったが・・・尻馬に乗るつもりだったんだがな。投じた戦力の被害を回収するに至らなかった。まぁ、半島のバカには十分過ぎる貸しはつけたがね」

 「今回の戦争は如何なさいますか?」

 「あの男からは何の話もきていない。多分、我等の支援を受ければ、後々、厄介だと考えているのだろう。だが、この好機・・・乗らないのは普通じゃないだろ?」

 「だが・・・我等には海を越えて戦力を投じる力はありませんが」

 「解っている。それにアメリカと結託した日本の海軍力に勝てるとは思わんよ。だが、ソ連だけが美味しい思いをするのをじっと指を咥えて見ているわけにはいかんだろう」

 この後、北方四島への日本軍上陸を侵略行為だと中国は公式見解を述べた。それはすなわち、中国の対日参戦を意味していた。

 

 中国の突如とした参戦に驚いたのはスターリンであった。

 「奴ら・・・日本に対して、まともな戦力を有しているわけじゃないのに・・・何が目的だ?」

 世界地図を眺めながら、スターリンは考え続ける。

 「あの豚は・・・蒋介石が持ち逃げした清王朝の財産が目的なんでしょ」

 その隣に座った女がそう告げる。

 「そうか・・・台湾か・・・あの島への攻撃の口実を得る為か。確かに日本軍の残党が台湾に助力している。だが・・・アメリカの影がチラつくぞ?」

 「アメリカだって、表立って・・・戦力を投じれないでしょ・・・ベトナムじゃあるまいし」

 「なるほど・・・・」

 スターリンは考えた。台湾など、物の数では無い。中国にくれてやっても構わない。むしろ、それでアメリカが揺さぶられれば、都合が良かった。

 「ははは・・・豚野郎に武器を供給してやろう。実に面白い」

 

 台湾海峡

 中華民国がアメリカから無償貸与された駆逐艦『安陽』は警戒の為に常に対岸となる中国大陸を眺めていた。

 「奴ら・・・船を集めている。岸には多くの戦車や兵士の姿が見える。まさか・・・戦争準備か?」

 望遠鏡を使えば、覗ける程に近い場所で、極秘に何かをするなど不可能であった。中国人民軍が台湾海峡沿岸部に多数の戦力を終結している事実はアメリカにも伝わる。

 アメリカは外交ルートを用いて、毛沢東に警告を発するが、彼はそれを完全に無視た。毛沢東は台湾を契機に香港、マカオの奪還。敷いては東シナ海の征服を目論んでいた。それは彼自身がすでに魔女に魅了されているからこその暴走である事に気付いてなど無い。

 アメリカは中国、ソ連の暴走を目にしつつも、再び、世界大戦へと発展する事を恐れ、表立った台湾支援は不可能と考えた。しかしながら、偵察によって、中国人民軍が終結させている兵力はかなりの数で、とても台湾が抗える数では無かった。救いはそれらの兵力を一度に海峡の向こうへと送れない事だ。元々、海軍力は台湾にすら勝てない程で、上陸艇など極わずか。民間の貨物船や漁船まで搔き集めているがそれでも数は足りなかった。

 

 日本海軍潜水艦『伊73』は台湾海峡を潜航した。

 現状において、潜航した潜水艦を発見する手段は中国には無い。

 「魚雷戦用意」

 艦長は潜望鏡を上げ、そう指示を出した。

 日本は中国の侵攻を大きく警戒し、それを頓挫させる作戦を決行したのだった。

 「全弾、発射」

 暗闇に港へと向かう幾筋の航跡。

 夜明け前の港で爆発が起きた。

 貨物船は燃え上がりながら、その巨体を着底させ、傾いた。

 日本潜水艦は夜明け前までに全ての魚雷を軍艦や貨物船で溢れていた港に放ち続けたのだった。

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