第11話 朝鮮動乱
1948年に建国された大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国。
双方は朝鮮半島を分断する形で統治する形になり、対立する事になった。
第二次世界大戦が終わり、互いにまだ、国家の形も整わない状況の為、本格的な対立とはならなかったが、朝鮮民主主義共和国(北朝鮮)を支配する金日成は盛んにスターリンに侵攻の容認を導き出し、毛沢東の容認を条件に南侵する事の後ろ盾を得た。
無論、この決定に対して、スターリンは慎重であったにも関わらず、南北を分断する形となった朝鮮半島はソ連とアメリカの対立構造を鮮明化させた。
「アジアの大猿が・・・半島の統一を望んでいるが・・・正直、奴らだけでどこまでやれるか・・・」
スターリンは傍らの女に対して、少し弱きな事を言う。
「ならば・・・あなたが直接、兵力を送り込めば良いじゃない?」
女は軽々に言う。
「中国との睨み合いの問題もある。下手に動けば、中国に侵攻の理由を与える」
スターリンは困惑していた。世界はソ連とアメリカによって二分されつつある。しかしながら、ソ連はヨーロッパとアジア、両極に敵を置く形なっており、安易に兵力を移動させる事が出来ない状況にあった。
「なら・・・様子を見るって事?」
女はつまらなそうに尋ねる。
「あぁ・・・武器は渡してある。兵力的には南に勝てるだけの差はある。あの猿がどれだけ能力があるかだけだ」
「だけど・・・向こうはアメリカが支援するわよ?」
「簡単には出て来れない。下手に手を出せば・・・俺が支援する口実になるからな」
スターリンはそう言うと、ワインを飲み干した。
「だけど・・・アメリカは狡猾よ」
女の言葉にスターリンは少し狼狽した様子を見せた。
1950年6月25日午前4時。
北朝鮮軍の砲撃が始まった。まさに奇襲であった。
支援砲撃によって朝鮮半島を分断した38度線が震撼した。
雪崩れ込む北朝鮮軍。
未だ、整備が進まない韓国軍は彼等に蹂躙されるしか無かった。北朝鮮軍はこの侵攻に対して、かなり準備を行っていたようで、彼らは一気に南を攻め滅ぼすように突き進んだ。
1カ月も掛からずに陥落するかのような勢いで北朝鮮軍は攻め上げ、混乱した韓国軍は潰走をした。
この事態に驚いたのはアメリカであった。
朝鮮半島はアメリカにとってはソ連との最前線であると言うのは当然の認識だった。だが、この時点においてはまだ、第二次世界大戦の爪痕は大きく、戦争に対しては弱腰であった。しかしながら、北朝鮮の勢いはアメリカに議論の余地を与えなかった。
アメリカは北朝鮮を非難しつつ、軍の派遣を決定した。同時に国連を動かし、北朝鮮の行為は卑劣だと叫び、初の国連軍の派遣を取り決めた。
「アメリカが介入するか・・・原爆を使うかしら?」
魔女は自らの配下である者の報告に満足したように笑みを浮かべる。
「原爆を使えば・・・朝鮮半島は草木も残らぬ程になるかと」
配下の男は跪きながら答える。
「そうね。・・・多くの・・・数百万の・・・いえ、数千万の人間が死ぬでしょうね」
「そうなれば、朝鮮半島に価値は無くなるかと」
「所詮は小さな半島よ。軍隊が置ければ良いでしょ」
魔女はそう言うと大笑いをした。
彼女が望むように総司令官を兼任するマッカーサーは朝鮮半島制圧に原爆の使用を求めていたが、すでに原爆症などが確認されつつある状況で、人道的配慮も含め、原爆の使用は許可されなかった。
だが、アメリカ軍は北朝鮮軍に継戦能力が無い事に気付き、長く伸びた補給線を分断すべく、仁川へと上陸。アメリカ軍の圧倒的な物量を前に着き進んでいた北朝鮮軍はその侵攻を停滞させた。
韓国軍はアメリカの支援を受けて、立ち直り、反撃を始める。無論、それはアメリカから脅迫されるような情けない状況ではあったが。
日本もこの戦争に参加した。
ただし、海軍の再編成を行っている日本はその多くをソ連を牽制する為に動かせず、掃海艇などの派遣に留まった。しかしながら、朝鮮戦争は日本に大きな利益を与えた。戦後復興最中の日本において、これは好景気を産む。
好景気は潤沢な資金を産み出し、様々に良い影響を与える。だが、それは何も日本だけの事では無かった。ソ連を含む共産圏においても、同様に戦後復興が加速し、尚且つ、軍備拡張が進んだ。何より、原爆を始めとして、原子力関係の開発が一気に進む。
広島県 呉海軍工廠
かつて、世界最大の軍艦と呼ばれた戦艦大和が護衛艦として、近代化処理を終えて、進水した。
兵装の多くは米軍に準拠した物に交換され、船体後方半分は主砲などの装備が全て外され、新たに飛行甲板と電装関係の構造物が設置された。
ジェット機が空を飛び交う時代に水上機の有用性が問い質されたが、未だに空母から離発着可能なジェット機が無いことから、零式水偵なども搭載され、新たにヘリコプターも搭載された。搭載機数23機。飛行甲板上には同時に6機が搭載が出来るだけでも概ね軽空母並みの能力を有する。
新たに設置された設備によって、発電量は途方も無く高まり、その電力により強力な電子装備が設置された。これによって、電探能力、通信能力は海軍最強となり、旗艦としての能力は世界有数となった。
主砲も強力でありながら、尚且つ新型の三式弾も開発された事から、超長距離での高射砲ともなった。
「艦橋も一新されたか。別の船に乗っているようだ」
新たに艦長に任命された太田芳次一等海佐は艦長席に座り、大海原を眺めた。
「艦隊指令室も多くの情報が即座に伝わるようになっておりますし・・・これまで以上に速やかな作戦行動が可能になるかと」
副官の水科三等海佐も満足したように言う。
「朝鮮戦争には間に合わないが・・・こいつが戦場へと送り込まれる時が来るのだろうか?」
「出来れば、あって欲しくありませんね。大戦での地獄を知っている身からすれば」
「そうだな。平穏が続けば良いのだが」
二人の気持ちは日本全体の気持ちでもあった。
しかしながら、それとは別に戦後復興と並んで再軍備は進んでいく。
モスクワ
瑠璃はソ連の厳しい監視下で情報収集に明け暮れていた。
「やはり・・・スターリンの傍には魔女が居る」
様々な情報から魔女の影を掴みつつあった。
「スターリンは粛清を繰り返している。それらも魔女の仕業だろう」
「赤の広場が血で染まっている。権力は共産党に集約されようとしている」
ソ連全土で惨劇が行われていた。それと同時に未だに未開発な地域が多い為に農村部は極貧であった。毎年、冬になれば各地で飢餓が起きている。
スターリンは未曾有とも呼べる大規模な開発を指示し、ソ連を強力な国家とすべく、国民には社会主義の理念を押し付け、個人を奪った。
「確かに非道ではあるが、確実に農業の生産性は上がり、工業生産も向上する。そうなれば、ソ連は更に強大な国家となり、アメリカとの対立は深まるでしょう」
瑠璃は冷静にソ連の現状と将来を分析する。
「対立か・・・それはいつか戦争によって決着する事になると?」
「可能性は高いと言うより・・・魔女はそれを望んでいる。資本主義と共産主義では考え方が根底から違う。もっと言うならば、経済活動の仕組みが根底から違う国家同士は決して相容れない。アメリカはソ連を認める事は出来ない。しかしながら、ソ連は強大な国家となり、アメリカの行く手を阻む。結果として、世界の行く末を決める上においても両者はどちからが潰れるまで戦うしかない」
瑠璃の言葉にその場に居た者達は凍る。
この時代において、すでに核兵器の危険性は知れ渡っている。そして、すでに水爆の実験も各地で行われており、ソ連も続いていた。世界中に核が拡散されようとしている時代。
万が一にも世界を決する戦争となれば、当然ながら、核兵器は用いられ、世界中に放射能の雨が降り、世界は亡ぶのでは無いとかと議論されようとしている時代である。
「魔女は人間の滅亡と世界の終わりを望んでいる。虐殺こそが彼女の生きる目的であり、彼女自身が滅するにはそれしか無いのだとすれば」
瑠璃は肩を震わせた。魔女は幾千年に及び、この世界に殺戮をもたらしてきた。それはいよいよ、世界を巻き込もうとしているのだ。
「ふん・・・その魔女を殺そうとしているのは何もあんたや私達だけじゃないわ」
ルーシーは一枚の資料を瑠璃に手渡す。
「このリストは?」
ドイツ、フランス、イギリスなどの国々が並ぶ。
「魔女討伐の為にこの国からも魔女狩りの専門家が派遣されるわ」
「魔女狩りの専門家?」
瑠璃は訝し気に尋ねる。
「そうよ。ヨーロッパだって、鬼は居なくても悪魔は居る。はるか古より、それらを屠るのを生業にする連中は今でも居る。彼等の狙いもあんたと同じでスターリンの魔女よ。大戦中はヒトラーの魔女を狙って、幾度も挑んだらしいけど、多くの同胞を失っただけに終わったみたいね」
「なるほど・・・ヨーロッパにも私のような存在が居たのですね。それは心強い。それで彼等と連携は取れるのですか?」
「彼らは国家や教会の命にて動いている。ただし、スターリンの魔女もヒトラー以前から狙われているせいでかなり警戒をしている。だから、ソ連国内にも潜り込めず、国外で活動している留まっているみたいだけどね」
「では・・・ソ連国内に潜り込めているのは私だけ?」
「東洋の鬼狩りまでは魔女も知らないからでしょ。まぁ、アメリカもそれを狙って、日本国からの要請を請けたわけだけど」
アメリカにも悪魔祓いはある。主に教会組織ではあるが、彼等も魔女に関しては強い関心を抱いていた。ヒトラーとの決戦にアメリカが挑んだのもそれが原因だ。
「戦争が起きる前に魔女を始末が出来れば・・・スターリンの暴挙も食い止める事は出来ます。多くの人が苦しまずに済むでしょう」
「だが、それにはかなりのリスクが・・・まぁ、それでも世界の平和の為ならやるしかないでしょうね」
朝鮮戦争は米軍の参加によって、北朝鮮は一気に押し戻される形になる。ボロボロだった韓国軍も再集結して、反撃の主軸へと据え、今度は北朝鮮を殲滅させようとした。その勢いは凄まじく、中国、ソ連国境近くまで北朝鮮軍は追い込まれた。当然ながらスターリンは怒り狂い、北朝鮮の支援をしようとしたが、それより先に動いたのが中国軍だった。義勇兵をとして送り込まれた中国軍は劣勢だった北朝鮮軍を一気に押し上げ、38度線まで戻した。図ったようにそこで膠着状態となった。
「ふん・・・政治的決着って奴だな」
スターリンは受話器を降ろした。
「あら・・・ここで止めちゃうの?」
女は退屈そうにスターリンに言う。
「無茶を言うな。あの半島を焦土にしても答えは出ない。それに我々はまだ、核戦力でアメリカに勝てない。本格的な大戦となれば・・・焦土になるのはモスクワだ」
スターリンは口惜しく呟く。
「そうね。もっと・・・戦力を拡大しないと・・・アメリカに勝てないわ」
女は面白そうに告げた。
朝鮮戦争は休戦という形で一応の決着となった。無論、それは大国同士の睨み合いの末の結末だ。決して互いの国が納得したわけじゃない。38度線を境に彼らはいつ爆発をするかわからない膠着状態へとなったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます