第2話

美味しかったと信子の一言に二人の男も頷いた、これからどうする、せっか

くの休みだ、家に帰ってゆっくりしようかと雪生が提案すると、信子はいいや

と首を振った。

 「この近くに大型書店があるのよ、あたしはそこでゆっくりするわ」

 「お昼ご飯は、どうするの」

 「本屋の中に店が、コーヒーとか、サンドウイッチ、パスタが食べれるの、

外に出ればコンビニもあるし」

 「そうか、だったら帰りは遅くなるな、まあ、久しぶりの休みだし、ゆっく

りしろよ」

 じゃあ、そろそろ出ようかと雪生がいいけたとき、洋司が窓の外を指さし

た、大きく両手を広げた一人の少年の姿に信子が呟いた。

 「秀生君、友達の弟なのよ」

 背中の大きなリュックと両手に提げていた袋の包みを地面に置くと少年は飛

び込むように店の中に入ってきた。

 「のぶちゃん、ちょうどよかった、今から行こうと思ってたんだ、今晩泊め

てください」

 はあっと三人が驚いたのも無理はない、いきなり何をという顔だ。

 「父さんと喧嘩したんです、そしたら姉さんがタイミングが悪く帰って来

て、ますますこじれて、修羅場になって、姉さんは信子さんに泊めてもらえっ

て」

 おいおいとあきれた声は洋司だ、雪生も気まずそうな顔をしている。

 「親子喧嘩か、それって進路のこと」

 気まずそうに少年は頷いた、そして窓の外を見る、いや、外というより、自

分の荷物だ。

 「バリーも連れてきたんです」

 信子は二人の男を見ると何か言いたげな顔をした。

 「帰ろうか、秀夫君、ちなみに今、この二人が一緒に居るけどいい」

 「構いません、あの」

 「着替えとか用意してるの、どうせしばらくは泊まる事になるでしょ」

 「いいんですか、信子さん」

 「猫連れて漫画喫茶とか無理でしょう、野宿なんて、今は男だって襲われる

時代だよ、とうこに連絡しないとね、弟は預かったと」

 話の展開についていけず、二人の男が呆然としたのは無理もないが、

家主の言葉に逆らえる筈もなかった。


 「ええっ、猫、でかくない、準血腫なの」

 「本当だな、俺も初めて見る、こんな猫」

 家に着くなり、鞄の中から現れた猫を見た二人の男は驚いた、まるで小型犬

ぐらいの大きさもある、しかも長毛だ、そこら辺りで見かける猫とはまるっき

りというか違いすぎる。

 荷物を下ろして、ほっとした少年は出されたお茶を飲みながら二人の男が恋

人同士だと知ると、そうなんですかと頷いただけだった。

 あまりにもあっさりした反応、いや、答えに驚くと言うよりは拍子抜けして

しまった、いや、今時の高校生だから、こういう反応があってもおかしくない

のかもしれない。

 「何か簡単なものでいいから作ってあげてくれない、食べてないんでしょ、

あたしは本屋にでも行ってくるわ」

 信子の言葉に雪生は頷いた、

 慌てて、立ち上がった少年は鞄の中から取り出したものを信子に手渡した。

 「携帯です、姉さんと話すんでしょう」

 「んっ、ありがとう、メールとかしたかったらパソコン使っていいから、自

由にね」

 


 部屋の中には三人と一匹が残された、先に行動を起こしたのは猫だった、部

屋の中をくまなく、台所、洗面所、風呂場、二人の男が寝起きしている部屋ま

で起用にドアを開けて何入るとしばらくしてパソコンの前まで来た、そして大

きな椅子に飛び乗ると、まるでここは自分の場所といわんばかりに体を丸めて

眠り始めた。

 その態度に少し図々しすぎないと思いながら雪生が尋ねた。

 「もしかして、前にもあったの、こんなこと」

 「は、はい、僕とバリーは今年の夏休み、ずっと泊まらせてもらったんで

す、半分は姉も一緒でした」

 「おいおい、なんだよ、それは」

 びっくりしたといわんばかりに洋司は少年を見ると姉さんと信子、二人はな

かがいいんだなと尋ねた。

 「お父さんは、ここに泊まっていること知っているのかい」

 「知りません、姉の友達とはいえ、一人暮らしの女性の家に泊まっているな

んて知ったら」

 「だろうな、でも平気なんだ」

 その言葉に少年の顔がはっとした顔つきになった。

 「信ちゃ、信子さんは、そんな事はしません、姉も僕も知ってますから、そ

ういう人だから」

 「ご、ごめん、そういう意味で」

 「いや、そういう風に受け取るだろう、さっきの言い方は」

 「洋司、そうだ、君、何が食べたい、インスタントラーメンならすぐだけ

ど、昨日の食材が余っているから、煮込みうどんとか、どう」

 場の空気が、少年の頂きますの一言で和らいだ気がした。

 「ところで、付き合いが長いなら君は知ってるかな、俺たち結構居候してい

るんだけど彼女に恋人とか」

 すると少年は不思議そうな顔で答えた、信子さんに恋人、勿論、いますよ

と。

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