詩『仮面(ペルソナ)』の翻訳
詩『仮面(ペルソナ)』の内容について(1)
こんばんは、月影 夏樹です。今回は3作目となる詩『
説明に入る前に、『
『
(1-a)
夜が眠らない
知らない間に 両手で温もり隠す
(1-b)
その指先は声を求める度
小さな罪を背負っていく
(1-c)
月夜に消える その人影は
明日へはばたく どこか悲しい
罰を浄化するため 夢の地図広げ
霧がさまよう中で 辿りついた街は
無機質な微笑こぼす 人が住む
ひび割れた
月夜が照らす その人影は
孤高の波に 翻弄ほんろうされた
鮮血の異邦人
月夜を惑わす その人影は
すれ違いのまなざし入り組む
背中合わせの時間
風の鳴き声に
この
翻訳に入る前に、この詩が『オペラ座の怪人』のどの場面のことを指しているのか、簡単に説明します。
19世紀後半のオペラ座という舞台で、『天使の声』という呼び名で呼ばれるクリスティーヌ・ダーエ(以下クリスティーヌ)という若いコーラスガールに、類まれな音楽の才能に恵まれながらも、醜い容貌で人を避け続けてきた怪人(以下ファントム)が恋をします。しかし彼女には、幼馴染のラウル・シャニュイ子爵(以下ラウル)という婚約者がいます。
そのことを知ったファントムが激怒し、クリスティーヌを自分の妻にしようと彼女を誘拐します。そして“自分の妻にならなければ、目の前でラウルを殺す”と脅迫してしまいます。
一方のクリスティーヌは、ファントムの心の奥底に眠る孤独を感じ取ります。同時にファントムに対する尊敬の念も捨てきれないという、心の葛藤に悩まされてしまいます。クリスティーヌは脅迫に対する答えとして、ファントムとキスを交わします。
そんな彼女の心の声に動かされたファントムは、生まれて初めての涙を流します。その後人質であったクリスティーヌ・ラウルの二人を、生かしたまま解放します。
こうして無事脱出することが出来た、クリスティーヌの気持ち・ファントムに対する愛情や切なさをテーマにし、詩に表現したのが『
前置きが長くなってしまいましたが、早速(1-a)から翻訳をしていきます。
最初の「夜が眠らない
しかしファントムの場合にはこれが当てはまらず、彼はこれまでずっと暗い地で人目を避けるように過ごしてきました。確かに音楽や芸術という分野においては、彼は素晴らしい才能を持っています。ですが長年人目を避けて生活をしてきたため、一般人とは異なる独特の考え方をしてしまいます。
そんな暗く太陽(人の温もりや優しさ)がない世界で生活するファントム自身のことを、「夜が眠らない
その下の文章の、「知らない間に 両手で温もり隠す」について説明していきます。
最初の「知らない間に」とは、ファントムがクリスティーヌと一緒に過ごす、数少ない時間のことです。過ごすといっても一緒に生活をするという意味ではなく、人として普通に会話をする瞬間についてです。
一種の世間話や雑談とも言えるこの時間ですが、今まで誰とも人と関わらない生活をしてきたファントムにとって、数少ない一般人になれる瞬間でもあります。ですがコミュニケーション力が欠落しているファントムはにとって、そんなクリスティーヌの気持ちを察することは出来ません。
次の「両手で温もり隠す」とは、クリスティーヌのファントムに対するコミュニケーションの形を表しています。彼女はファントムに対し、一人の人間として普通に接してきました。ですが
そんな心の状態では、普通に人とコミュニケーションが取れるはずはありません。なのでこの一文からは、「私(クリスティーヌ)はあなた(ファントム)に人として普通に過ごす機会やチャンスを与えているのに、あなたは私の気持ちを知ることはなく、むしろ自分から相手を遠ざけているのね……」という、クリスティーヌ
のファントムに対する、一種の
この一文が下の(1-b)へと、続いて行きます。「その指先」=ファントム自身のこと「声」=ファントムが望む世界、となります。
クリスティーヌを自分の妻にすることが、ファントムが望む世界となっています。ですが彼女を自分の物にするため、ファントムは次々と事件を起こしてしまいます。「欲しい物を手に入れるためなら、手段は選ばない」という状況下に、ファントムはいます。
ですがそんな方法が世間から認められるはずなどなく、ファントムがクリスティーヌを愛せば愛するほど、自分の歴史に泥や傷をつけてしまいます。これが(1-b)の下段が意味する言葉となり、「欲しい物を手に入れようとすればするほど、ファントムは泥沼にはまっていく」という場面を、私はこのような形で比喩表現しました。
(1-c)の「月夜に消える その人影」とは、日中は行動しないで日が沈んだ夜を中心に活発になる、ファントムを表現している比喩です。昼夜逆転生活となっているファントムにとって、夜こそ自分の力を発揮できる時間でもあります。彼はヴァンパイア・ドラキュラといったモンスターではありませんが、夜行性に近い生活を過ごしていることに違いはありません。
「月夜に消える」=暗闇の中に煙のように消える瞬間を、「その人影」=人目を避けて夜に行動することが多いファントム、のことです。
その下の「明日へはばたく どこか悲しい
「明日へはばたく」=自分の信じる道を歩み続けること、「どこか
読んでいて重たい気持ちになってしまう内容ですが、これが作中に登場するファントムの心境を、私なりに表現したものです。
そして一番重要なポイントとして、この詩の内容はあくまでもクリスティーヌがファントムに対する「憐れみ」や「切なさ」といった哀愁です。ですが当の本人は、自分が「孤独」であるとは夢にも思っていないため、こうした間逆の生活が当たり前のものとなっています。
これがこの詩の一番興味深いところでもあり、面白い場面でもあります。
以上のことを踏まえつつ、1番の翻訳について再度紹介します。
『
[長い間、人との関わりや接点を避けて生活をしてきたあなた(ファントム)の心は、深淵のような闇や時間に支配されているのね。そんな心に支配されているのか、私(クリスティーヌ)が声をかけても、あなたは普通に返してくれない……。例えあなたが類まれな音楽・芸術の才能に恵まれているとしても、自分から人を遠ざけては何の意味ももたないわ。無意識のうちに自ら人を遠ざけていることに、少しでも早くあなたに気付いて欲しい……
そんなあなたが望む世界(私を妻にすること)を手に入れようとすればするほど、自らその体を泥沼に沈めてしまう。むしろその体には傷が増える一方で、あなたという存在をどんどん汚していく……
人との接し方を知らないあなたが行う方法は世間一般からは認められず、より一層人として戻る機会や貴重な時間を失ってしまう……
ヴァンパイア・ドラキュラのように昼夜逆転生活をしているあなたは、今日も人々に「恐怖」という名の置き土産を残していきます。暗闇の中に煙のように消えるという生活にあなたは満足しているのかもしれないけど、私にはそうは思えない……
誰の力も借りずに夢へと歩み進むあなたの姿は、まるで今にも命が尽きようとしている儚い鳥みたい……自分の命すら軽んじてしまう、そんな哀れな存在……]
次回は2番の詩について、内容を紹介していきたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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