詩『仮面(ペルソナ)』の内容について(2)

 前回に引き続き、今回は詩『仮面ペルソナ』の2番について、説明していきたいと思います。少し長くなるかもしれませんが、どうぞよろしくお願い致します。


仮面ペルソナ


夜が眠らない 時代ときで過ごす心

知らない間に 両手で温もり隠す


その指先は声を求める度

小さな罪を背負っていく


月夜に消える その人影は

明日へはばたく どこか悲しい

はかない鳥のようね


(2-a)

罰を浄化するため 夢の地図広げ

霧がさまよう中で 辿りついた街は


(2-b)

無機質な微笑こぼす 人が住む

ひび割れた仮面ペルソナの世界


(2-c)

月夜が照らす その人影は

孤高の波に 翻弄ほんろうされた

鮮血の異邦人



月夜を惑わす その人影は

すれ違いのまなざし入り組む

背中合わせの時間


風の鳴き声に 旋律メロディをのせて

このうたを届けましょう


 説明に入る前に、この詩のタイトルとなる『仮面ペルソナ』が持つ意味について、少し考えていきます。

 意味については、『命の天秤』の用語補足説明(第1幕)で解説をしたとおりです。文字通りの意味となり、ファントムが常に身につけている「仮面」を指しています。ですがより深く追求していくと、という意味になります。

 ファントムはトレードマークとも呼べる「」をつけることで、「オペラ座の怪人」と呼ばれるようになります。ですがそれは素顔を隠すマスクでもあり、本当の自分を偽っているともいえます。


 少し難しい表現をすると、(1) 普段皆の前に姿を現している、「ファントム(A)」という人格。ヒロインのクリスティーヌをはじめ、皆を恐怖に陥れる存在として、作中でも頻繁に出てきます。

 そしてもう1つの人格として、クリスティーヌのキスによって自分自身ですら知らなかった、「ファントム(B)」という人格。「ファントム(A)」との違いとして、「ファントム(B)」の中に人の温もり・優しさといった感情が芽生えます。

 この人格が誕生したことにより、自分の妻にする予定だったクリスティーヌを「ファントム(B)」が釈放したのだと、私はこの作品を解釈しています。



        『ファントムが持つ2つの人格について』

ファントム(A)……自分の目的や夢を叶えるためなら、どんな残酷・冷酷な手段や方法を取ることもためらわない人格(『オペラ座の怪人』に登場する、ファントムの主な人格)


ファントム(B)……物語終盤でクリスティーヌのキスによって、人の優しさ・温もりなどを取り戻した人格。必死に説得するクリスティーヌを解放するという、人間らしさを持っていることが最大の特徴。なお作中では「二重人格」について触れることはないが、今回の説明を区別するために、このような形で明記しました。


 前置きが長くなってしまいましたが、(2-a)について説明します。最初の「罪を浄化するため」とは、これまでを指しています。もう少し細かく表現すると、《こうむ》とも呼べるでしょう。

 実際の『オペラ座の怪人』の中で、ファントムが神様に罪を懺悔ざんげするというシーンはなかったと思います。この言葉を使った理由として、を私なりに推測しました。


 原作ではその後のファントムの生涯について、詳しく語られることはありません。ですが私は人の心を取り戻す、つまり「ファントム(B)」という人格の誕生により、ここではじめてと考えました。

 つまりクリスティーヌが無事脱出したことを確認した後、ファントムは一人旅に出ます。旅の目的は、ためです。これが「罪を浄化するため」という言葉の裏に隠された、私なりの解釈となります。


 そして次の「夢の地図広げ」とは、のことを指しています。

 ファントムはどうすれば自分の罪が許されるのか、必死に考えます。ですが友人や仲間などいない彼にとって、相談する相手などもちろんいません。すべて1人で考え行動しなければいけないので、仮に彼が出した未来や答えが正しいとは限りません。

 そんなという瞬間を、「夢の地図広げ」という表現に例えました。


 その下の「霧がさまよう中で たどりついた街は」という文章については、という意味です。ですがファントムにとっての安住の地なので、そこが大都会であるのか田舎であるかは謎のままです……


 (2-b)の「無機質な微笑こぼす 人が住む」とは、作り笑顔こそ見せるが、基本的に何を考えているか分からない人たちのことを指す、比喩表現となります。

 「無機質な人」とは、良い意味ではマイペース・落ち着いているという表現が出来ます。ですが悪い意味に置き換えると、「相手のご機嫌を取らない」「自分勝手に行動する」という表現となります。

 私はこの悪い意味に着目し、「自分さえ良ければ良いという考えばかりの人が住む街に、彼(ファントム)はたどり着いた」という解釈となります。


 そのことを踏まえながら、「ひび割れた仮面ペルソナの世界」について考えていきます。

 クリスティーヌによって、やっと人間らしい性格や感情を取り戻した「ファントム(B)」ですが、彼が訪れた街には心がすさんでいる人が大勢います。そんな世界の中では、優しさや愛情などむしろ邪魔になってしまいます。それによってという状況を予言する表現です。

 つまり「ひび割れた仮面ペルソナの世界」とは、「今にもちょっとしたトラブルが起きると、今にも以前のような凶暴な人格(ファントムA)が目覚めてしまう」というクリスティーヌの心の声を表現しました。


 続いて(2-c)を調べていきます。「月夜が照らす その人影は」とは、日が沈んだ夜も必死に努力する(自分が犯した罪の許しを求める)ファントムのことです。を例えたものが、その下の「孤高の波に 翻弄ほんろうされた 鮮血の異邦人」となります。

 孤高の波に 翻弄された=ですが、不老不死ではないためことを、私なりに比喩表現しました。

 最後の「鮮血の異邦人」とは、のことを例えた比喩表現となります。「ファントム(A)」がかつてクリスティーヌを妻にするために、舞台関係者を殺害してしまうシーンがあります。客観的に見てみると、ファントムが殺害=自分の手を血に染めたという形に表現可能です。

 そして異邦人についてですが、基本的な意味は「外国人」と同じです。ですが意味合いの違いとして、異質な存在という気持ちが込められています。少し乱暴な表現をすると、「」「」となります。

 やっとの思いで安住の地を求めたはいいものの、結局そこにも自分(ファントム)の居場所はなかったということにつながります。


 以上のことを踏まえると、具体的な翻訳は次の通りです。


          『仮面ペルソナ(2番翻訳)』


 [人質だった私(クリスティーヌ)を解放したあなた(ファントム)は警察へ自首せずに、そのまま行方をくらますでしょう……。だけど私は、あなたがやっと人間の心を取り戻してくれたのだと思っています。

 あなたは自分が犯した罪を懺悔するために、今日も1人でこの世界をさまようのですか? 行き先や目的地も決めず……ただ自分の安住の地を求めて……今日も……必死の思いでたどり着いた街で待っていたのは、あなたが思い描いていたものとは違う世界でした。

 そこは力や悪が正義という独自の世界観があり、あなたが求める愛や優しさなど一欠片もありません。ほんのわずかですが、愚痴をこぼしたり愛や優しさを求めるという声もあります。ですがそんなことを口走れば、この世界では仲間外れにされ生きていけなくなる……

 そんな世界で生活を続ければ、近い将来、あなたは再び凶暴な人格「ファントム(A)」に、心を完全に支配されてしまうでしょう……いえ……もしかしたら、もうその一歩手前まで来ているのかもしれませんね……


 月明かりの下で動くあなたのシルエットは、今日も涙を流し人の心を求めています。せっかくたぐいまれな音楽の才能を授かったのに、あなたはそれを良い方向へ活かそうとしませんでした。そのことを知った時にはもう手遅れで、あなたの手は真っ赤に染まってしまいました。

 それはまるで、異国の地からやってきた『鮮血の異邦人』とも呼べる存在のようです……。結局あなたも時代の波に翻弄された、哀れな被害者なのですね……


 2番の翻訳から分かる通り、クリスティーヌが“あなた(ファントム)が罪の重さを知り、懺悔するために旅に出た”というテーマがベースとなっています。一種の「」に近い内容で、未来のファントムの姿を彼女なりに予言したものとなっています。


 次回は3番の翻訳について、紹介したいと思います。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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