人類滅亡ショートショート

@1919

アンドロイドで

 ついにここまで来た。


 思いつきで始めたアンドロイドの製作。最初は自分の性欲を満たすためにだけに美少女アンドロイドを作っていた。性交できることはもちろんのこと、会話もキチンと出来る。何より、俺の事を心から愛してくれる。


 幼少期の頃から不細工で女性とはまともに会話したことすらない俺にとって、彼女は生身の女性以上に魅力的であることは自明の理だった。

 

 転機が訪れたのはそんな彼女を友人に紹介したときだった。

 

 「これは売れる」


 彼のこの一言から、俺の作った万能アンドロイドの販売が始まった。


 販売した当初から俺のアンドロイドは飛ぶように売れ、すぐに様々なデザインのアンドロイドを作るようになった。


 最初は女性型のアンドロイドだけだったが、男性型のアンドロイドの製作も始め、これも女性から多大な支持を受けた。


 ただ、万能アンドロイドではあるがひとつだけ致命的な欠点があった。それは子供が出来ないことだ。


 そのため、万能アンドロイドの普及当初は「アンドロイドは浮気じゃない」とされ、配偶者がいても、一体はアンドロイドを保有しているということが社会の常識とされていた。


 だが、そんな社会も終わりを告げる。


 アンドロイドと結婚する人間が急増したのだ。


 販売当初はメーカーデザインのアンドロイドが主流であったが、この頃になるとオーダーメイド品が基本となっていた。


 そのため、誰でも気軽に理想の異性、あるいは同性と幸せな暮らしを歩むことが出来るようになったのだ。


 


 現在、人類はその数を急激に減らしている。


 人口の9割がアンドロイドと結婚し、子どもが一向に増えないのだ。

 

 思い出すのは小学生時代。当時から酷いいじめに遭っていた俺は人類が滅べば良いと毎日のように考えていた。


 「将来の夢」というお題の作文で、その思いの丈を綴り先生に出したところ「凄く面白い事を書くね。――君は頭がいいからきっと出来るよ。けど、これを卒業文集に載せることは出来ないから、もう一つ書いてくれる?」と返ってきた。

 

 思えば、彼女のその言葉が無ければ、今こうして幸せを感じることも出来なかったんだなと、シミジミ思う。


 「どうしたんですか? そんなニヤニヤして」


 最初に作った彼女が俺に問いかける。最近はすっかり寝たきりになってしまっているが、この子はほとんどの時間をこうしてベッドの横に座って俺と一緒の時間を過ごしてくれている。


 作文を褒めてくれた彼女に似せて作ったこのアンドロイド、何十年も経過してシワシワになった俺とは対照的に、作ったばかりの若さを保ち続けている彼女を見る。このデザインのアンドロイドを世に出すことだけはしなかった。

 

 「いや、何でもないよ」


 そう言うと彼女はベッドの縁に顎を乗せ、俺の手をとって自分の頭の上に持っていった。


 「君がいてくれたお陰で、俺は幸せだった。ありがとう」


 最期に呟いた言葉が、どちらに向けられた言葉だったのかは俺にもわからない。



 

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