第22話 ~犬と猫~
視界を埋め尽くす多種多様な建物、食欲をそそる美味しそうな香り、日本のバーゲンセールを思い出させる賑やかな声、そして耳や尻尾の生えた二足歩行の人。
紛れもないここは……何処だよ。
「おいアリス」
「なにアマミネ」
「僕たちはロドリスに向かっていた、違うか?」
「その通りよ」
「僕の記憶が正しければ、ロドリスは人間族の国だった」
「そうよ」
「だが僕たちの目の前に居るのは確実に獣人族と思うんだが」
「えぇ正解よ」
「で此処は何処だよ」
「獣国の一つアニトルよ」
ロドリスから一番近い、と王が言っていた国か。
なるほど、森に入って迷子になり数時間さ迷ったあげく着いた場所は獣人族が住む国。
それだけでも十分不幸なのに、それより不幸なことがある。
それは……
「アリス、獣人族から見た人間族に対しての心証は?」
「簡潔に言って、最悪」
な事だ。
この世界の情勢について王の話を聞いていて一番気になったことは、何故それぞれの種族が別れて国を作っているのか。
考えられる理由としては三つ。
一つ、そこの環境が種族に合っているため、たまたま偏った。
二つ、文化や習慣の違いで起こりゆる可能性がある揉め事を互いが未然に防ぐため。
三つ、単純に自分達の種族以外と仲が悪い。
そしてどうやら三つ目が正解らしい。
先程から殺意までとはいかないが敵意はびしびし周りから感じ取れる。
たが襲ってくる様子も身構えている奴等も居ない、そもそも僕たちの姿を視界に写そうとはしていない。
本能的に僕たちを敵として認識している、そんな感じがした。
「アマミネ、何があっても攻撃しては駄目よ」
「?」
「少しでも攻撃の意思を示そうものなら全員に首を狙われるわよ、獣人族は仲間意識が高いから」
一般人に狙われても大丈夫だろ、と思ったが、獣人族は生まれながらにして動物の特性を持つ種族、戦闘経験の差や強さの大小があるにしろ、身体能力的には鍛えていない一般の人間族を遥かに凌ぐだろう。
ましてやこの人数相手に勝つのは不可能に近い。
「分かった、攻撃はしない」
「取り敢えず、ギルドでモンスターの換金をして貰うわ、それから旅に必要な物を調達して速やかにこの国から出ていくわよ」
「了解」
「主~そろそろ実体化してご飯を食べたいのじゃ」
「この国を出るまで我慢しろ」
「分かったのじゃ」
相変わらず空気の読めない奴である。
一応周りに注意を配りながらギルドを探す、誰かに聞こうにも快く答えてくれる奴が居ないので自力で見つけるしかない。そもそも目を合わそうとしないので答えてくれる以前の問題である。
ギルドでもこんなんだったら、スムーズに換金が出来るとは思えない。
「大丈夫よアマミネ、ギルドは中立の立場としてあるから種族が違っても問題は無いはずよ」
「……そうか」
「まぁ、そこに居る冒険者は別と思うけどね」
物騒な言葉を残し何処かの建物へ入っていくアリス。
良く見たらギルドだ、ロドリスに合ったギルドと違い他の建物と区別が付かないため気が付かなかった。
「本日はどのようなご用件で?」
「モンスターを換金したいの」
「かしこまりました、量はどのぐらいございますか?」
「沢山あるわ」
「それでしたら別室にご案内しますのでそちらでどうぞ」
「分かったわ、ってことだから貴方はそこら辺で待ってなさい」
着いて早々、早々に話を終わらせ別室に移動していくアリス。
そこら辺でって……取り敢えず近くにあった椅子へと腰を降ろす。
それにしても、本当に耳や尻尾が生えているんだな、ファンタジー定番種族だけあって小説オタクの僕は少しだけ興奮していた。
武器は人間族と違って剣使いは少ないな……ほとんどが武道家の様な姿をしている。
周りに視線を配らしながら観察していると、一組の獣人冒険者が近付いてくる。
見た目からして犬と猫の獣人だろう、日本と違ってこちらの世界の犬と猫の相性は良いらしい。
「おいおい、何かここら辺人間臭くないか?ロミオ」
「そうだなアカシ、貧弱そうな虫の臭いがする」
滅茶苦茶、挑発されているな僕……
まぁ普通の人間なら怒って言い返すだろうが、今回は相手が悪かった。
何せ人間族としてのプライドが零に近い僕が相手だからな。
聞こえなかったフリをして視線を別の所に写す。
すると、
「おいおい、何かここら辺人間臭くないか?ロミオ」
「そうだなアカシ、貧弱そうな虫の臭いがする」
同じことを二度も言いやがった。
何だ構って欲しいのか?
それとも、攻撃できないと分かっていて優越感に浸っているだけなのか。
どちらにしても鬱陶しいから止めて欲しい。
無視し続けていると、犬の獣人アカシが僕を指差して怒鳴る。
「おい!そこの人間!」
「……?」
もしかしたら僕以外の人間が居るかも知れないのでとぼけておく。
まぁ指をさされている時点で僕しか居ないけどな……
「お前しか居ないだろ!まったくこれだから人間族は腕力だけじゃなく耳まで弱いのか」
「……」
「だから無視をするな!」
「すまない、耳が弱い人間族なので聞こえなかったもう一度言ってくれるか?」
「聞こえてるじゃないか!」
おっと僕としたことが墓穴を掘ってしまった。
さて、ここからどうしようか。
周りを見る限り止めてくれそうな奴等は居なさそうなのでアリスが戻ってくるまで自力で相手するしか無い。
「何で人間がこんな所に居る!」
「用事」
「何の用事だ!」
「換金」
「何をだ!」
「モンスター」
「そうかぁ!」
一体何がしたいんだ、この犬っころは。
質問しただけで特にこちらを挑発する様な言動は無い。
最初は挑発され逆上した僕を殴ってストレス発散を謀る奴等だと、思っていたが違うのか?
「ちょっと来いアカシ」
「何だ?ロミオ」
手招きでアカシを呼びつける猫の獣人ロミオ、何やらこそこそと話をしているようだが……
自分の耳に強化魔法を掛け聴覚を上げる、この一年でこんな芸当まで出来るようになったのだ。
うん?何々……
「おい挑発しなくてどうする!」
「でもロミオ、一人じゃ何か挑発しづらいんだよ、というか挑発してもあいつ効かなさそうだしよ」
「アホか、あいつを正当防衛と称してボコボコにしてから身ぐるみを剥がして金にしなきゃ今月俺らは生きていけないぞ」
「それはロミオが、賭け事で生活費を使い込んだからだろ」
「兎に角、やるしかないんだ」
「普通にクエスト受けた方が早いだろ」
「馬鹿言え、今の時期ここのギルドは高難易度のクエストしか発注してないんだ、Fランクの俺らじゃクリア出来る訳ねぇだろ」
「採取とかでも」
「討伐しかねぇよこのギルドは!」
「じゃあやるしかないのか」
「やるぞ次は俺が行く!」
勘弁してくれ、そんな個人のどうでも良い都合に僕を巻き込むのは……
別にクエストを受けなくても、獣人だったらそこら辺で適当に倒せるモンスターを見つけて食えば良いだろうに、ってそんな事を考え付く奴等だったらこんな事はしないか……
「おい!人間!」
「何だ」
「……」
「……」
「……」
「……」
「ちょっと待ってろ!人間!」
そう言ってアカシの所まで戻っていくロミオ。
そしてまたコソコソと話始めた。
今度は何の話をしてるんだ?
……お?
「アカシ、挑発する言葉が出てこない」
「だから言っただろ」
「何故だ!あれほど練習したのに、これが本番の重さと言うものなのか!」
「ロミオお前練習なんてしてたのか……」
「当たり前だろ!これは俺達の生活が掛かった大一番だぞ!もし失敗でもしたら俺達に明日は無いぞ!」
「いや後一週間分は食糧もつから今日失敗しても明日は来るぞ」
「そういう意味じゃない!あぁ一体どうすれば……」
「始めの挑発は上手くいったのにな~」
「あ!それだ!」
「どうした?」
「それだアカシ!俺達は一人でやろうとしたから失敗したんだよ!たから二人ですれば」
「成功する」
「その通りだ!アカシ!」
「そうだな……ここまで来たら必ず身ぐるみ剥がしてやるぞロミオ!」
「「行くぞ!」」
その一際大きな掛け声を僕はアリスと通りを歩きながら聞いていた。
丁度あいつらが話始めたぐらいにアリスが換金から帰ってきた。
一応最後まで聞いておこうと強化しっぱなしで出てきたのだ。
久しぶりに面白い物が聞けて口角が少し上がる。
「どうしたの?」
「いや何でもない……演劇でもしたら金を稼げそうな奴等を見つけただけだ」
「?」
何の話?見たいな顔で僕を見つめるアリス。
「そう言えばモンスターはいくらぐらいになったんだ?」
「ざっと500000ミルね」
「結構あるな」
「二人で250000ミル、お金移すからギルドカード貸して」
「あぁ」
「これで良しと」
返されたギルドカードを見ると所持金の欄に250050ミルと表示されていた。
小遣いも貰った次の日の気分だ。
この際だ、武器や防具を買いたい。
ロドリスでは買いたくても買えなかったしな。
「アリス、此処からは少し別行動をしないか?」
「どうして?」
「買いたい物があるんだよ」
「そう、なら私は旅の一式買い終わったらギルドに行くから貴方も終わったら来て」
「分かった」
そしてアリスは真っ直ぐと、僕はギルド方向に歩いていく。
……アリスの奴どうも足取りに迷いが無いがこの国に来たことでもあるのか?
まぁ良いか、それより今はこっちだ。
買うのは良いが場所の検討がまったく付かないので
「おい!人間!さっきは良くも逃げてくれたな!流石人間族は昔から臆病だから逃げ足だけは早くなったのか!」
ギルドに戻ると丁度アカシ&ロミオの獣人が出ていこうとしていく所だった。
猫の獣人ロミオは僕の姿を確認するや否や、もの凄いスピードで近寄ってくる。
強化なしでこのスピードは流石だな。
心で褒めているがそんな事を知らないロミオは怒濤の罵倒を繰り返してくる。
「どうせお前らの種族なんて、逃げ腰で戦う意思の無い穀潰ししか居ないんだろ」
賭け事で生活費を使い込んだ奴に言われる謂れは全く無いのだが今は好都合だ。
「人間族なんて「なぁお前らに頼みがあるんだが」……はぁ?人間族の頼みなんか聞いてやる筋合いはねぇよ!」
「報酬を出すぞ」
「なっ!そ、そんな物で獣人族の誇りを買えると思うなよ!」
「5000ミル」
おっ、ロミオを茶色いくたびれ耳がピクピク動いている。
靡いているな……
「6000ミル」
ピクピク!
「7000」ピクピク!「8000」ピクピク!「9000」ピクピク!「10000」ピクピク!
あんなに動いているのにまだ折れないか……
質の良い武器や防具を買う以外に無駄な出費は出来るだけ少なくしたいんだが、もう少しぐらい上げるか。
「い「ロミオ少し来い」」
「何だ?アカシ」
相談か……まぁロミオよりアカシの方が幾分か常識がある分、これには乗ってくるだろう。
あえてここは盗み聞きはしないでおく。
話が終わりロミオの変わりにアカシ話をし出す。
「なぁ人間」
「何だ?」
「頼みってどんな内容だ?」
やっぱり常識があったな。
ロミオと違いきちんと内容を聞く辺り、アリスよりは賢いかもしれない。
「この国で一番良い武器屋と防具屋を教えて欲しいだけだ」
「……それだけか?」
「あぁ」
「そうか、なら受けよう」
へぇ~、えらいすんなり受けてくれるんだな。
後ろに待機しているロミオは文句は無いらしい、話し合いで納得したのか、それとも良からぬ事を考えているのがバレないように気を引き締めているか。
「で報酬の件だが、本当に10000ミルもくれるのか?」
「あぁ換金で結構貰ったかそれぐらいは余裕で出せる」
うん?ロミオの耳が微かだが動いたな。
もう少しカマを掛けてみるか……
「証拠を見せようか?……ほら」
「!?分かった、案内しよう」
ギルドカードを見せ二人の反応を見る。
アカシは驚いた表情をしていたが、逆にロミオの方は無表情だが耳は確かに動いている。
なるほど……これは面倒な事になりそうだ。
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