第23話 ~やはり罠~

 犬の獣人と猫の獣人の後をついていくと、剣が二つ重なるように描かれた看板がある店へと到着した。


「此処か?」


「あぁ俺の知る限り、一番人気の武器屋だ」


「分かった」


「俺達は外で待っているから買い終わったら声を掛けろ」


 移動中に何か仕掛けてくるかと思っていたが……

 もしかしたら獣人は口が悪いだけで根は良い奴なのか?

 そう思えて来るほど移動中のあいつらは大人しかった。


「いらっしゃいま……せ~」


 前言撤回しよう、根が良い奴なんてこの国には居ない。


 凄い温度差だな、ハイテンションな挨拶から一変僕の姿を確認してからのやる気の降下速度が半端なく早い。

 黄色い長い縦耳に尖った尻尾……狐の獣人か?


「この店で出来るだけ質の良い武器を10種ほど見せて貰いたい」


「剣ですか?槍ですか?何ですか?」


 どうしよう……物凄く殴りたい。


「剣だ」


「剣ならこれですね~」


 と言って出されたのは、普通のそこらへんで売ってそうな剣……馬鹿にしてるよな?


「人間族の身の丈にあった武器を用意したつもりでしたがお気に召さなかったでしょうか?」


 ニコニコな営業スマイルで何言ってんだ?この女狐が…… 


「どうかなさいましたか?人間「止めんか!」……ぐへぇ」


「!?誰だ?」


「すまんな、家の者が迷惑を掛けた」


 いきなり現れ女狐の頭を叩き、ゴツい体を折り曲げ謝罪してくる奴に僕は久しく絶句した。

 というか、早すぎて反応さえ出来なかった。


「それで何を御求めですか?」


「あ、あぁ出来るだけ質の良い武器を10種ぐらい見せて貰えるか」


「少々お待ちを」


 そう言って奥へ引っ込んでいく白髪の男性。

 女狐の方はカウンターにひれ伏したまま一向に動く気配がない。

 死んだか?いや唸っているから意識はあるのか……実に残念だ。


「お待たせしました、剣10種です」


 カウンターの横の広いテーブルに広げられた剣を物色していく。

 とは言ったものの良し悪しの判断なんか出来ないので直感で選ぶしかない。

 ……うん?一つだけ妙に存在感がある紫色の剣を見つけたので手に取ってみる。


「それは魔剣でございます」


「魔剣?」


「はい、魔族からしか取れない魔核という物と魔族の血などを使って作られた剣の事です」


「呪いとかは無いのか?」


「呪いと言った類いはこの剣には無いです普通に斬るだけなら問題はございません」


 何だ、魔剣とか言ったから何か特別な力が隠されているとか、凄い能力があるとか、そんなのを期待したのだが……

 軽く落ち込む僕に白髪男性は言葉を続ける。


「ですが、一つだけ面白い特性がございます」


「それは?」


「スキル喰いです」 


「相手のか?」 


「違います自分のです」


「それは呪いじゃないのか?」


「いえ、普通に斬るだけなら食われません。スキル喰いは、任意で何かスキルを食わせる事によって切れ味、攻撃力を上げるスキルです」


「良い特性じゃないか」 


「まぁ、人気は無いです」


「何故だ?」


「スキルと言うものは、自分の努力で得た能力です、それを食わせる人は中々いません」


 そうか本来スキルってそういう物だったな……

 僕の会得手段は邪道だからそんな事思いもしなかったな。


「その上、食わせなければ普通の剣より少し劣るのでこの中ではあまりオススメはしませんね」


「これにする」  


「え?良いのですか?他にも良い武器がありますが」


「いやいい、いくらだ?」


「50000ミルです」


 ギルドカードを機械に翳し支払いをすませ、店を出る。

 購入した理由は一つ、単に魔剣が欲しかったというのもあるが、スキル喰い、これは僕にピッタリのスキルだ。


 今は少ないが色欲の加護が有る限りいらないスキルは何時か貰うだろう、それを片っ端から食わせればこの剣は強くなる。

 成長する剣……実に良い。


「買えたのか?」


「あぁ」


「次は防具だったな」


「そうだ」


「ならあそこだ、ついてこい」


「分かった……犬の獣人はどうした?」


「用事があるとかで帰った、別に案内役は俺一人でも文句は無いだろ」


 用事か……さて何の用事か気になるが、わざわざ追求するまで無いか。

 無言で先に進むアカシの後を慎重についていく。

 気付かれないとでも思っているのか?

 さっきから殺意がそこらかしこから伝わってくる。

 数十分歩き回らせ連れて来られたのは、人気の少ない裏路地の狭い一角。


「行き止まりだが」


「出てこい!」


 アカシの一喝で僕の退路を防ぐようにして現れた獣人計五人、その中には当然の様にロミオも入っている。

 やっぱこういう事になったか……


「大人しく持っている所持金を全て寄越せ、そうすれば半殺しで済ましてやるよ」


 半殺しにはされるのかよ……普通そこは見逃してやるよ、じゃないのか損しかないな。


「どうせこの人数相手じゃ勝てねぇだろ、無駄に抵抗する方が苦しいぜ人間」


「……」


「おいおいどうした!びびって声も出ねぇのか!流石天下の弱虫人間族だな!」


 馬鹿の一つ覚えの様に高笑いする一人獣人、だが僕は何も言えなかった。

 何故なら、口が悪いあの獣人族のモデルの動物がまさかの犬、しかも耳からしてチワワだからだ。

 凶悪そうな顔を見ても、あの顔より大きい耳が目に入るので迫力不足だ。


「おい!どうした人間!」


「はいはい」


「痛い目にあいたくなきゃ、さっさと金を寄越しやがれ」


「却下」


「何!?てめぇ!この状況が理解できないのか!」


「面倒だから、掛かってきてくれないか?雑種・・


 僕の言葉にアカシ以外の全ての獣人が反応する。

 予想通り。


 それにしても何故アカシは何の反応も示さない?まぁ良いか……


「どうした?早く来いよ雑種・・」 


「てめぇ!骨の髄までしゃぶってやらぁ!!行くぞ!」


「「ぶち殺せ!」」


 五人全員まったく同じタイミングで突撃してくる。

 舐めているのか、単に頭が回らないのか、何の策も立てずに突っ込んでくるなんて馬鹿のすることだ。


「結界」


 ドォオン!!


 突如として出現した半透明な壁に、獣人達は気付かず勢い良く結界にぶつかった。

 そして爆音と共に皆仲良く気絶していった。

 まぁ気付いてもあのスピードで回避するのは不可能に近い事だ。


 無駄に脳筋思考な奴等ばかりで仕掛けるのが簡単で助かった。


 さて残りは猫の獣人のみだな……


「お前はどうするんだ?」


「やるね人間」


 ……何だこいつ雰囲気がさっきまでと全然違う。


「誰だ」


「誰って猫の獣人のアカシじゃないか」


「残念ながら僕の知ってるアカシはそんなんじゃない」


「ふむ、そうか……とり憑いた時は上手くいったが馴染んできてこっちの方が出てきたか」


「何を言っている」


「何こっちの話さ、それで君が噂の異世界人で間違いないかい?」


「……何の話だ?」 


 まずいな……何処の誰かは知らないが僕の素性がばれてる。


「誤魔化しても無駄だよ、君はこちらの人間と違う匂いがするからね」


「辺境の地生まれだからな、他の奴等とは少し違うんだよ」


「まぁそういうことにしておこう、で君は勇者かい?」


「僕が勇者ならこんな所には居ないだろ」


「なるほど一理ある、ま戦ってみれば分かるだろう」


「そっちの都合に僕を巻き込むな」


「どの道、君には死んで貰うから早いか遅いかの違いだよ」


 本当に運が高いのか怪しくなるな……毎度毎度必ず面倒事に巻き込まれる。

 恩恵の戦闘運UPのせいじゃないだろうな。


「じゃあ行くよ人間」


 纏いエンチャント

 アカシ擬きが放った右ストレートを強化した左手で受け止める。


「へぇ本当に強いんだね人間」


 防がれたと言うのにえらく余裕だなこいつ……

 なら纏いエンチャント


 アカシ擬きの右手を掴んだまま回し蹴りを横っ腹に叩き込む。


 手応えは……無い。


「痛いじゃないか」


「そうは見えないが」


「本当さ、痛いと思うよこの猫は……」


 なるほど……こいつが言っていた通りとり憑いただけなら痛覚までは通らないと云うわけか。

 面倒だな、さながらゾンビ相手に戦っているようなものか。


「一つ聞いても良いかい?」


「何だ?」


「勇者って強いんだよね?」


「弱くは無いだろ」


「そうか」


「なん…ガハァッ!!」


 ……何だ何が起こった?

 気が付いたら壁に吹き飛ばされていた……痛みの箇所から見て攻撃されたのは腹。

 飛んだ位置から……右の回し蹴りか。

 危なかった、全身に薄く強化魔法を貼っていなかったら今頃御陀仏だ。


「手加減なしかよ」


「うん?何だ生きてたんだね、流石は勇者」


「僕は勇者じゃ…ないぞ」


 巻き込まれた一般人だっての……

 フラフラになりながらも立ち上がる。

 強化していたとはいえ、ダメージは相当重い。

 肋の1、2本は吹き飛んだな……ハハッ


「何故笑う?」


「知るか、勝手に出てきただけだ」


「まぁ良い、さっきのがこの体が出せる最大出力だから今日はもう帰ることにするよ」


「逃げるのか」


「強がりは嫌いじゃないが好きでもない、君がどうしても続きをしたいっていうのならするけど?」


「いや帰ってくれ」


「……即答、勇者らしくからぬ言葉だな、てっきり悪は許さん系だと思っていたが」


「何度も言っているが僕は一般人だ」


 だから勇者らしい吟じなど持ち合わせていない。

 さっきのは唯の確認だ。


「そうか……じゃあ、また会おう」


「僕としてはもう二度と会いたくないんだが」


「この体では会わないさ」


 その言葉と一緒にアカシから出ていく白い靄。

 あれがこいつに取りついていた奴の正体って訳か……

 全ての靄が抜けるとアカシは糸が切れた人形のように地面に倒れ込む。


「さて、どうするか」


 それにしてもどうしてこう毎度毎度、防具を買えないだろう?一種の呪いか?


 本来なら探してでも買いたい所だが、案内してもらおうにも案内役がこれじゃ役に立たないし、だからといって無理に探し回って迷子になるのも癪だしな。


「アリスと合流するか」


 てか、天妖精あいつ何処行きやがった。

 あいつの蘇生術で治して貰おうと思っていたが肝心な時に居ない。 


 仕方がないので脇腹の痛みに耐えながら元来た道を戻ることにする。

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