第21話 ~終わり~

「馬鹿なの?」


 洞窟にあるベッドの上で目が覚めると、隣に居たアリスが僕を見下ろしながらにそう問い掛けてきた。

 寝起きの奴に対して開口一番がそれか?などと考えていると同じようにアリスに問われる。


「馬鹿よね?」


 一旦僕が馬鹿なのか、どうかは置いておく。


「どのぐらい寝てた?」


「……丸1日よ」


 目を細めアリスは答える。

 なるほど、死んだと思ったが気を失っていただけらしいな。

 というか目覚めた時点で死んでは無いか……

 そんな僕の心境を読んだのかアリスが言う。


「一応言っておくけど、貴方死んでたわよ」


「……」


 やっぱり死んでいたらしい。

 そうだよな、あの時【死】の感覚がしたしな。


「最後使ったあの魔法なんなの?」


「簡単に言うと「簡単に言わないで詳しく言って」……分かった」


 アリスにそう言われたので詳しく無昇ノグトラムについて説明をする。

 静かに聞いてくれるのは有難いがちょいちょい小突いてくるは止めて欲しい。

 全部話終わると、アリスはスッキリしたような顔をしていた。


「馬鹿でしょ」


「ついに疑問じゃなくなったか」


「今の話を聞いてそう感じない人は居ないわよ」


「そうか?わりかしこういう魔法、使う奴ぐらい居るだろ」


「そんな命と引き換えにするような魔法、あっても使うのは貴方ぐらいよ」


「つまり成功例の第一人者は僕ということか」


「何が成功よ大失敗でしょ、一度死んだんだから」 


「生き返ったから良いんだよ」


「相変わらずね貴方……」


 呆れた顔でそう呟くアリスの目が少し赤くなっているのは気のせいだろうか。

 まさか……


「お前な「泣いてないわよ」……僕が泣いているか聞く前に否定するのは肯定の表しだぞ」


「うるさい!」


「痛ッ!死んでた人間に何すんだよ」


 図星だったのかアリスに肩パンをされる。

 というか、僕を殴るためだけに強化魔法掛けるなよ……

 拗ねたようにそっぽ向くアリスに気になっていた事を聞く。


「それで何で僕は生きているんだ?」


「私と天妖精で蘇生させたのよ」


「死んだ人間は生き返らす事は出来ないんだろ」


「だから、私がまず貴方の心臓を動かして蘇生術で回復させたのよ」


「流石だな」


「何が流石だな、よ。貴方…死んだのよ」


「いやいやお前だって殺しにきただろ」


 実際に殺しにきたのはゴーレムだが、指示していたのはこいつだ。

 あの戦闘中の、どの攻撃も当たり所が悪ければ確実に天に召されていただろう。


「あの時のゴーレムには無殺の指示を掛けていたから死ぬ攻撃は当たる瞬間にゴーレム自体が消えるようになっていたのよ」


「そういうことは先に言え」


 最初から分かっていたら無理して戦い続ける必要なんて無かった。


「言えないわよ、もし言ったら貴方最後まで戦わないでしょ?」


「……」


「沈黙は肯定と受け取るわよ」


 どうやら僕の考えはこいつには筒抜けらしい、見透かされたような言い方に無言になってしまう。

 そのせいで肯定と見なされた……言い返そうとはしたが、じと目で見られ何も言えなくなる。


「取り敢えず体の調子はどう?」


「聞くの遅いだろ……まぁ何とも無いな、少し体がダルいぐらいだ」


「そう良かったわ」


 心の底から安堵したようなアリスの声に少し気恥ずかしくなる。

 急にしおらしくなられると反応に困る。


「主~起きたのじゃな~」


 微妙な空気の中、良いタイミングで天妖精がやってきた。

 僕は心の中でナイスと思いながら洞窟の入り口の方へと視線を向ける。


「主よ、大丈夫なのか?」


「あぁ何とかな」


「良かったのじゃ~アリス殿に呼ばれた時は焦ったぞ……アリス殿も泣き止んで良かったのじゃ」


 うんうん、と首を上下させながら染々と言う天妖精に対してアリスは顔を真っ赤に上気させプルプル震えていた。


 これは触れるか、触れまいか……どちらにしようか考えていると天妖精はフワフワ浮きながら僕の周りをクルクル回り始めた。


「何だ?」


「妾なりの喜び方なのじゃ」


「そうか、鬱陶しいから止めろ」


「ふぐぅ!」


 夜中に飛び回る蚊の如く煩わしいので足首を掴みアリスのベットへと叩きつけておく。

 自分で乙女とか言ってたわりには乙女らしくない声を上げながら落ちていく天妖精……


「何時も通りの主なのじゃ」


「当たり前だ、死んだぐらいで性格が変わるか」


「なるほど、何々は死んでも直らないとはこの事なのね」


「おい、アリス聞こえてるぞ」


 というか、その諺こっちの世界にもあるのかよ。


「腹へったな……」


「そう言うと思って作っておいたわよ」 


「……」


「どうかした?」


「お前って料理出来たんだな、てっきり焼く、切る、しかレパートリーが無いのかと」


「貴方を使ってやりましょうか?」


「さて食うか」


 不穏な空気のアリスは置いといて、食事に手をつける。

 アリスには悪いが思っていた以上にまともな味がする。

 このスープの味を形容するなら普通以上に旨い、だろう。


「美味しいな「当たり前でしょ」」


 褒めたら一瞬にして返事が返ってきた……恐るべし反射速度だな。


「それはそうとお前の分の飯は?」


「もうとっくに食べたわよ、この天妖精と一緒に」


「旨かったのじゃ~」


 ベッドの上から復活した天妖精はアリスの端でフワフワし始める。

 アリスもそこまで嫌では無いのか珍しく文句を言わない。

 この一年で打ち解けたのだろう。


「ごちそうさま」


「それで今からどうする?」


「修行が終わったんだ、まずはこの森から出る」


「そうね、そうしましょ」


「賛成なのじゃ」


 一様に同意を示し帰るための支度をしだす、主にアリスが……

 僕は持ち物はあるが取り出していないので直ぐに済む。

 天妖精は元から何も無いのでそのまま。

 アリスは床に転がっている小道具や何やらを拾うのに苦労している。


「先に行ってるぞ」


「そこで手伝うという選択肢は無いのかしら」


 何か言われた気がしたが空耳と判断し洞窟の外へ出る。

 何だろう……今まで外へ出る=地獄の始まり、だったからかこうして普通に出るのが新鮮に感じる。

 我ながら良く生き抜いた……


「お待たせ」


「あぁ」


「行きましょ」


 そう言って何時もの様に先頭を歩くアリス、それについていく様に僕と天妖精。


 修行も終わったし、これから少しぐらいファンタジーな事をしたみたいな……そんな事を考えながら森の中へ消えていく。

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