第20話 ~集大成~

 山籠りを初めてから実に一年の月日が流れようとしていた。


 僕は半年間、地味という言葉では表せきれない様な作業を一日中繰り返してきた。

 指一本ずつに一時間毎に魔力を纏わしそれをキープ、右手が終わったら次は左手、それが終わったら右足、左足、とそんな事を永遠と続けてきた。

 一本が終わると次は2本ずつとか3本ずつとか……最後の方は唯の機械になっていた気がする。

 まぁ、そのかいあってか魔力を完璧に扱えるようにはなった、一応アリスのお墨付きだ。


 それから残りの半年間は戦闘ばっかだ、朝起きたらアリスのゴーレムと一戦、昼はモンスターを十匹狩るまで洞窟に戻れまテン、夜は天妖精相手の組手、はっきり言って地獄であった。

 アリスの奴、寝起き一番でゴーレムで殴ってきやがって……それで文句を言ったら「適当に強化して守るのよ」と他人事の様に答えやがって、実際他人事だろうけど、言い方があるだろう。

 天妖精の組手なんか、もうあれは組手じゃないな、唯の一方的なリンチだろう。

 何?あいつらの怪我したら治したら良い、という脳筋な考え方、そのせいで休む暇など一切無かった。


 そう考えていくと昼が僕にとっての至福の時間だっただろう。

 何故なら明らかに二人より弱い奴等を狩れば良いだけなのだから、あれほど楽な時間は無い。

 あいつらを肉食動物に例えるならモンスターは草食動物だろう。

 襲われているはずなのに襲われている感覚が分からないほど僕はおかしくなってきているのだ。

 何だろう?覇気が無いんだろうな……


「哀愁漂わせて何もの耽っているのよ」


 洞窟の壁にもたれて天井を見ながらボーとしていた僕にアリスは嫌な表現をしてきた。

 年寄りじゃないのに哀愁漂ってるのか僕は……


「早く外に出て、始めるわよ」


「今日で一年目だぞ、今日ぐらいゆっくりしたいんだが」


「駄目、仕上げよ。それに私のゴーレムに負けっぱなしで良いの?」


「あぁ」


「……貴方にはプライドとか無いの?」


 有るか無いか、で言われたらケースバイケースだろう。

 つまりご都合主義の僕からしたら今回のケースに関してはプライドは無い。

 多分あれだ、ヘソの緒と一緒にどっかにいったのだろう。


「行くわよ」


「結局プライド関係無しなんだな」


「そうよ」


 嫌々ながらも立ち上がりアリスの後を重たい足取りでついていく。

 重たくなる理由……簡潔に言えば僕のゴーレムとの戦闘成績、182戦0勝の実に182敗してるのだ。

 こんな状態で誰が進んで戦いたがるんだよ。


「さぁ始めるわよ《錬成・ゴーレム強》」


「いや待て、強なんて初めて聞いたぞ」


「初めて言ったのだから当たり前でしょ」


「だから…」


 もう言わなくて良いか、どうせ聞いてくれないだろう。

 普通のゴーレムにさえ勝てない僕にゴーレム強相手にどう戦えと?

 ボコられたら良いのか?


 まぁやるしかないか

 戦闘前のステータス確認っと……


 ――――――――――――――――――――――――


 名前 アマミネ・タイヨウ


 Lv 56


 体力 2400/2400

 魔力 30000/30000


 経験値 15410

 次のLvUPまで残り 570


 攻撃 D+

 防御 D+

 俊敏 D+

 会心 D+

 運  UNKNOW


 《取得スキル》

 言語解読

 色欲の加護

 無詠唱

 高速詠唱

 快速詠唱

 限界魔力

 結界


 《称号》 

 巻き込まれた一般人・異世界人

 色欲の契約者

 天妖精の守護者・護

 幸運

 激運

 神運

 不憫な者←new

 地獄を体験せし者←new

 死の淵から蘇った者←new


 《ステータス恩恵》

 金運UP

 女運UP

 勝負運UP

 戦闘運UP

 基礎能力UP

 自動回避率15%

 詠唱破棄

 詠唱省略

 詠唱早口

 運UP←new

 運SUP←new

 運USUP←new

 ――――――――――――――――――――――――

 称号だけを見ても僕は良く生きてられたな、としみじみ思う。

 そのせいか、お蔭か分からないが運が限界突破したのだ。

 魔力を見ても僕がこの一年間どれ程分相応な魔力酷使をしてきたのが一目瞭然である。

 戦闘で気絶したのか魔力切れで気絶したのか、たまに分からない時があったからな。

 ステータスは相変わらずだ、レベル56になっても微妙な数値である。


 体力も魔力も満タン、やる気はゼロだが、まぁでもこれで最後だ、魔力使い果たしてでもあの土塊壊してやる。


「準備は良いかしら?」


「良いぞ」


「じゃあ行きなさい!ゴーレム」


 アリスの指示でゴーレムが僕に向かって猛スピードで突進してくる。


 纏いエンチャント


 思った以上のスピードに一瞬気遅れてしたが、直ぐ様冷静になり、全身に強化魔法をかけた後に新しく作った魔法を足にかける。


 加速アクセル


 加速アクセルは強化した足に二重に魔法をかける事によって俊敏さを上げる魔法だ。


 僕は強化した足でゴーレムの突進を横に避けると、直ぐに後ろに回り込み渾身の右ストレートを背中に叩き込む。


 手応えあり……


「え?……ぐっ!ガハッ!」


 完全に背中を破壊したと思ったが、ゴーレムは雄叫び一つ上げると裏拳を見舞ってきた。

 完全に虚をつかれてまともに拳を食らってしまう、両手でギリギリ、ガードは間に合ったが、痛みの度合いからして両腕ともの骨にひびぐらいは入ったか。


「ギブアップかしら?」


 地面に膝をついている僕に向かってアリスは笑みで問い掛ける。

 そんな言い方で誰がyesと答えるか。


「誰がするか」


「そう?じゃあ続けるわよゴーレム!」


 アリスの声と共に高く飛び上がり僕目掛けて急降下してくる。

 流石にあれ食らったら死ぬだろうな……などと冷静な分析をしている場合じゃない。

 腕から来る鈍い痛みを堪え落ちてくるゴーレムから距離を取るようにして下がる。


 ドカァァーーーン!!!!


 鼓膜が破れるかもと思うほどの爆音を鳴らしながら地面にばかデカイクレーターを作って着地したゴーレム。


 おいおい本気で殺す気かよ……背筋が凍るのを感じる。


「はやっ!結界!!」


 直ぐに立ち上がり、こちらへ向かってくるゴーレムに対して避けようとするが初撃の時より明らか早くなっているスピードに思わず声を上げてしまう。

 間に合わないと判断した僕は結界で自分を守るように展開させる。

 金属同士がぶつかったような甲高い音を上げゴーレムの蹴りが止まる。


 その瞬間をついて足を力を入れ距離を取る。


「逃げてばっかじゃ勝てないわよ」


「あんな怪物相手に肉弾戦でもしろと?」


「そうね……でもそれじゃ何時か死ぬわよ、ゴーレム!」


 ははっ、距離を取っても意味がないな……一瞬で詰められてしまう。

 肉弾戦をしようにも両腕骨折、状況を考えると最悪だな、はっきり言って勝てる気がしてこない。

 ということで、諦める事にする。

 僕は立ち上がり棒立ちになる。


「諦めるの?」


「あぁ」


「それじゃあ止めよ!ゴーレム」


「白星は諦めるさ……」


 その瞬間に余分な思考、苦痛が全部吹き飛び、頭の中が真っ白になった。


 視界良好……認識完了……物質硬度分析……完了

 弱角度計算……完了……動作予測……完了

 限界膂力計測……完了……魔力残量計量……完了

 完了……完了……完了……完了……


 めまぐるしく頭の中でゴーレムに関するありとあらゆる事の測定…分析していく。

 速度、力、耐久性、全てを解析し読み解く……これが僕の最後の切り札と呼べる魔法……無昇ノグトラム

 簡単に言えば筋肉や繊維に強化を掛けるのではなく、細胞一つ一つに強化を掛けていく魔法……それにより、情報把握、処理能力、身体能力、人の体に備わっている全ての機能の1段階……いや10段階昇華が可能だ。

 だから


「もうゴーレムの攻撃は当たらない」


「ゴーレム!」


 さっきまで見えることも叶わなかった拳がスローモーションの如く動いて見える。

 僕は余裕を持ってそれを避けると、前腕と上腕を繋ぐ間接部分を逆方向に折り曲げ叩き壊す。

 そして直ぐ様両膝に蹴りを叩き入れ粉々に粉砕する。

 ここまでで凡そ零コンマ何秒の事だろう。


「ゴーレム!?」


「終わりだ!」


 アリスは自分が認識できる範囲まで時間がたつと驚いた様に声を上げる。


 この魔法は痛覚の伝達を無くす効果があるので今は骨折の痛みは一切感じられない。


 逆にデメリットは時間制限があることだ、しかも凄く短い。

 練習で試した事は少ないが、感覚で分かる。


 なのでこちらとしてはアリスが何か策を講じる前に仕留める。


「錬成・ゴ「はっ!!」」


 アリスの詠唱を遮るように声を挙げ、思ったより早く限界に達したフラフラな動きで全身全霊の一撃をゴーレムの胸元に叩き込む。


 痛めた・・・拳はゴーレムの胸を陥没させ、そこから蜘蛛の巣の様に罅が伝わっていき、最後にはバラバラに崩れ原型が無くなっていった。


「……信じられないわ」


 今まで聞いたこと無いようなアリスの声を聞いた所で僕の心臓は活動を停止する。

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