第19話 ~かくして~

「疲れた……」


 練習が終わり洞窟に戻ってくるとベッドに転がりながら小さく呟く。


「主よ、暇じゃ、腹へった」


「妖精、消えろ、口開くな」


 何もしていないのにそんな事を言う天妖精に対して思わずそう言ってしまう。

 すると天妖精は駄々っ子の様に叫び始めた。


「酷いのじゃ!妾が言っておるのじゃ真面目に答えるのじゃ!」


「のじゃのじゃ、うるさいわよ」


 不機嫌な声と共に、隣のベッドから伸びたアリスの手刀が天妖精の脳天に直撃する。

 頭を押さえながら涙目でアリスを睨む天妖精を無視して僕は普通に声をかける。


「おはようアリス」


「おはよう、アマミネ自分の妖精ぐらい管理してよ」


「無茶言うな、こんなの扱える奴なんて居ないだろ」


「……それもそうね」


 短く酷い寝起きの会話を済ませるとアリスはベッドから降りて洞窟の外へと歩いていった。

 僕もその後ろを続く、ついでに天妖精もトボトボ僕の後をつけてくる。


「朝御飯はどうするんだ?」


「昨日の肉の余りあるでしょ」


「腐ってないのか?」


「モンスター化した肉は腐りにくいから食べれるわよ、心配ならそこの妖精に毒味でもさせたら?」


「それもそうだな」


 僕は洞窟の入り口で丸まって地面に円を書いている可笑しな奴に声を掛ける。


「天妖精」


「何じゃ主よ、のじゃと言うしか取り柄の無い上に主に扱えない妾に何のようじゃ?」


 相当引きずってやがるな……洞窟内でのアリスと僕の会話を気にしているらしい。

 主に扱えない、というのは嫌みか何かかな?それとも自分の可笑しさの自覚かな?

 疑問に思ったが、わざわざ言うまい。


「腹が減ったんだろ、昨日の肉食べていいぞ」


「え?……良いのか主よ?」


「あぁ、というか食べろ。でも少しだぞ」


「分かったのじゃ!この天妖精!主の命に従い肉を食べるのじゃ」


 明るい笑顔と共に立ち上がると、一瞬の内に鹿肉がある所まで飛んでいった、文字通りな。

 アリスが予め着けておいた火で焼いた肉を天妖精は受け取るとリスの様に頬を膨らましながら嬉しそうに食べていった。


 食べ終わって満足そうな天妖精に僕は質問する。


「天妖精、体の具合はどうだ?どこか悪いとか気持ちが優れないとかあるか?」


「主~、そこまで妾の事を心配してくれるか~嬉しいぞ」


「で体の調子はどうだ?」


「何ともないのじゃ!元気じゃぞ」


「そうか」


 僕が短く返事をすると天妖精は頬を綻びさえながら何処かへ飛んで行ってしまった。

 しかしながら、羽もないのに飛べるんだな妖精って……そんな事を考えながら段々と遠くなっていく天妖精を見ていた。


 それにしても……


「アリス、僕は罪悪感が少しあるんだが……」


「奇遇ね、私も少しだけあるわ」


「「でも、何故か苛めたくなるんだよな(なるのよね)」」


 天妖精は着物派手、チャラチャラしてそう、一人称が妾、空中浮いている、何故か五月蝿そうな雰囲気……実際も五月蝿が、見た目は完全に小学生と同じなのだ。


 そこに少しだけ罪悪感あるが、天妖精への対応の仕方には僕とアリスは思っている所は一緒であった。


「さて腐ってないことを確認出来たことろで食べましょ」


「そうだな」


 そう言って僕達も肉を食べ始める、新鮮では無いので昨日よりは質は落ちるが、まだ旨いと言える味だ。


「アリス、今日は何するんだ?」


「未定」


「……はぁ?」


 アリスの思ってもみなかった返事に虚をつかれ一拍置いてから僕が声を上げる。


「どうすんだよ今日」


「今考えてる」 


 暫しの間二人の肉を粗食する音と鳥の囀りだけが森の中に響く。

 ヂュンヂュン、と鳴く生物を果たして鳥と呼んで良いものか僕は些か疑問を感じたのである、などと下らない事を考えながらアリスが案を出すのを待つ。

 肉を齧り初めてから半時間は経ったか……アリスは目を瞑りながら真剣に考えている様に見えるので僕は静かに待つ。

 すると、木の向こうから天妖精がフワフワとゆっくり近付いてきた。


「主」


「どうした天妖精?」


「そう言えば妾の能力を言って無かったのじゃ」


「知ってる」


「な、なんじゃと!?何時の間に妾の情報を」


「お前の能力なんて1日一緒に居たら分かる、お前の能力は……」


「妾の能力は?」


「人を苛立たせる事、だろ」


 僕は自慢げな顔でそう言い切った。

 こいつを観察した所、見た目、性格、口調、全部が他人のヘイトを自分に集めて注意を引くという囮役の能力だった、ということだ。

 これが僕の見解だ。

 でないと、こんなに鬱陶しい訳がない。


 天妖精を見ると空中でプルプル震えている、きっと当てられて悔しいのであろう。


「まぁ、気にすんな」


 僕は優しく肩に手を置いて上部だけで慰めてやる。


「怒ったのじゃ……」


「何か言ったか?」


「妾がこんなに侮辱されたのは生まれて初めてじゃあ!!」


 見た目完全に小学生の怒りの叫びが森中に木霊した。

 天妖精は魔法も使っていないのに視覚出来るほどの魔力を身に帯びている。

 圧倒的な王者の威圧、今自分にのし掛かっている重圧を言葉で表すならこんな感じだろう。

 だが僕は冷静だ、何故か?対処法を知っているからだ。

 初対面の奴に対しての僕の観察眼は人の倍以上の力があるだろう、なので状況打破に繋がる突破口は分かる。


 僕は立ち上がると、程よく焼けた香ばしい匂い漂う鹿肉を一塊掴み天妖精に投げ付ける。


「ご飯だぞ」


「はっ!?鹿肉!妾のだぁ!……美味しい、旨いのじゃ、この焼き加減といい最高なのじゃ!」


 そう、見た目は完全に小学生の奴の思考回路は完全に幼稚園児なのだ。

 だから癇癪起こしたら飯を与える、凄くシンプルで簡単な事だ。

 怒るのにもカロリーがいるからな、朝御飯を食べたとは言え僕の命令で少ない量だったからな……


「機嫌直ったか?」


 未だに肉を食い散らかしている天妖精に話しかける。


「直る?何の事じゃ、妾はずっと上機嫌だぞ、それにしてもやっぱり肉は旨いな」


 ほら、幼稚園児だろ?


「それで天妖精、お前の能力について教えて欲しい」


「妾の能力は、蘇生術じゃ」


「おぉ」


 今までのこいつからでは想像もつかない凄い能力だった。

 人を苛立たせる能力とか言ったのは誰だよ……あぁ僕か。


「蘇生か、死んだ人を生き返らすとか出来るのか?」


「う~ん、それは無理じゃ」


「何でだ?」


「妾の蘇生術は、人を生き返らす事をじゃなくて肉体を生き返らす事じゃからな」


「怪我を治す……回復魔法みたいなものか」


「それは違うのじゃ、妾の能力で治せるのは怪我と病気なのじゃ、生きてさえいれば妾に治せない物は無いのじゃ」


「なるほど回復魔法の上位って事だな」


「そういうことなのじゃ、あ!ちなみに契約妖精は基本的に主から魔力供給をして貰わな消えるのでよろしくなのじゃ」


「面倒だな……どんな風に供給ってするんだ?」


「簡単なのじゃ、妾は主に触れてさえいれば勝手に貰っていけるのじゃ」


「よしこれから僕に触るなよ」


「酷いのじゃ!魔力供給が無いと妾は実体化出来ないのじゃ」


「実体化ぐらい別にしなくて良いだろ」


「駄目なのじゃ、ご飯が食べれないのじゃ」


「本気で触るなよ」


「酷いのじゃ~」


 天妖精は空中でメソメソしだしたが面倒だからほっておく。

 それにしても蘇生術か……これは思わぬ拾い物だな。


「おい天妖精」


「何じゃ?」


「結界っていうスキル知ってるか?」


「当たり前じゃ、それは妾が主に与えたスキルなのじゃから」


 やっぱりか……ステータスを見てそう思っていたがくれるなら蘇生術が欲しかったな……

 まぁそれはそれとして、


「結界の詳しい能力について教えてくれ」


「分かったのじゃ、簡単に言えば結界は防御魔法の簡易版なのじゃ」


「……そもそも僕は防御魔法を知らない」


 何でもこの世界の常識を知ってる前提で話されたら僕としては堪ったもんじゃない。


「何とも説明が面倒な主なのじゃ~」


「お前ご飯抜きな」


「冗談じゃ主!教えがいがあって良いのじゃ」


 僕の言葉で青ざめた顔をした天妖精は見事なフォローから長々に説明をし始めた。

 約十分間のの説明を纏めると、要するに結界とは自分を中心とした半径5mの範囲で発動出来る守り特価のスキルらしい。

 形は魔力量におおじて変えれるらしいのだが、僕の魔力量だと変えられても精々大きさだけで形は長方形だけらしい。

 しかも、一回使用する毎に最低でも500は使うので僕のMAXの魔力でも三回しか使えない。

 その代わり張ればどんな攻撃でも絶対通さないらしいので、使い処によっては役に立つスキルだ。

 ちなみに、こいつの蘇生術も怪我や病気の具合で消費魔力は変動するらしいのだが、小さな怪我でも最低1000は要るらしい。

 疑問に思ったので聞いてみた。


「妾の蘇生術は質が良いので、1の怪我を治そうとしても使う魔力の最低限度は1000からなのじゃ」


 すると、分かりやすい様で分かりにくい返答が返ってきた。

 つまりは、怪我の具合……大きい怪我や病気に合わせて魔力量は調整できるが、小さい怪我や病気に関しては調整できず使うと必ず魔力1000分の蘇生術が発動する、と言うわけか……

 何ともまぁ気の利かないスキルなのだろうか……結界もそうだし。


「というかそもそも蘇生術って僕の魔力を使うのか?」


「当たり前じゃ」


「ちなみにお前って魔力をどれだけ貯めれる?」


「無限に貯めれるのじゃ」


「で、今の残量は?」


「主との契約時に貰った魔力と契約後にコソっと貰った魔力に今まで溜め込んだ魔力を会わせると……残り6000なのじゃ」


 ぶつぶつ言いながら顎に手を置き思考していた天妖精は顔を上げ言う。


 6000か……少なくないか?

 と思ったので質問をする。


「気が付いたら減ってたのじゃ」


 と何とも言いようが無い返事が返ってきて僕は肩をすくめる。

 嫌みの一つでも言おうとしたその時に頭の脳裏に、さっき僕が怒らしてこいつに魔力を使わしてしまった事がよぎる。

 魔法は使ってなかったが魔力が漏れていたのでそのせいで減ったとしたら……と考え出してしまい結局何も言えなくなった。

 無言の時が暫く続くと焚き火の方からアリスの声が聞こえる。

 振り返ると背筋を伸ばしながらアリスが立っていた。


「よし決めたわ」


「……やけに長かったな」


「真面目に考えてたのよ」


「そうか……それで結論は?」


「アマミネには基礎中の基礎からやって貰うことにするわ」


「なるほど」


「よくよく考えたらアマミネには知識が無さすぎるのよ、それはもう赤子ぐらい」


「無知なのは認めるが一言余計だ」


「でも戦闘は初めてにしては上手だったわよ」


「急に上げてくるな、何なんだよ」


「取り敢えず半年間ぐらい基礎を貴方に叩き込む、それから応用に入ることにするわ」


「もうお前に任せる」


「私が良い魔法使いにしてあげるわ」


「はいはい」


 前科があるので期待せずにアリスの要望を肯定する。

 一部鹿肉が大量に無くなったことに関して凄く怒られたが、こうして僕の本格的な修行が始まるだった。

 どうなることやら……心配しか無い。

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