第17話 ~初勝利~

 うん?何だこの感触?岩か?違うなもう少し柔らかいなにかだ……

 凹凸の無い一肌のような何かつまり


「……背中?グハッ!!何だ!モンスターか……って何してんだアリス?」


 急に腹部に発生した痛みと共に起き上がると顔を赤く染めたアリスが強化した腕を振り上げて待機していた。

 てかさっきの痛みって……


「待てアリスそれは死ぬ、マジで死ぬ」


「……」


「怒っているのか?僕が何をしたって言うんだよ」


「私は……」


「私は?」


「まだ成長期が来てないだけ、分かった!?」


 急に何だこいつ……

 どう考えても僕と同じ年齢か其以上の癖に成長期なんてとっくに終わっているだろ、なんて怒りの形相のアリスの前では口が裂けても言えない。


「分かった!?」


「……はい」


「ならよし!」


「そうか」


「起きたらご飯調達しに行くわよ」


「え?モンスターか?」


「当たり前よ!ほら早く支度して!」


 朝からテンション高すぎだろ……

 まぁ良いか。

 てか何で僕下半身パンツしか履いてないんだ?途中で脱いだ記憶は無いんだけどな……


「まだ!?」


「直ぐ行く」


 これ以上待たして不機嫌にさせるのも危ないから急いでズボンを履き洞窟を出る。


「それでどんなモンスターを狩るんだ?」


「チェー、っていう鹿のモンスターよ」


「いや鹿で良いだろそれ」


「鹿とは違うわよ、モンスター化してるから」


「モンスター化?」


「普通の動物がモンスターになる事よ、モンスターっていうのは動物の体が魔気と呼ばれるモンスターから出る空気を取り込まれて変化した姿なのよ」


「何がどう変わるんだ?」


「単純に狂暴性が増すのよ、中には大きさも変わる個体も居るけど一番はそれね、どんな動物だろうが一貫して人を襲うようなってしまうの」


「危ないのは何となく分かったが、魔気というのはどういうものなんだ」


「魔気はモンスターの中で作られる魔力よ、だから魔力を持ってない動物には変な作用をするのよ」


「僕達には害はないのか?」


「同じ魔力回路を持っている私達には何もないわ」


「そうか、モンスターって旨いのか?」


「モンスター化で肉質も変化するけど食べれるわよ、美味しさは個体によるけど結構いけるわ」


「なら期待しとくわ」


「一つ言っておくけど狩るのは貴方だからね」


 ほぉ、魔法を使えない身体能力小学生並みの戦闘経験皆無の僕にモンスターを倒せとこいつはそう申しているのか?

 張り倒したい。


「誰も武器も無しとは言ってないわよ貴方にはこれをあげる」


「弓矢か?」


「そうよ、使い方ぐらいは流石に知っているでしょ」


「まぁな」


「接近戦なんて出来ないのは知ってるから後方からこれで仕留めて、失敗しても私が居るから安心してやりなさい」


「分かった」


「それと強化魔法は自分以外にも使えるから覚えといて」


「それはどういう意味だ」


「自分で考えなさい、修行は始まっているわよ」


「分かったよ」


 弓と何本かの矢を持って僕とアリスは森の中に入っていった。


 ――――――――――――――――――――――――


 腰より長く生えた草を手で退けながら前に進んでいく。

 ここまで来ると方角も狂い始め洞窟のあった場所になど自力では戻れないだろう。

 そんな感じで歩いていると先導していたアリスが動きを止め屈む。

 僕も同じように屈み小さな声で話し掛ける。


「何か居るのか?」


「チェーよ、5m先にある川で水を飲んでいるわ」


「僕はどうすれば良い?」


「貴方は近くの木の陰から弓の準備をしていて、私はもしもの時のために待機しておくから」


「了解」


「良い?チャンスは一回よ、失敗したら矛先は貴方に向くわ」


「あぁ分かった」


「 後チェーは皮膚が硬いからどうすれば貫けるか頭で考えるのよ、合図は出すからそれに合わせて射るのよ」


「あぁ」


 返事を互いが行動を開始し始める。

 僕は木の陰で弓矢を射る準備をする。

 アリスは後方で待機している。


 ドクンドクン


 心臓の音が耳の奥に聞こえてくる。

 こんな緊張は生まれて始めてだな、盗賊の時でさえも冷静でいられていたんだがな……

 でも……悪くないな。


 強化魔法は自分以外にも使える、とアリスは言っていた。

 それはつまり付与のことだ。


 矢をつがえながらまずは自分の腕に魔力を纏わせる。

 多すぎず少なすぎずチェーの皮膚を貫通出来るような鋭さを、当たっても砕けないような強度を、イメージを完成させると腕に纏った魔力を指先に集めてから矢へと移動させていく。


 矢が真っ白に染め上がったのを確認すると心の中で呟く。


 纏いエンチャント


 ……よし!成功だ。

 魔力も問題ない、気絶の兆候も無い。

 ……気絶の兆候って何だよ、と思わず自分でツッコンでしまった。


 僕は弦を力の限り引っ張り焦点をチェーへと定めていく。

 チェーは相変わらず川の水を飲んでいて動く様子は無い。


 それにしても、鹿がモンスター化した姿と言っていたが正直面影が見当たらないんだが……四北歩行は変わらないが色は真っ黒で角なんて歪な形をしている。

 とぐろを巻いた様に捻れ合った角先なんて鋭い槍みたいに見える。

 刺されたら只では済まないだろう。


 合図を待つ間そんな事を考えながら時間を潰しているとアリスからの視線を感じる。

 向くと指を三のマークを作りながら少しずつそれを折り畳んでいく。

 拳になると同時にチェーに視線を移し矢を射る。


 ヒュン!


 気持ちの良い音と共に放たれた矢は真っ直ぐチェーに向かっていき見事に頭に命中し断末魔を上げそのまま倒れ込む。


 こうして僕の初戦は完全勝利で終わった。


 ――――――――――――――――――――――――


「「旨い!!」」


 焚き火の前で仕留めたチェーの肉を食べながらアリスと僕は叫ぶ。

 鹿肉は美味しいと日本で聞いた時は嘘と思っていたがこれはいける。

 モンスター化したせいなのか少し臭みがあるが、そんなの気にしないほどに肉単体としての味が絶品だ、口に入れ噛んだ瞬間に広がる濃厚な肉汁だけで凄く幸せな気分になれる。これは中毒になりそうだな。


「マジで美味しいなあ」


「やるな主よ、モンスターの味が分かるとは主も立派な冒険者じゃな」


 いや誰だよ……

 アリスの奴、鹿肉が旨過ぎたせいか可笑しくなってまったくの別人のようになってやがるな。

 此処は一発盛大にツッコミ日頃の恨みをしなければならないな。

 そして右腕を上げアリスの方へ振り向くと、


「いや誰だよ」


 本当に別人が僕の横で鹿肉を頬張っていた。

 アリスは見えていないのか?

 気にせず食べ続けているので声も聞こえて無いのだろう。

 そいつに僕はもう一度同じ質問を繰り返す。


「誰だよ」


「妾か?妾は天妖精じゃ、主と契約した感じのフリーだった妖精、よろしくな主」


 と、めっちゃ軽い感じで自己紹介してきた。 うん?何だこの感触?岩か?違うなもう少し柔らかいなにかだ……

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