第16話 ~秘密の練習~

 混濁する意識の中で微かに聞こえてくる声、きそうな嗤いそうな嬉しそうな怒るような、色々な感情をかき混ぜてそれ・・は僕に聞いてきた。


 何で苦しそうなの?


 その質問に僕は何も言えない、何も言わない、何も語らない、唯永遠と聞こえてくる声に身を委ねるだけ。


 何で悲しそうなの?


 答えない。

 自分がそうなったのは偶然であり必然であり運命だ。

 何をどうしようと変わる事の無い偶然を……

 どうしても忘れることの出来ない必然を……

 自分の人生を擲っても許されない運命を……

 それは凄く当たり前な事で酷く非常識な事だろう。


 何で生きているの?


 別に意味なんてものは存在しないだろう。

 その場の空気に流され偽りの仮面を被りありもしない感情を在るようにし生きているだけ。

 心の奥は無意味に無作為に無情利だとしても……

 謝る気持ちも泣きたい思いも叫びたい言葉も全て誰にも聞こえないように、誰にも言わないように深く強く封じて人生を終える。

 これが僕が出来る唯一の弔い方だろう。


 そうなのね……なら私は


 そこで途切れる声。

 それと同時に起き上がる意識……嘘の人生を偽りの自分で謳歌しようか。


 ――――――――――――――――――――――――


 目覚める……

 まだ朦朧としている頭で状況を確認する。

 ゴツゴツした岩の感触、天井の岩から滴る水滴、ここは洞窟の中だろう。

 アリスの姿は無い、取り敢えず起き上がり体の調子を確かめ指先を見る。

 そこにフワフワ妖精は居なかった。


 一応ステータス確認……


 ――――――――――――――――――――――――


 名前 アマミネ・タイヨウ


 Lv 11


 体力 59/132

 魔力 400/1500


 経験値 660

 次のLvUPまで残り 120 


 攻撃 G+

 防御 G+

 俊敏 G+

 会心 G+

 運  SSSS+


 《取得スキル》

 言語解読

 色欲の加護

 無詠唱

 高速詠唱

 快速詠唱

 限界魔力

 結界←new


 《称号》 

 巻き込まれた一般人・異世界人

 色欲の契約者

 天妖精の守護者・護←new

 幸運

 激運

 神運


 《ステータス恩恵》

 金運UP

 女運UP

 勝負運UP

 戦闘運UP

 基礎能力UP←new

 自動回避率15%

 詠唱破棄

 詠唱省略

 詠唱早口

 ――――――――――――――――――――――――

 見なかったことにしても良いかな……自分のステータスを見てそう感じてしまう。

 見る度に新しいスキルが追加されているのは有り難いが……言葉だけで意味が伝わらないスキルばっかりだ。もう少しぐらい分かりやすいスキルが欲しいものだ。


 今回は結界か……よしアリスに全部聞こう。

 僕がそう結論付けるまで時間は数秒掛からなかった。


 早く戻って来て欲しい、と心に思いながらゴツゴツした岩に背中を預けアリスの帰りを待つ。

 暫くしてこちらに近づいてくる足音が一つあった。


「今回は起きるの早かったのね」


「まぁな」


「慣れたのかしら?」


「気絶の慣れって怖いな」


「気絶の玄人が何言っているのよ」


「誰が玄人だ」


 アリスは木を何本か腕に抱えたまま僕に話し掛けてきた。

 それにしても気絶から目覚めた奴に掛ける言葉がこれだ、流石としか言いようがない。


「僕が気絶してからどうなった?」


「貴方の指に付いていた天妖精が消えてから貴方を背負って休む場所を探したわ」


「何時もながらどうも」


「感謝してるならもう少しぐらい感情込めても良いと思うけど?」


「……それでアリス聞きたいことがある」


「無視ね……何?」


「さっきステータスを確認したんだがまた訳の分からんスキルが増えてた」


「多分訳が分からないのは貴方の素養の無さね」


「うるさい」


 こちこら技術ばかりが発展している世界の住民だぞ、と声を大にして言ってやりたいが言ったところで頭の可笑しい奴と思われるのが落ちなので口には出さない。


「で結界って言うスキルなんだがどういうものか知ってるか?」


「結界って……貴方まさか天妖精と契約したの!?」


「急に大声出すな、頭に響くだろ」


「それはごめ…じゃなくて答えて!天妖精と契約したの?」


「契約かどうかは知らないが、称号の欄に『天妖精の守護者・護』と追加されてる」


「はぁ~厄介なのになつかれたわね」


「詳しく教えろ」


「偉そうに……まぁ良いわ、天妖精はその昔ある事件で死んだ土地を復興させるために神からの使い魔としてこの地に居たらしいの、でもそれには大量の魔力を使う必要があってそれで天妖精は魔法の媒介となる契約者を探しそれと契約することで土地を回復させていったの」


「つまり何が言いたい」


「滅多に姿を現せない天妖精が現れて契約を貴方としたのよ?これはもう厄介事に巻き込まれる予兆としか思わないわ」


「考えすぎだろ」


「いやそうでもないのよね、実際天妖精が現れた時期には決まって何か大きな事が起きるのよ、しかも天妖精に会った人周辺で……」


 最悪だな……

 折角城を出てきたのに、まさかこっちの方で面倒事に巻き込まれる可能性が出てくるとは……

 まぁまだ絶対に起こるとは決まっていないことだ、気楽に考えておくか。


 決してフラグになる事は言わないようにだけ気を付けておこう。これ大事なこと。


「それで何だったかしら?」


「結界だよ結界」


「あぁ結界ね、確か物を閉じ込めたり壁を張ったりする能力だった気がするわね」


「無茶苦茶適当だな、いつもの長い説明のくだりはどうした?」


「天妖精に盗られたわ」


「さいですか」


 詳しい能力が分からないと使う気になれないんだがな。

 まぁシンプルにアリスの言う通りだとすると需要は結構あるはずだ、しかも防御として使える優れもの、今の僕にはピッタリだ。


「それでアリス、これからどうする?」


「そうね~、取り敢えず暗くなってきたし今日はもう寝ましょ」


「そうだな」


 アリスは手に持っている木を地面に置き、焚き火をし始めた。


「お前の錬成魔法とやらで木ぐらい作れるんじゃないのか?」


「私も疲れてるの魔法なんか使って誰かさんみたいに倒れでもしたらどうするのよ」


「まぁそうだな、後、誰かさんみたいに、は一言余計だ」


「さて、おやすみ」


「……おやすみ」


「一応言っておくけど襲わないでね」


「誰が自分より強い女を襲うんだよ」


「分からないわよ貴方のナニで私をくっ「おやすみ」」


 何だこいつ、たまに下ネタに走らないと死んでしまう病気なのか?

 これ以上は色々危ないので早く寝ることにする。

 アリスのリュックから毛布も一枚貰うと、それを被り目を閉じる。


 ――――――――――――――――――――――――


 まだ夜が明けていない内に僕は体を起こす。

 アリスにばれると色々と面倒なので起きているかどうか確認しておく。


「アリス」


「うぅ~んスゥースゥー」


 よし完全に寝ているようだな。

 それにしてもこいつ魔法は使わないとか良いながら何ちゃっかりベッド作ってんだよ。

 寝心地が良さそうな顔で熟睡しやがって……


 ま、それはそうとして僕が起きた理由は勿論夜這い、ではなく魔法の練習のためだ。


 気にしないとは言ったがアリスの言う通り厄介事が近い内に訪れる可能性があるなら力を付けといた方が身の安全が守られる。


 始める前に魔力の残量だけ確認しとくか……

 ――――――――――――――――――――――――


 名前 アマミネ・タイヨウ


 Lv 11


 体力 132/132

 魔力 600/1500


 経験値 660

 次のLvUPまで残り 120 


 攻撃 G+

 防御 G+

 俊敏 G+

 会心 G+

 運  SSSS+


 《取得スキル》

 言語解読

 色欲の加護

 無詠唱

 高速詠唱

 快速詠唱

 限界魔力

 結界←new


 《称号》 

 巻き込まれた一般人・異世界人

 色欲の契約者

 天妖精の守護者・護←new

 幸運

 激運

 神運


 《ステータス恩恵》

 金運UP

 女運UP

 勝負運UP

 戦闘運UP

 基礎能力UP←new

 自動回避率15%

 詠唱破棄

 詠唱省略

 詠唱早口

 ――――――――――――――――――――――――


 僕は洞窟から出ると、少し離れた場所で練習を開始する。


「まずは強化から……」


 血液の流れを意識し指先から出すようにして魔力を出し纏わせる。


 纏いエンチャント


 心で呟くと自分の人差し指が白い膜で覆われる。


「まずは一本から……ハッ!」


 近くにある木の幹に指を思いっきり突き刺す。

 指は深々と刺さっていき止まる。

 それを永遠と続ける。

 等間隔で幹の周りを歩きながら指を突き刺していく。


「ハァハァ…これぐらいか……」


 スタート地点まで戻ってくると一旦強化魔法を解いておく。


 そして直ぐにステータスを確認。

 見たいのは魔力の部分。

  

 ――――――――――――――――――――――――


 名前 アマミネ・タイヨウ


 Lv 11


 体力 132/132

 魔力 100/1500


 経験値 660

 次のLvUPまで残り 120 


 攻撃 G+

 防御 G+

 俊敏 G+

 会心 G+

 運  SSSS+


 《取得スキル》

 言語解読

 色欲の加護

 無詠唱

 高速詠唱

 快速詠唱

 限界魔力

 結界


 《称号》 

 巻き込まれた一般人・異世界人

 色欲の契約者

 天妖精の守護者・護

 幸運

 激運

 神運


 《ステータス恩恵》

 金運UP

 女運UP

 勝負運UP

 戦闘運UP

 基礎能力UP

 自動回避率15%

 詠唱破棄

 詠唱省略

 詠唱早口

 ――――――――――――――――――――――――

 始める前が600で今は100、つまり500使ったわけだ。

 そして刺し始めてから約50分、簡単に計算するなら一分間で消費する魔力は凡そ10……

 魔力がMAXの場合150分ぐらいまでは持つ量だな。

 でも、木の刺し口からみてもこの木の幹を指で刺すのはもう少し魔力が小さくても良いはずだ。

 状況によって力の消耗を考えてもいないと無駄遣いになってしまう。

 何をするにも効率良く、と剣崎も言っていた気がする。やっぱり気のせいだな……

 おい!と何処からか剣崎の声が聞こえた気がするではないが今は無視だ。

 今すぐにでも始めたいが魔力残量が少ないので続きは明日することにする。

 それに夜も明け始めた。


 僕は洞窟に戻り、未だに気持ち良さそうな顔で寝ているアリスにデコピンを食らわせてから自分の布団を被り寝る。

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