第14話 ~すべきこと~
腰まで延びた生い茂る雑草を掻き分け下に
「おい、昨日の今日でこう言うのも何だが……お前の弟子辞めて良いか?」
「……」
「無敗の魔法使いという言う異名と前の戦闘で期待できる、と思っていたのは事実だ」
「……」
「そんで昨日、私は厳しいわよ?と聞いてきた時お前を信じて付いていこうと思ったのも事実だ」
「……」
「でも……これは無いよな?」
「……仕方ないでしょ!」
アリスの大声が森に木霊する。
――――――――――――――――――――――――
数時間前……
僕は体の調子を万全に整え部屋を出てアリスが居るであろう一階の食堂へと向かう。
食堂に近づく毎に大きくなる男等の話し声に耳が痛くなるのを感じながらアリスがいる机へと向かう。
「おはよう」
相変わらず自分以外は誰も居ません感漂わせるオーラは流石なものだ、と心で感心しながらスープを飲んでいるアリスに話しかける。
「うん?……おはよう、今日は起きるの遅いわね」
「久し振りに熟睡したからな」
「そう……ご飯食べたら修行を開始するから貴方も早く食べて」
「分かった」
そう言ってまたスープを飲み始めるアリスを尻目に僕はカウンターへと向かう。
給食のおばちゃんみたいな格好の人にライミとスープを頼む。
ライミは、僕の世界の米と見た目も味も良く似ている物だ。
そしてスープ、これはもう滅茶苦茶に旨い。何の味か形容し難いがとにかく旨い。具は一切ないシンプルなスープだが旨い。
さっきから旨い言い過ぎだな……
「はいよ、大盛りライミとスープ」
「どうも」
「数年此処で働いているけどライミを食べる人なんて久し振りにみたよ」
まぁこっちの世界ではあまり人気は無い……不味いわけではないが味に癖があるため食べる人が限られているらしい。
「こんな旨い物、何で皆が食べないのか僕には理解できない」
「変わってるねぇ、まぁ私としては在庫が減るから有難いけどね」
給食のおばちゃんは笑いながらそう言うとライミとスープが乗った盆を僕に渡してくる。
それを受け取るとアリスが居る机へと戻る。
「おかえり、ってライミなんて貴方食べるの?」
「あぁ」
「よくそんなの食べるわね、私の村ではライミは家畜の餌よ」
「今からライミを食べようとしてる奴に何て事言ってくれるんだ」
「事実を言ったまでよ」
「そうですか」
朝から毒舌なアリスはほっといてライミを一口、口に放り込む。
相変わらずの米だな、噛めば噛むほど甘くっていく。
米の甘さを噛み締めながらスープを合間に食べ、ここぞとばかりに盛られているライミを消化していく。
全部食べ終わる頃には周りの冒険者達は居なくなっており凄く静かだ。
空になった盆をカウンターに返しに行き、アリスと一緒に宿屋を出る。
「それでアリス、練習って何すれば良いんだ?」
「そうね……貴方の場合、魔法に関しては魔力操作は完璧だから後は魔力制御かしら」
「操作と制御は違うのか?」
「全然違うわよ、操作は魔法を使うまでの動作、制御は魔法を使ってからの動作、だもの」
「なるほど、じゃあ僕はその魔力制御の練習をすれば良いって事か」
「一概にもそうは言えないのよね」
「どういう事だ?」
「貴方、元々のステータスが酷く低いでしょ?」
「酷くは付けなくても良いだろ、低いのは事実だけど」
「私の見立てでは、F-からG-の間だと思うけど昨日の戦闘で上がったもしれないから確認してみて」
そうか、昨日盗賊を一人殺したんだレベルが上がっている可能性があるよな
ステータス……
――――――――――――――――――――――――
名前 アマミネ・タイヨウ
Lv 11
体力 132/132
魔力 500/500
経験値 660
次のLvUPまで残り 120
攻撃 G
防御 G
俊敏 G
会心 G
運 SSSS
《取得スキル》
言語解読
色欲の加護
無詠唱
限界魔力
高速詠唱
快速詠唱←new
《称号》
巻き込まれた一般人・異世界人
色欲の契約者
幸運
激運
神運←new
《ステータス恩恵》
金運UP
女運UP
勝負運UP
戦闘運UP←new
自動回避率15%
詠唱破棄
詠唱省略
詠唱早口←new
――――――――――――――――――――――――
レベルはっと……結構上がっているな、やっぱり盗賊だから経験値はそこそこあるのか。
それと色欲の加護のお陰か……
体力も上がっている、後魔力、基準がないから良く分からないがこの量は限界魔力の恩恵だろうな。
そして……どうなってる?僕のステータスは。
G-からGに上がったことは嬉しいがそれ以上に運の上がり方が半端無いな……
SSSSってエラーとしか思えないんだが、まぁ今は気にしなくて良いか……
スキルは、何故無詠唱を取った後なのにこうも要らないスキルが増えていく?本当にランダムか疑いたくなる。
でも、それ以上に運SSSSを疑いたい。
運があれほど高いなら良いスキルぐらいくれたって良いだろうに……
称号には神運か、恩恵を見る限り戦闘運UPで間違えないと思うがそもそも戦闘運UPって何だ?
自分の能力も把握できないとか最悪だな……
――――――――――――――――――――――――
色欲の加護
能力①
異性または同姓とスキンシップを取ることでポイントが貰えます。
ポイントが増える毎にランダムでスキルを取得出来ます。
今現在 1000P
スキル取得まで 500P
能力②
殺意を向けられた人数分だけ貰える経験値が増大する。
(条件……一分の間で50人以上の殺意を受け、それに耐える。殺意の大小は関係なし。
適応……人間族、獣人族、魔族)
今現在 116人
経験値UP 2.16倍
能力③
???????(後99)
――――――――――――――――――――――――
唯一見れる色欲の加護に関しては、能力③の表記が少し変わったか……
(後99)って何の事だ?
昨日の事だというのは確かだろう、でも僕が一体何をした?
もしこれの始まりが100だと仮定するなら1の何かを僕がしたということだ。
1……僕が昨日したこと、宿屋、ギルド、土下座名人、盗ぞ……盗賊か、つまりこの1は僕が人を殺した人数ということ……①②と来てこれか、まぁ、予想していなくは無かったが、現実になると少し苛立つな。
別に命を奪うことを否定するわけでは無いが、このスキル……どうも違和感を感じる。
口では説明は出来ないが何となくそう感じる。
「で、どうだったの?」
「え?」
「え?じゃ無いわよ!さっきから無視して!ステータスよ!上がっていたの?」
どうやら考えるあまりアリスの声が聞こえていなかったらしい。
苛立つこいつの復讐がどんな物か密かに頭の隅で考えながら答える。
「ステータスに関しては上がっていたぞG-からGに」
「……一つ言っておくけど、それそうとう低いからね?」
自分でもそう思う……
「もう一つ言っておくと、それ7歳~12歳ぐらいのステータスよ、ほらそう考えると低いでしょ?」
自分のステータスが小学生と一緒だと、本格的に傷付くな。
「ついでに言っておくと、虫のGと貴方のステータス一緒なのよ」
「……虫のG?お前らの世か……国でもGが居るのか?」
「え?えぇ居るわよ、黒くて速く動く」
「僕の国でも居るんだよ、特に台所とか」
「台所?凄い場所に居るのね、私の村では良く森に出たわよ」
「森?家の中とかじゃなくてか?」
「あんなのが家の中に入れるわけがないじゃない」
家の中に入れない?Gが?あんな小さい虫が?
どうなってんだ?こっちではゴキブリが急成長しているか、某アニメみたいに……
でもこれは……あぁーあれだな所謂、話が噛み合ってない状況だな。
分かるぞ僕も昔よくクラスメイト?…いや担任?…いや保健の先生?…いや近所のおじさん?……まぁ何でも良いが、幾度も体験した事がある。
此処は無駄に慌てたりせずに無表情で会話を成立させ終了させるのが鉄則だ。
「一応聞いておくがGってゴキブリの事だよな?」
「ゴ・キ・ブ・リ?何それ新しい魚か何か?私の知っているGはゴリラって呼ばれる雑魚のモンスターの事よ」
「ゴリラだと?ゴリラが雑魚とかお前達の村どんなサイヤな人達がいっぱい居るんだよ」
「サイヤな人達って今一理解できないけどゴリラは雑魚よ、現に貴方でも頑張れば倒せるわ」
……此処に来て新たなワールドショックが。
でもあれだな考えたらここで雑魚なゴリラと一緒と言われるとあっちの世界出身からしたら、ある意味褒め言葉に聞こえる、のは一部のマッチョだけか……
「まぁ兎に角だ、僕のステータスが低いのは理解したが、結局何が言いたいんだ?」
「折角強化魔法使ったのに元が低かったら上がる力も少ないと言うことよ」
「でも投げた石で盗賊の頭ぶっ飛ばせたぞ」
いくら石とはいえ、硬い頭部を吹き飛ばせるんだから相当強化されていると思うが……
「貴方は寝ていて知らないだろうけど、投げ終わった時の貴方の右腕酷かったわよ。肩なんて何重も回転していて肉が取れ掛かっていたんだから、指なんてほぼ原型なかったわよ」
マジか……
アリスの思わぬカミングアウトに血の気が失せるのを感じる。
「大丈夫わよ、回復魔法で治療しといたから」
「お前回復魔法まで使えるのか」
「使えないわよ、だから急遽ギルドに依頼して回復魔法の使い手を募集したのよ。お蔭で盗賊討伐の報酬ほとんど無くなったけど」
「そりゃどうも、でもなるほどな自分の魔法に体が耐えれなかったのか」
「そう、ステータスを上げて欲しいのは実はそこなの、元が低くて強化が少ない、でもそれ以上に強化魔法に耐える体の無かったらどうしようもないわ」
「あぁだから魔力制御とステータス向上ってわけね」
「珍しく理解が早いわね」
「珍しくは余計だ」
「それで具体的何するんだ?」
「山籠りよ」
「何故だ?」
「私の村では修業といったら山籠りなのよ」
「……別に良いが何処の山だ?」
「此処から数時間行った場所に経験値がたっぷり詰まったモンスターがいっぱい居るメタル山に行くわ」
「おい、経験値が多いってことは戦闘力も高いってことだろ?僕に倒せるのか?」
「さぁ?何とかなるでしょ」
「それにだ、そんな美味しい場所他の冒険者が逃すわけないだろ、早い者勝ちにでもなったら戦闘能力ほぼゼロの僕に不利だぞ」
「それは大丈夫よ、メタル山は私しか知らない場所だから。それに滅多に現れないからもし知られていたもしても1日掛けて一匹出るか分からないから誰も探さないわよ、それに一定の強さを持つ人は見えないらしいし。だから安心でしょ?」
「それなら安心……な訳あるか、一日掛けても見付からないモンスターをどう倒すんだよ」
「それも大丈夫よ、私はそのモンスターが居る住み処を知っているから」
「本当だろうな」
「本当よ、私は強いからモンスターは見えないけど住み処は見えるから任せて頂戴」
大して無い胸を強調させるように胸を張りながらそう言い切るアリスを信じて僕はメタル山に行くことにする。
そして冒頭に戻る……
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