第13話 ~これから~

 気がついたら僕はうっすら霧がかった草原に立っていた。

 前に気絶した時と同じ風景。

 そして女性が一人の佇んで此方を見ている。


「誰だよ」


「Жφξζ」


「日本語で話せるか?」


「Жφξζ」


「駄目だな、何言ってるか分からん」


「こφξζ」


「こ?こ、って言ったよな?」


「Жφξζ」


「僕に何を伝えたい?」


「Жφξζ」


 僕がどれだけ言おうと聞こえてくる音は毎回同じ。

 いや、「こ」って言った気がするから後三回気絶したら分かる的なやつか?


「せめて顔を見せろよ」


「Жφξζ」


「また来るぞ」


「Жφξζ」


 同じ音でも今度のは少し感情が籠っていたのを僕は逃さなかった。

 次の台詞を喉から出そうとした時、意識は遠くなり何処かへ浮上していく。


 ――――――――――――――――――――――――


 目を開ける。

 見たことある天井、触ったことがある布、柔らかな枕の感触。

 あぁ~宿屋のベットか……


「やっと起きた」


「青髪か?」


「調子はどうかしら?」


「名誉ある負傷を負った勇者の気分だ」


 青髪の声が微かに震えてるのに気づいた僕は柄にも無く場を和まそうとする。

 それを聞いた青髪は鼻で笑うと何時もの声で言う。


「盗賊相手に女の子一人で戦わせる勇者が何処に居るのかしら?」


「此処に居るだろ」


「私には無理した只の冒険者しか見えてないわよ」


「それが勇者だよ」


「何それ……ありがと」


 青髪は呆れるように言った後に一拍おいてそう呟く。


「何故礼を言う?」


「助けてもらったからに決まってるでしょ」


「僕があの時叫ばなければお前は振り向くことなく盗賊に気付けた、注意の仕方を間違えた。紛れもない僕のせいだ。助かったかも知れないがそれは結果論だ。だから僕は礼を言われる資格なんて無い」


「何そのひねくれ根性論」


「失礼だな、そもそも僕が無力じゃなかった盗賊を逃さずに殺せた」


「分かった言い方を変えるわ、私を助けようとしてくれてありがと、これなら良いでしょ?」


「……あぁ」


「貴方って以外と面倒なのね」


 こればっかりは仕方ない、あの日からこういう性格になったのだから……


「まぁ良いわ、それより早く体調治してよ毎回倒れられちゃ心臓に悪いわ」


「そうだな、本格的に練習でもするか……」


「そうねそうが良いと思うわ」


「じゃあよろしく先生・・


「また他力本願?」


「また適材適所だよ」


「教えてあげる義理は無いのよ」


「お前流で言うなら、パーティーだろ?」


「うっ、人の揚げ足とらないでよ」


「誰かさんに似たんだよ」


 こいつと一緒に居たら嫌でも似てくるだろう。

 青髪は「うぅ~」と唸った後開き直った顔で僕に言ってくる。


「私は厳しいわよ?」


「望むところだ」


 青髪は一瞬笑顔になり真面目な顔で僕を数秒見つめるとゆっくりと口を開く。


「今さらだけど私の名前はアリス」


「僕の名前はアマミネ」


 僕は魔力痛で動かない右手を無理矢理ベットから出すとアリス・・・の前につき出す。

 一瞬何の事か分かってない様子で俯きながら首を傾げていたアリスだが、顔を上げるとおずおずと右手で差し出してくると直ぐ様自分の右手と絡ませる、面食らったアリスの顔を見ながら僕は呟く。


「よろしくなアリス」


「え?えぇよろしくアマミネ」


 うん?そう言えば一回で人の名前をちゃんと呼んだのこいつで二人・・目だな。

 剣崎でも覚えれなかったのに……どうしてだ?


「ところで、これ何?」


「これ?」


「この手の事よ」


「握手って言ってな、僕の故郷じゃ、これから頼むぞって意味があるんだよ」


「へぇー貴方の故郷って変わった風習が多いのね、この間のゴチソウサマもそうだし」


「まぁな」


「一回ぐらい行きたいものね」


「そう、だな……」


 僕は握っていた手を離すとベットに横になる。

 そしてそのまま目を瞑る。


 アリスの「おやすみ」を聞いた当たりで僕の意識は遠いところに行った。

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