第9話 ~食堂での殺意~




 次に僕が目を覚ましたのは明け方だった。

 残念ながら見覚えのある天井を眺めつつ体の調子を確かめる。

 まだ少し痛みはあるが動けない程ではない。

 僕はベットから降りると鈍っている体を動かす。 

 ボキボキなる音を聞きながらこれからどうするか考える。


 勿論ギルドで冒険者になる予定だ。

 それから何をする?これといってしたいことも無い。

 数分間悩んでも出てこなかったので諦めた。


 特にすることも無くなったのでベットに戻ろうとするとグゥーの腹の虫が鳴る。


 無理もない、3日間寝てたんだから腹が減るのは当然か。

 といっても食べれるものは……あった。


 ふとベットの隣に視線を向けると机には皿に綺麗に盛り付けてあるリンズがあった。

 皿の下には『お食べておいて』と、相変わらずぶっきらぼうな物言いで見たこと文字でそう書かれていた。

 言語解読スキル様々である。


 僕は兎型に切られたリンズを一つ摘まみ上げると口を放り込む。

 味は……まごうことなきリンゴだった。

 噛む毎に甘酸っぱい旨味が口全体に広がるのを一口一口楽しみながらリンズを食べていった。

 全部食べ終わる頃には朝日が昇り外が騒がしくなり始める時間だった。


「起きてたのね」


「あぁ、リンズ旨かったぞ」


「そう、リンズを作った農家の人に感謝するのね」


 少し機嫌が悪い様に見える。


「何かあったか?」


「貴方が私の話を無視して寝た事なんて気にしてないから」


「……そうか」


「私が一生懸命一時間話していたのに貴方がすやすやと寝ていた事なんて本当に気にしてないから」


「そうか」


「貴方のナニについて話しているのに「悪かったよ」……別に気にしないで私は寛容だから」


 それが言いたかっただけだろ絶対。

 というか一時間も話していたのか……やはり痴女だな。


「確認だが此処は宿屋か?」


「そうよ、貴方が倒れてから二・三時間使ってそうやく見つけた宿屋よ」


「そいつはどうも」


「近くにギルドがあるから登録してくると良いわ」


「青髪は登録良いのか?」


「とっくに登録なんて済ましているわよ……というか青髪って私のこと?」


「そう」


「……まぁ良いわ」


 僕は人の名前は覚えるのが面倒なので知り合ってそこそこの人はあだ名で呼ぶようにしている。

 ちなみに、名字で読んだことがあるのは剣崎と愛宮だけだ。

 それ以外はあだ名所か顔さえ覚えてない。


「シャワー浴びてから行くことにする」


 直ぐにでもギルドへ行きたいが、少し体がベタつく。


「そう、私は下の食堂に居るから入り終わったら来て」


「何でだ?」


「私もついでにギルドでクエスト受けようと思うから一緒にどう?」


 自分のステータスの事を考えると、一人より二人の方が安全か。

 これ以上貸しなんて作りたくないが仕方がない。

 僕が「分かった」とだけ伝えると、青髪女は部屋を出ていった。


 それから数十分後、青髪が居るはずの食堂へと向かう。

 服装は高校の制服だ。どうやら僕が寝込んでいる間に洗濯してくれたらしい。

 綺麗な状態でシャワー室に干されていた。


 階段を降りていると見渡す限り人、人、人、何かの祭りかよ思うほどの人が溢れかえった食堂が見えた。

 女性はちらほら見かけるが、ギルドが近いとあってかほとんどがムキムキのマッチョ男だらけで正直気持ち悪い。

 この中から青い髪が特徴的とは言え知り合いを探せなどウ○ーリーを探せ並みに難しい。

 名前も知らないので呼ぶことも出来ない、かといって青髪と呼んでも気付くか分からない。


「おい階段の途中で止まるな通行の邪魔だろ」


「……すまん」


 どうしようか考えていると不意に後ろから野太い声が聞こえてきた。

 絡まれるかと思っていたが僕が階段の隅に寄ると案外すんなり通ってくれた。

 やはりこの世界は、僕が思っていた異世界とは少し優しさの度合いが高いらしい。


 早く見つけないと、と思っていると人混みの中でも特に密集している場所があった。

 興味本意で階段の上から覗いてみると、密集地の中心に居たのは見覚えがある青髪だった。


「なぁなぁ一人なのか?俺はDランクのデルスって言うんだ。嬢ちゃん冒険者だろ?危険だから俺が付いてってやるよ」


「抜け駆けするなよ、俺はDランクのガルゼだ。この筋肉だけのゴリラより使えるぜ」


「お前ら黙ってろ、俺はCランクのバン、経験豊富だから初心者でも安全にクエストクリアに導けるぜ?Dランクとこいつらと違ってな」


 人混みを掻き分けながら青髪に近づいていく。どうやらナンパに合っているらしい。

 取っ替え引っ替え青髪に我よ我よと声を掛けていっている。


 そんな騒がしいなか等の本人はというと、静かに食事を取っている。

 まるでこの空間には私しかいません、とでも言わんばかりの無視だ。

 これには素直に感心する。

 しばらく見ていると青髪と目が合う。

 その瞬間背筋がゾワっとした。


「やっと来ました、待ちましたよ」


「「「あ?」」」


「すまん」


「何で立っているんですか?どうぞ座ってください。今貴方の分の食事持ってきますから」


「自分でする」


「病み上がりなので大人しくしていてください」


 いや、お願いなので連れて行って欲しい。

 そんな僕の思い虚しく、青髪は僕を椅子に座らせると自分は颯爽とどっかに行ってしまった。


 今の状況を整理して図で表すならこうだろう。


 男男男男男男男男男男男男男

 男男男男男男男男男男男男男

 男男男男男   男男男男男      

 男男男男男 机 男男男男男

 男男男男男 僕 男男男男男

 男男男男男男男男男男男男男

 男男男男男男男男男男男男男


 何の拷問だと心の底からツッコミたい。

 青髪が居なくなってことで視線は勿論僕に集中する。

 全員が全員が殺意だらけのギラギラした目だ、僕は昔からそういうのに敏感なので分かる。

 これはとても危険な状況だと。

 早く戻ってきて欲しいと思いながら無言で机とにらめっこを続ける。

 すると、一人の冒険者が話しかけてくる。


「おい、お前あの嬢ちゃんの知り合いか?」


「あぁ」


 殺意の数が増えた。


「さっき病み上がりとか言ってたけど、まさか看病とかして貰ってないだろうな」


「少しだけな」


 殺意が膨れ上がった。


「どれくらいだ?」


「3日間「「「3日間!?」」」付きっきりで「「「付きっきり!?」」」看病して貰っていたそれだけだ」


「「「それだけか!」」」


「そうだ、それ以上もそれ以下もない」


「「「よっしゃあ!!」」」


 殺意が興奮に変わった。


 あぁうるさい。

 この人数が同時に叫ぶと鼓膜が破壊されそうだ。

 てかどんだけ嬉しがってんだよ、良い大人が泣くなよ。みっともない……


「お待たせ」


「何でこの状況でお前は淡々と普通に登場できるだよ」


「感性の違い?それより早く食べてギルド行くよ」


「分かった」


 おっと殺気が僕に集中してるな。

 少し会話しただけでこれか……


 気にしないように持ってきて貰った食事に手をつける。

 盆に在ったのは、スープとサラダと肉とシンプルな物だったがお腹空いている僕にはご馳走に見える。

 スープをスプーンで飲む……凄く旨い。

 サラダをフォークで食う……マジで旨い。

 肉をフォークで刺し食う……めっちゃ旨い。


 食レポなら一瞬でクビになりそうな感想を心で並べながら食べ続ける。

 空っぽの胃が満パンになっていくのがこんな幸せな事だと今初めて知った。


「ご馳走さま」


「ゴチソウサマ?何それ?」


「僕の国ある儀式みたいなものだ」


「ふーん、どういう意味?」


「食事を作ってくれた人と、食事になった物達へ感謝の念を込めるみたいな感じの意味だった気がする」


「へぇー、私もこれから言うことにするわ」


「そうか」


「私は片付けてくるから食休みでもしといて」


「自分で「病み上がりは大人しく」……分かった」


 親切心が今は反って迷惑なのを青髪は気づいてないのか?

 だが、その時僕は見てしまった、盆を回収して立ち去る時に青髪が笑っていた事に。

 あいつ私は寛容とか言っときながら、きちんと仕返しをしてきた。良い性格してるな……

 すると、さっきと同じ(多分)冒険者が話しかけてくる。


「お前名前は?」


「天峰」


「天峰か……覚えたぜ、あばよ」


「あばよ」「じゃあな」「さらばだ」「……(殺)」


 特に僕に何かする様子はなく取り巻きどもはぞろぞろと宿屋を出ていく。

 それぞれが僕に別れの挨拶を言ってきたが、最後の奴顔覚えたからな。

 強くなったら一回ボコろう……そう心で思いながら青髪の帰りを待つ。


「あれ?居なくなってる」


「帰った」


「……残念」


「お前自分で寛容とか言ってたよな?」


「寛容よ、だから朝の事は気にしてないわ」


「なら「でも許したとは言ってないわよ」……そうかよ」


 やっぱり良い性格してる。


 あの表情何処かで……


 笑いながら僕にそう言う青髪の笑顔を見ながら思った。

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