第3話 ~召喚と力~

 硬い地面の感触と視線の低さから自分は今倒れているのだと分かった。

 起き上がろうとするが、激しい運動後の体の様に全身に痛みが走り上手く立ち上がる事が出来ない。

 冴えない頭で今の状況を確認する。

 幸い目だけは動いたのでギョロギョロと周りを見渡す。 

 隣には自分と同じ格好をした男……剣崎が倒れていた。

 その近くにはセーラー服の女……自称さんが剣崎を下敷きにしながら倒れていた。

 そして僕達を囲むようにして日本ではまずお目にかかれないであろう神官風の男とメイド服の女が複数、そして桃色のドレス姿をした少女が居た。


 此処でようやく異世界へ召喚させたれたということを再確認する。


「あのー言葉は分かりますか?」


「分かる」


「あー良かった!召喚なんて初めてだから要領と分かんなくて!死んだらどうしようと思いました!」


 桃色のドレス姿の少女さ僕が目覚めた事に気付くとコトコトと歩いてきた。

 そして無邪気な笑顔で何か恐ろしい事を言っていた。

 何……召喚って死ぬ危険があったの?

 言っとけよ……誰が?

 あれ?此処に来る前に誰かと話した気がするがそれが誰か思い出せない。

 何時もの事だろ!と剣崎に言われそうだが今回に限っては微塵も記憶に残っていない、何か大変な事をされたような、してしまったような……


「あの!大丈夫ですか?ボーとしてますけど」


「大丈夫だ、それより身体中痛いんだがどうにか出来ないか?」


「痛いんですか!?それは大変です!治癒ヒール


 少女の小さな手から発行した光が僕の体を包んでいく。

 すると、さっきまで在った痛みが嘘のように無くなっていた。

 だが、今は痛みの事より少女が使った超怪奇現象の方が気になる。

 あれが本物魔法という物なのか……


「治りましたか?」


「ありがとう楽になった」


「それは良かったです!痛いのは辛いですからね!」


「あぁそうだな」


 思っていたより少女はフレンドリーだ。

 僕は痛みが無くなった体を起こし地面に胡座をかきながら自分達が居る部屋を観察し始める。

 視野が狭かったので気付かなかったが此処は所謂玉座の間と呼ばれる所だろう。

 部屋の奥には誰も座っていない玉座がポツンと置いてありそこから一直線上に赤いカーペットがひかれてある。

 壁には理解できない絵と綺麗な装飾品がズラリと飾られている。

 そして僕たちが倒れているのは丁度、玉座の間に入るための扉と玉座の中間地点。

 ゲームで見たことある魔方陣の上に居た。


「おい起きろ剣崎、自称さん」


「後5分」「うぅーん私は後一年」


「永遠に起きれない様にしてやるぞ」


「「スゥースゥー」」


 ドカッ!


「痛ッ!」「痛い!!」


「おはよう剣崎、自称さん」


 他の二人を起こそうと声を掛けるが、アホみたいな返事が帰ってきたので少し脅してみるが気にもせず眠りに付いたので二人の上からヒップドロップをかましてやった。

 硬い床と筋肉痛の様な痛みが相乗効果となり二人を激痛が襲う。

 そして痛がる二人に笑顔で僕は話しかける。


「えーと天峰か?どうしたこんな所で……って!痛い!何だ身体中の骨という骨から悲鳴が聞こえる」


「天峰くん!これどういうことかな!痛みで起きたら下に剣崎 劉くん!目の前に天峰くん!所謂夜這いと言うやつかね!どうしようか!興奮がおさえられないよ!」


「アワアワワワ、早く治癒魔法を掛けてあげないと!治癒ヒール治癒ヒール!…………!」


 剣崎の悲鳴と自称さんの訳の分からない言葉で少女は混乱しているのかヒールを何回もかけ続ける、主として自称さんに……

 そして二人の悲鳴と意味不言葉が聞こえなくなると僕と同様に起き上がり胡座をかいて床に座り込む。

 今の二人に元の世界の時の様な焦りや戸惑いが少なくなっているのが分かる。

 少女の慌てっぷりに緊張がほぐれたのか?


 まぁ、大人しくしていてくれのに越したことはないか……


「それで天峰、此処が異世界で良いんだよな?」


「あぁ時代としては中世レベルといったことろだな」


「おぉ!此処が異世界なのか!見たことの無い服!見たことの無い絵!見たことの無い装飾品!そして感じたことの無い空気!実に素晴らしい!感動だよ!感激だよ!そして私は完璧だよ!」


「おいあれどうするんだよ天峰?何か前の世界に居た頃より壊れているぞ」


「前より壊れていると思うのは多分気のせいだ」


 だから少女よ、そう何回もヒールを掛けるな……あれは元があれなんだよ。


 自称さんの興奮した様子が、少女には痛みで可笑しくなった人の様に写っているのか泣きそうな顔で何度も「治癒ヒール治癒ヒール治癒ヒール!」と叫んでいる。

 流石に哀れに思えてきた。

 剣崎も同じことを思ったのか何時もより丁寧な口調で僕より先に少女に声をかける。


「あのその人は元からあんな感じなのでほっといて良いですよ、な!天峰」


「あ、あぁそうだな」


「ホントですか!?苦しんでいる訳では無いですか!?」


「それは断じて違う、元からあんな感じだ」


「良かったですぅー、私のいくら魔法を掛けても効かなったから呪いかと思いましたぁ!でもあれが素で良かったです!」


 あれが素で良かった事など一度も無いと思うが、少女は嬉しそうに笑っているので言うまい。

 暫くして自称さんが落ち着つくと玉座の間の扉がゆっくりと開き始める。

 外からは全身に鎧を纏い腰に剣を携えた騎士とおもしき人達と、それに囲まれている一人の男性が入ってきた。

 高そうなマントと独特な雰囲気でこの人が王様……までとはいかないが普通の人とは何処か違うことに僕たちは気付く。


「フレミアよ、こやつらが召喚された勇者候補と言うことで良いのか?」


「はい!お父様!召喚陣から出てきた所を確認しましたから間違いないです!」


「そうか、よくやったな……偉いぞ」


 無精髭を生やした男性は少女に近付くと褒めてやり頭を撫で始める。

 それに対して少女は「えへへ」と嬉しそうな声を出しながら男性に身を預けていた。

 お父様と言うぐらいだから親子なのか……全然似てないな。

 一頻り少女の頭を撫でた男性は僕達の方へ視線を移す。


「私の名はヴァンク・ロドルフ・ダグラス、一応この国の王だ」


「僕は天峰」


「俺は剣崎 劉です」


「私は愛宮 京夏、気軽に京ちゃんて呼んでね」


 王の言葉に、僕はシンプルに、剣崎は敬語で、自称さんは何時も通り軽い感じに、自己紹介をする。

 それにしても、この中で剣崎が一番ましに見えるのは少し癪である。

 じゃあ敬語で話せば良いじゃないか、と思うが面倒なので敬語というもの事態僕は知らない。


「ふむ、まさか勇者が三人も来てくれるとはな、良くやったそ魔法師諸君!後で改めて褒美を遣わすので今日はもう自室で休んでいても構わんぞ」


「「「はっ!!」」」


「さて、勇者達も急にこんな所に連れてこられて疲弊しているだろうから、詳しい事情は後日説明するので今日はゆっくりと休んでくれ」


 王の言葉に周りに居た騎士達が一斉に動き出して僕達を警護するかの様に後ろに待機している。

 後ろに自分よりゴツい人がいる気持ち悪さを胸に抱きながら僕達は立ち上がる。

 そしてメイド達に先導してもらいながら玉座の間を後にする。


 暫くして、三人ともいかにも高級そうな大きな寝室に連れてこられた。

 最初は別の部屋を用意して貰っていたが、これからの事を話し合いたいという理由で一つの部屋にしてもらった。

 部屋に入るように促されると、後ろに居た騎士たちは元来た道をユーターンしていった。


「何かありましたら、直ぐに呼んでください側にメイドを配置しておくので」


「分かった」「分かりました」「はーい」


「それでは」


 バタンと扉を閉めて部屋から離れていく足音を聞きながら僕達はそれぞれのベットに腰をかける。

 これからの話をしなければならないが、王の言う通り疲れているので誰も口を開こうとはしない。

 沈黙が走る中、最初に話を切り出したのは以外にも自称さんだった。


「ねぇねぇ真面目な話これからどうする?」


「どうするも何も、元の世界に帰るために魔族を倒すしかないだろ、なぁ天峰」


「その事で少し相談がある」


 話を始めると以外にも喋れる事に気付く?

 取り敢えず、僕は勇者ではなく巻き込まれた只の一般人だと言う事を二人には先に説明しておく。

 巻き込まれた原因については、口に出していないがいくらか想像は付くので気付いた剣崎は少し暗い顔をしていた。


「だから、僕はお前達と一緒に魔族を倒す事は出来ない」


「何でだ?」


「足手まといになる可能性があるからだ」


「そんな事分からねぇだろ」


「分かる、いや分からせる」


「え?」


 多分口だけで剣崎を納得させれるほど僕は巧みな交渉術なんて持ち合わせていない。

 だから実際目で見て貰って納得なせるしかない。

 僕は近くに置いてあるコップを一つの剣崎に渡す。


「コップがどうした?」


「剣崎思い切りコップを握ってみてくれ」


「はぁ?何言って……!?」


「やっぱり」


 剣崎は不思議そうな顔で言う通りに力を入れコップを握る。

 そして早々にコップにヒビが入り最後にはパリンという音を鳴らして粉々になり床に落ちた。

 それを見た自称さんは子供の様に目を光らせていた。


「お、おい天峰これどういうことだ?」


「どういう事も何もお前の力が強すぎてコップが耐えれなかったんだよ」 


「そんな馬鹿な事……京夏お前もやってみてくれ」


「うん!良いよ!」


「ほい剣崎、コップ」


「あ、あぁじゃあ京夏やってみてく「てやぁー!!」」


「「!?」」


 剣崎の手のひらに置かれていたコップを自称さんは握るのではなく、でこぴんをした。

 不抜けた掛け声と共に自称さんの指がコップに触れると一瞬にして砕け、その破片が僕の横を通り後ろの壁に突き刺さった。

 これには僕も剣崎も絶句している。


「わぁー!凄くない!?私は凄くないですか!?でこぴんでコップを破壊出来る女!カッコいい!」


 いやカッコ良くはない、と突っ込みたいがそんな事が出来るほど頭が回復していない。

 身体能力が高いという事は予想していたが、まさかでこぴん一つでコップを破壊出来るとは思ってもみなかった、しかも女たぞ……

 僕も剣崎も何も言わない空気で自称さんは一人で何か騒いでいる。

 何秒か経ったときに、凄い勢いでこの部屋に向かってくる足音が聞こえてきた。


「大丈夫ですかぁ!!今凄い音が聞こえましたけどぉ!!奇襲ですか!?怪我ですか!?喧嘩ですか!?あぁ私がトイレに行ってなければもっと早く気づけたのにぃ!!!」


 鬼も逃げ出すような剣幕で部屋に入ってきたのは僕達を案内してきたメイドとは別のメイドだった。

 勝手に反省し出したが、その慌てっぷりに流石の自称さんも黙り混む。


「えーと、コップが二つ割れただけなので心配入りません。な、天峰?」


「何でそこで僕に同意を求める?まぁそうだけど」


「え?コップ?コップって机に置いてあった物ですか?」 


「え、えぇそうです。すいません壊してしまって」


「それは良いんですけど……それにしてもコップを壊した?え?あのコップを壊した?でもまぁ勇者ですし……でもあのコップを壊わす?そんな……でも…………」


 最初の一言を言うと俯きながら内容が聞こえない程度の小さな声で何かブツブツ言い出した。

 まさか数が少ない貴重品とかじゃないだろうな。

 それとも歴史的な物とか?

 何にしても……いやな予感しかしないぞ。

 暫くして俯いていた顔を上げると、僕たちに質問をしてきた。


「あのどうやって壊したか聞いても良いですか?」


「えーと握りました」


「私はでこぴ……指で弾きました!!」


「……えぇええええ!!!!」


 質問に二人が答えると、一際は大きな声で叫んだ。

 一体どういう事なのかまったく分からない。

 二人も分からないようで、困った顔をしていた。


「コホン、すいません取り乱しました」


「それでコップがどうかしたんですか?やっぱり弁償とか……」


「いえいえ、勇者様にそんな事はさせませんよ、只コップというのは世界で二番目に硬いと言われている物質なんですよ、それを握ったり指で弾いて壊すなんて流石勇者様です!!!」


「「「へぇ?」」」


 驚きで三人とも変な声を出してしまう。

 世界で二番目に硬い?コップが?

 僕達の世界だと下から数えた方が早いぐらいの硬さのコップがこの世界では二番目?

 剣とか鎧より硬いという事か?   

 大丈夫なのかこの世界は……という疑問は次のメイドの言葉で吹きとぶ事になる。


「ホントに凄いです!昔英雄ガイヤ様という方が愛用なさっていた伝説の金槌でもヒビしか入らなかったと言われているのに!それを素手で!凄すぎます!」


「「「……」」」


 今の発言にも驚いたが今度は声も出ない。

 え?この世界のコップってそんなに硬いの?何、伝説の金槌って、そんな強そうな武器でも破壊できなかった物をこの二人は素手で粉々にしたの?

 僕の予想通りとかそういうのじゃなくて、斜め上に……否、天の果てぐらいまで裏切られた気分だ。

 何言ってんだろう僕?驚きすぎて意味わからん事言ってんな……


「あ!怪我は……してませんね!でも破片が、そんな事で体に傷が付くとは思いませんが一応掃除しておきますね……吸収ラリオム!よし綺麗になりました、それでは失礼します」


 多分魔法で掃除し終わったメイドは颯爽と部屋を出ていく。


「「「……」」」


 暫くの間室内には何とも言えない空気が流れていた。

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