第4話 ~魔力~
「まぁあれだこれで証明された訳だ」
「俺と京夏の力が強いって分かったけどよ、お前だって割ること出来るんじゃ……」
「そうだよ!天峰くん!だって言ってたじゃない!誰か覚えてないけど!力をくれるって!」
「じゃあやってみようか?……ほら?」
僕は後一つだけのコップを力一杯握る、それはもう全力で握った。
でも肝心なコップはウンともスンとも言わない、流石の伝説の金槌で叩いてもヒビしか入らないと言われたコップだ……と一応自分の中では言い訳をしておく。
「手ぇ抜いてるわけじゃ…なさそうだな」
「本気も本気超本気で握ってる」
「分かったよ、お前が俺等より力が弱いってのは」
「あぁだから「でも!絶対足手まといになるとは限らないだろ、この世界には魔法があるんだ力では勝てなくてもサポートや作戦を立てたり出来るだろ」……無理だよ」
「何でだよ!」
「かりに僕がゲームとかのサポート系の魔法が得意でも、それを掛けるにはお前達の側に居なければならない、もしお前達と同等かそれ以上の敵と出会った時真っ先に狙われるのは力の弱い僕だ、殺されるならまだ良い、けど人質になってお前等に迷惑を掛けるかもしれない最悪どちらかが僕のせいで死ぬかもしれない。……そんな事僕は堪えられない」
「……」
作戦だってそうだ、現場を見ながら指示しなければ意味がない。
そうなれば結果は一緒だ。
僕は自分のせいで誰かが傷付くのは
「だから僕は此処を出て何処かで過ごす事にする」
「ま、待て出てく必要はないだろ!確かに俺達についてこれない理由は分かった、納得もした。でも此処から居なくなる事ないだろ」
「よく考えろ、この国は魔族を倒して欲しいがために僕達を召喚した。その一人が魔族を倒せないと奴と分かったら普通はどうすると思う?」
「そんなの召喚した責任で養うのが義務だろ」
「あの王ならするかもしれない、が周りはどうだ?魔族を倒してくれるお前等の面倒を見ることはあいつ等にとってメリットがある。でも僕には何のメリットもない、そうなったら陰で変な噂が立つし、お前等にだって迷惑を掛けるかもしれない」
「そんなの俺も京夏も気にしない」
「それでなくても、僕は只の一般人なんだ、お前等とは違う、住む世界も見ている世界もここに来て全てが変わったんだよ、お前等の役目は魔族を倒す事、僕の面倒見ることじゃない」
「で、でも!」
「でもじゃない……剣崎、僕は怖いんだよ」
「え?」
「魔族と戦う事も、傷付くのも、死ぬのも、全部が全部僕は恐ろしく堪らない。お前の様な勇気も
「……」
「ごめんな、僕は……いや、寝ようか愛宮だって寝てるし」
「……そうだな」
「おやすみ剣崎」「おやすみ天峰」
それぞれがベットに入り目を瞑る。
寝る前に気付いたことが一つだけあった。
愛宮は寝るときは静かだだということだ、毛布を綺麗に自分の上に掛け仰向けで規則正しい寝息で寝ていた。
これだけ見れば普通の女の子だ。
いや、男子が居る中で熟睡出来る女の子はいないか……
そんな事を考えながら僕の意識は遠ざかっていく。
――――――――――――――――――――――――
コンコン
リズムの良いノック音で僕は目が覚めた。
剣崎と愛宮はまだ寝ている。
窓から差す光に目を細めながらベットから降りて扉の方へ歩いていく。
扉を開けると、昨日僕達を案内してくれたメイドが居た。
「おはようございます、昨日は良く眠れましたか?」
「あ、あぁ」
「それは良かったです、ご朝食の準備が出来たので呼び参ったのですが、まだ早すぎたでしょうか?」
「多分昨日の事で疲れて何時もより眠っているだけと思うから気にしないでくれ」
「ありがとうございます。それでご朝食の方はどうなさいますか?こちらの部屋に持ってこさせる事も可能ですが?」
「そうしてくれ、あいつ等何時起きるか分からないからな待たせるのも悪い」
「かしこまりました」
てっきり王からの呼び出しかと思っていたが、普通に朝食の事だった。
魔族の事で国も切羽詰まっていると思っていたから朝から訓練やら勉強やらをさせられると考えていたんだが杞憂だったか……
それにしても、体が汗でベタついて少し気持ち悪いな。
扉の直ぐ横にシャワールーム的な部屋はあるのだが、当たり前なことに元の世界と全然違うので如何せん使い方が分からないのだ。
水が出てきそうな穴はあるのたが、取手の場所には綺麗な石の装飾品が二つ付けてあるだけだった。
暫くシャワールームの前で葛藤していると、さっきと同じようなリズムのノック音が部屋に響く。
「ご朝食をお持ちしました」
「ありがとう、そこに置いといてくれ」
「かしこまりました……水室がどうかなさいましたか?」
「水室?あぁこの部屋の事か……使い方が分からなくてな」
「……あの子ったらまた」
「え?」
「いえ何でもございません、今から説明いたしますね」
「?じゃあ頼む」
メイドは水室に入り丁寧に説明してくれた。
どうやら僕が装飾品と思っていた石は魔石と呼ばれる魔法が込められた石らしい。
赤い石に魔力を少し込めると湯が出てきて、青い石に魔力を込めると冷水が出てくるらしい。
後付いてはいないが、緑と黄色の魔石があるらしいのだが、それは王だけが使える物らしく詳しくは説明して貰えなかった。
使い方は分かったが方法が分からない。
魔力を込める、これは分かった。けど魔力ってどう込めるんだ?という疑問が出てきた。
メイド曰く、「体にある血が流れていくのを意識してください、それから指先に血を送るように集中するば……この様にできます」と試しに湯を出してもらいながら説明して貰ったが今一分からなかった。
この魔力の感じ方の訓練は普通は文字より先に覚える魔法の基礎らしく、僕達でいう小学生ぐらいの年齢になる時には皆自然と出来るようになっているらしい。
小学生以下かよ、という訳の分からないプライドから気合いを入れてやってみると数分ぐらいで成功した。
魔力を初めて感じた気持ちはどうですか?とメイドに聞かれたので、指で虫が歩いている感じだ、と答えたら何故か笑われた。
「それでは失礼します、後その下のタイルは水に反応して熱風が出るようになっていますので乾燥にお使いください」
「分かった、ありがとう」
「それではごゆっくり」
僕はタイルに覚えたての魔力を使って水を掛けてみる。
するとタイルは光って熱くない程度の心地よい熱風を下から発生させた。
その風でタイルの水は、真夏に打ち水をした後の道路のようにみるみる内に乾いていった。
これならと着ていた服を流石に洗剤とかはないので水で全部洗うとタイルの上に置いておく。
我ながら賢いと思いながら自分は湯をだして体を洗っていく。
「ふぅーさっぱりした」
身体中をびしょびしょにしたままタイルに降りると熱風が全身を包む。
まぁまぁの勢いで吹かれる風に目を閉じてしまう、そして次に目を開けた時には体はもう乾いていた。
髪の毛まで乾いていることに驚きながら、服に手を掛ける。
案の定乾いていた下着、シャツを着ると壁に掛けてあった制服を羽織り水室から出る。
「ってまだ起きてねぇのかよ」
「起きてますわよ」
「え?今の声誰?」
「朝から寝ぼけているのですか?
いや誰だよ、というツッコミを心の中でし目の前の愛宮の事を考えてみる。
性格が違いすぎる……別人?二重人格?前者はあり得ないが後者は可能性が無いことはない。
それにしても話し方がお嬢様みたいになっている。
「お、おい愛宮……お前口調どうした?」
「む、
「天峰」
「そう天峰……天峰くん!?いやこれは違うのよ!何て言うか夢の続きで!私そんなお金持ちの美少女とかそういうじゃないからね!違うからね!ね!ね!」
……なるほど、愛宮はお金持ちの美少女だったのか……とご丁寧に自分の素性を明かしてくれた愛宮に何を言おうかと悩んでいると、隣のベットがモゾモゾと動きだし剣崎が毛布から顔を出す。
「おはよう剣崎」
「あ、あぁ天峰おはよう」
「よく眠れたか?」
「まぁそこそこな」
「何で私はスルーなのかな!?私にもおはようって言って欲しいよ!プリーズおはよう!」
「はいはい、お嬢様お加減如何?」
「え?えぇ快調ですわよ……って違う!!お嬢様言うなぁ!!!」
「どういうことだ天峰?お嬢様って……」
「あぁ実はな」
僕は珍しくまともな口調で怒っている愛宮を無視して剣崎が起きる前の出来事を再現しながら説明してやった。
口調を真似する度に愛宮が大声を出して邪魔してきたが、そんな健闘も虚しく剣崎には全て把握された。
暫くの間、このネタで弄っていたが皆の腹の虫が鳴り出して一旦中止して先に朝飯を食べることにした。
初めて食べる異世界の料理に最初は戸惑ったが一口口に入れると味わったことの無い風味が口全体に広がって僕達の食欲を促進させた。
一心不乱で肉食獣の様に食べていくと、ふと気が付いた時には皿の上にあった食事は綺麗さっぱりに無くなっていた。
それぞれが食事の余韻に浸りながらベットで横になっているとノック音が響いてくる。
僕が動くより先に剣崎が扉に向かったので継続して横になりながら話に耳を傾ける。
「失礼します、ご朝食はお済みになりましたか?」
「はい、美味しかったです」
「それは良かったです、後でシェフ達に言っておきます」
「それで?」
「玉座の間にて王が話があるそうなので連いてきて貰っても宜しいですか?」
「はい大丈夫です、直ぐ行きます」
「外でお待ちしています」
「分かりました」
バタン
メイドが出ていくと剣崎は振り返り、嫌そうな顔をしていた。
それもそうだろう、剣崎の顔に似合わない敬語に僕も愛宮も笑いを堪えているのだから。
今日改めてこいつの敬語を聞くと、ギャップがありすぎて笑えてきてしまう。
メイドと話している時どんだけ噴き出しそうになったことか。
「おいそろそろ笑いを止めないとでこぴんするぞ」
「冗談だ剣崎」
「剣崎 劉くんが敬語使っている!?改めて聞くと合わないよね!顔怖いのに敬語って!!面白い気に入ったよ!剣崎 りょぉ……ぐへぇ!」
剣崎の洒落にならない脅しに僕は直ぐに笑うのを止めた、あの力ではでこぴんでもされた日には頭が吹き飛ぶか、良くて
だか良く分かってない愛宮は僕が心の中で思っていた事を全て言った、言ってしまった。
二回目の剣崎の名前を呼ぼうとするタイミングで愛宮の
金属と金属とぶつかった様な音が部屋に響き、愛宮は女の子らしからぬ声を上げてベットに吹き飛んだ。
そして直ぐに立ち上がると自分の
「痛いじゃないか!?剣崎 劉くん!私何か悪いことをしたかね!酷いよ!ほら見てよ!私の
「なんつぅー固い
「固い!?乙女に向かって固いと申したか!私は固くない!剣崎 劉くんが弱いだけだよ!!乙女だから!私乙女だから!」
「乙女は「ぐへぇ」なんて声は出せねぇよ固額女!!」
「あぁー!言ったな!天峰くん!天峰くんからも何か言って上げてよ!私柔らかいよね!」
「……うるさい、それより早く王の所に行くぞ」
「「は、はーい」」
アホな事で喧嘩している奴等には正論さえ言っておけば大人しくなる、これは僕が生きてきた中で見つけ出した素晴らしい対処法だ。
というか、僕からしたらどちらも固いとしか言えない。
だってそうじゃなきゃあんな金属音は鳴るわけがない。
未だ納得してなさそうな二人を連れて僕はメイドに先導してもらいながら玉座の間へと足を進める。
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