二話 街と宿場の娘

移動して12日になった。



ようやくサムリンの街へと乗り込むことができた。

父が確保してくれていた宿は街の‘入り口’に位置していたため街の全貌を見渡すことはできなかったのだが、活気がないというわけではないのだが、明らかに二年前来た時には様子が違うとすぐにわかった。

とりあえず街中を通って集会場へ向かい今後の日程を兵士たちに伝え解散させようと思った。

「この街というかこの周辺の街はほとんどが武装解除、中立となっていますからどうしても兵士がいるとこういやな目で見られるのでしょう」

そうモルードが言うのも無理がない、私たちが来てから店が点々としかやっていないじゃないか。

ふと、壁を見ると塗料で”教会軍駐留反対”と

「教会軍ではなくてもこれではいにくいですなぁ」

私は笑いつつも

「奴らは武力解除しておけば戦争は起こらないと思っているからな仕方ないだろう」

そのような話をしているうちに集会場へ着いたようだ。




集会場といっても使われていないせいか朽ちて木と木が綻びていた。

そんな壇上に乗り出発の時同様、到着の式をした。

早くも到着していた教会軍の偵察部隊と合流、これからは各部隊の任務が始まる。

東の移民族を偵察すべき偵察部隊、本部とやり取りする広報部隊、4日後に迎え討つための街で控えてる攻撃部隊。

といっても指揮官である私や攻撃部隊のものは4日間暇な状態である。

作戦を入念に練りつつ観光としたいが.......街があの状態ならそうともいかない。

それに私にはこの街の町長にあいさつしなければならない。

「モルードさんこれから.....」

言いかけの時点でモルードは後ろに手を振った。

わかったという意味だろう。

どこか申し訳なささもそこにはあった。




白壁にややヒビが入っているものの、屋根の斜面がきれいに描かれていて、独特の形だ。

ノックを軽く2回。軽い音が人々の声と混ざり街に響いてゆく。

数秒してから鉄の扉が重そうに空いた

なるべく早く手を打とうと先に私が挨拶をした



「ナルの国から来たナル軍の指揮官です」

中から半袖の巨体の男が顔を出して

「君がナル軍の指揮官か、思ったよりも若いな」

「私が町長のヒビンゴだ入りたまえ」

二階の客間にはソファーと長方形の机そしてサムリン特有の陶芸品が、皿が大切に飾ってあった。

「君も陶芸品の良さがわかるのかな?」

「いいえ。ナルではこのような美しい陶芸品は出回っていませんから.....」

ヒビンゴは、ガハハとわざとらしく笑ってみせ、

「軍人にも、このものの良さがわかるのか。さあ、そこに座りたまえ」



「お茶をもってきてもらっていいか?」

メイドがぺこりとして出て行った

そこからおもむろ口を開いた

「歓迎されてないみたいですね」

我ながらに踏み切ってしまったと少し焦った

「ハハハハハ、教会軍が近くでこの前までドンパチやってたしのう」

「散々この街の資源を絞るだけ絞って、夜は事件を起こすわその割に敗戦続き、誰も軍がいてほしいとは思わんよ」

「んで、今回は東をわざわざ、わざわざ迎え撃つということらしいけど勝機があるのかね?」

横からさっとお茶が出された。

たまらず出されたお茶を口にする。

「勝ってみせます。」

ほほ、と笑って見せて

「何度もその言葉は聞いてるよ。」

「今回君たちが勝てなかったら君の故郷ナルの国とは国交を断絶、そして教会とも縁を切らせてもらうって話は上から聞いているかな」

「...........」


「私どももなめられているのかね。」

急に態度を急変させ思わず怯んだ。

「全くいいもんだあんたがた軍人は!」

初めてここまで理不尽にキレられたことはない。

「すみません........でした」

彼の声の調子はまた変わり

「強く当たってすまない、もう帰ってくれ」

私は立ち上がり客室の扉の前で一礼をして出て行った。

階段を降りると先ほどのメイドが待っていて出ていく際に

「申し訳ありませんでした。気を付けてお帰りなさいませ。」

無力な自分にいらだちを隠しつつその場を颯爽と出て行った。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



宿場についたころには陽が消えていて

兵士たちは12日間飲むことができなかった酒をロビーで流し込んでいた。

レトロ調だがどこか真新しさも見える。

ロビーの天井は吹き抜けとなっており窮屈に感じた町長の家の客間からやっと解放された気がした。



「あのー今来られた方!?」

同い年くらいの女性だ。

突然の事でびっくりしつつ

「そ、そうなんですが、私の部屋を教えてもらってもいいですか?」

「はいはーい!」

「うーとねーぇお兄さんの名前教えてくださぁい」

「............」

余りにものテンションについていけなくなっていた。

まさに思考停止してしまった。

先ほどまで神経を凍らせるような話をしてきてからのこれだ。



「お兄さん?」

顔を下から覗かれた。

「ふぇーえ!」

つい変な声を出してしまった。

「わっ」

こいつ絶対変なやつと言わんばかりの顔をしている。

「ねぇーちゃんその方は左竜様だよ」

最初は面白がって見てた兵士達も言わばお通夜のようにこちらを見ている。これはマズイと彼らなりに思ったのだろう。


「え?こいつがさっき言ってた左竜様?」

兵士達は一斉に"こいつ"って言い方はマズイだろうとゆっくり私の顔を覗いてきた。

しかし、私はこの短時間で起きた事を全く理解できていなかったのだ。

「え、あ、はい。左竜と申します。」

「あなたが指揮官?見えないんだけどぉー」

キャピキャピと笑ってみせた。

その表情を見て少し安心した。

私は事をやっと理解した。






が、その時だった。

猛烈なスピードで痩せた白髪の男が走ってきた。

「この度は迷惑をおかけしました。どうか命だけでも」

「お父さん?」

「ルルお前ってやつは。司令官様だぞ?やっていい事と悪いことぐらいわかるだろ?」

その時彼女はハッとなり

「すみませんでした。私としたことがつい。」

申し訳なさそうにぺこりと下げる

「いやいや、やっぱり指揮官に見えませんよね。

お顔をお上げください支配人様」

顔を上げると彼の顔色は悪く

「軍を嫌っている街でこんな気さくに話してくれる人がいるとは思っていませんでしたから。

少し驚いただけです。決して怒ってはいませんよ?」

「そんなことより荷物を置きたいのですが、部屋まで?」

静かに合図をルルに送り

「に、荷物をお預かりしますね。」

先ほどまでとは全く違った雰囲気で細い腕で荷物を持ち私達は二階へと向かうのであった。



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西の異端と東の娘 江甲亘慶 @echonobuchika

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