一話 出兵の勅令

「貞光様がお呼びでございます」

私は自室から見える中庭より空を見上げていた。

すっかり冷たくなっていた空には満天の金塊が散りばめられていた。

「わかった。今行くよー」

女将が下がったのを確認して、私も後を追いかけた。




「佐竜様でございます」

「おお、はよ入れ」

そう言うと女将はスッと扉を開けた。

「おっさんどうしたんだ?」

おっさんといっても父はまだ38だ。

今まで弄っていただろう鉄の丸棒を研磨するのをやめ、

「いやー、急で悪いんだがー」

頭を掻きながら言いにくそうに

しばらく沈黙の後こう言った

「お前ももう17だー。だからー。えー。東の移民族を迎え撃ちに行って欲しい。」

そんな急に。。。。と言いかけそうになったのを迎え

「エールーの街が襲われた事件があったのを知っているだろ?」

「そこを襲った移民族がそろそろ移動をするらしい」

エールーの街は貿易が盛んであり、もちろん軍事力が無いわけでは無い。

そんなところを襲った移民族を迎え撃て?たまったもんじゃ無い。

「ふふふ。まあ、そう焦らずに最後まで聞け。」

完全に心の内を読まれたらしい。

「なぁに、進軍してくるのは2割ぐらいだ。後はエールーの街にいるだろう」

少し間をあけて

「行けるな?」

「わかった。行けばいいんでしょ。」

渋々承諾。

「よーしそれでこそ水火家三代目だ!」

どこか言いかたに引っかかりを覚え不思議そうな顔をしてみる。

「ああ、言っていなかったな」

突如貞光が冷静な顔になったのに驚きつつ

「俺は行かない!」




「自分が指揮官......」

「重い役割を背負ってしまったなぁ」

自室でボツボツと独り言を並べる。

この日は眠れなかった。

祖父、光貴からもらった"そり"を描いた剣を手に取り時折研ぎながら今後について考えて見た。

三代目という名にいつもは勝っていたが、この時の指揮官という人の命を預かる重圧には勝てそうになかったからだ




出発の前夜


私は副指揮官のモルードと作戦について話していた。

エールーは森林に囲まれてさらにこちら側の土地が低いだから迎え撃つとしたら馬に乗って闘うのは良く無いと思う。

手前のサムリンの街で武器以外の荷物は下ろそう。

数々の作戦を挙げているうちに夜は闇を増し、闇は帰って言ってしまった

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

モルードは、首を縦に振りながら

「さすが光貴様の孫ですなぁ!」

「この前までは剣を上手く触れないほどだったのに」

「いつの話だよ。恥ずかしいからやめてくれ」

出兵前の兵士達の緊張した空気を上手く溶かそうとしていた。

水火家の広大な庭に水火家を支持する者ヘイシが1500人ほど集まっていた

一通り出発の式が終わり。

「それでは父上行って参る!」

人前ではおっさんなどと呼べない。

恐らくこの闘いで命を落とすものもいるだろう。

出発してからどこかピリピリするものも感じつつ

その中お祭りの雰囲気で和にこやかに出兵する自軍を見てどこか違和感を覚えた。


一週間が過ぎただろうか

寝床を作りいつものように自軍の兵士達はお祭り騒ぎだった。

あるものは自分の国の歌を歌い、それに合わせて踊りを踊り、高らかな笑い声それを私は遠くから眺めていた。

「どうしたんですかな?指揮官?」

長く白毛なヒゲを見てモルードということに気付いた。

「うん。まあちょっとね。」

火を絶やさぬよう木を足しながら

「初めて指揮官を任されて、今までは指揮される側だったから不安でね。」

私に背を向けて

「指揮官がそんな事を言ってはなりませんぞ。

私達は貴方の駒。貴方の優しい心が貴方自身に敵を作っているのです。」

こちら側を向いて

「さあ、私達も混ざりますぞ!」

自分の罪に気付いた私は、黙ってモルードの背中について行った...........

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