第2話 コケシカ現る

若い女は奇妙な病気を患っていた。

マスクを着用していたが、その表情からも健康な常人とは見えなかった。

その女が患っていたのは、頬がコケるといった奇病だった。


女は今日も小高い谷から、

「ヤーッ」

たびたび掛け声を上げた。


周りの人間にその奇病は伝染してゆく。

女は村人にとって非常に傍迷惑な存在だった。


この村でも続々と感染者は増え、村の住人は頬のコケた人ばかりとなっていた。

その傍迷惑な女を村人は頬のコケた女の意でコケシカと呼んだ。

奇病を発病するまで名はコケシカなどという名前では無かったが、誰も元の名を呼ぼうとはしなかった。元々の名前など、何の価値もないのだ。


突然、突風が吹いた。

コケシカの顔の下半分を覆うマスクが風に煽られた。

マスクを外したコケシカの頬は、やはりコケていた。


皆の頬がコケれば、誰も転ぶ事はないと言ったのはコケシカだった。

──正直、意味は誰にも解らなかった。

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