第17話
伯母の店を出て、2人は立ち止まる。追い出されたものの、この後はどうすれば良いのか…。
「…えっと、どうしますか? 何処かで食事しますか?」
提案してものの、食事にはまだ時間が早い。酒を飲むのにも、まだ明るい気がするし。ならば、喫茶店に落ち着くのが一番かもしれない。
牧村は、考える様子もなく、サラリと返してきた。
「美緒ちゃんと、静かに話せる場所がいいかな」
2人には、3年もの空白があるのだ。忘れられなかった彼が会いに来てくれて、すごく嬉しいのに恥ずかしくて…。とてもじゃないが、顔を真っ直ぐに見れなかった。
伯母の小料理屋から、いくらも離れていない、ワンルームマンションの一室。
「あのアパートの広さの半分くらいなんです。でも、新しくて綺麗だから気に入っていて。――あ。狭いから、ベッドに座っていてくださいね」
何しろワンルームなのにベッドが置いてあるから、狭さが際立つ。それでいて、不思議と窮屈さを感じない、絶妙な配置とコーディネートだった。ベッドは、ソファー代わりとしてもくつろげるように、寝る時以外はカバーを掛け、クッションも置いていた。
まずは冷房をつけ、冷蔵庫から冷たい麦茶を持ってくる。グラスに注ぎ、彼の前に置いた。
「真一さん、どうして静岡へ? お仕事ですか? 突然すぎて、驚きましたよ」
まさか、本当に自分を探してくれていたなんて、とてもじゃないが信じられない。
「さっき言っただろう? 君を探したって」
「……うん」
「本当に、あれから3年間探していたんだ。忙しい仕事を縫ってだから、こんなに時間がかかったけど」
何故探してくれたのか、美緒には理解が出来ない。思い当たるとすれば、急に部屋を引き払ったから、心配をしてくれて――というくらいだ。
もしくは、、、
「3年前、親父が失礼なことを言ったようだね。帰国してすぐに、美緒ちゃんの部屋を訪ねたけど、居なくて…。あの後に、親父から全てを聞いた」
胸が、キリキリと痛みだす。あの頃に言われた言葉は、今でも忘れることが出来ない。まだ夢に出てくるくらいに、深く傷ついた言葉だったから。
でも、真一を思っての親の気持ちなのだから、仕方がないのだろうけど。
「ううん。もう、いいんです。あの頃、真一さんに良くしてもらって、それだけで私、嬉しかったから。それが同情でも、私は―――…」
「同情じゃないよ」
キッパリと否定した真一は、真剣な表情。
自分の父親が言い放った言葉が、今でもなお、彼女の心を深く傷つけていることが解る。早く、美緒の心の痛みを解放させたい。
真っ直ぐな眼差しで、美緒を見つめる。
「―― っ。…それじゃあ、何…なの?」
“同情”でなければ、他には何があるのか。
美緒は、言葉の先にあるかもしれない、優しくて温かい言葉を期待した。
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