第18話
同情でなければ、彼の心にある気持ちは何なのか。
美緒の問いに、真一は優しく笑った。
その温かな笑みは、美緒の心にじんわりと伝わってくる。
「“愛情”しか、ないだろ?」
トクン… 今、彼は何と言ったのか?
耳をすり抜けた言葉が、聞き慣れない、聞いたことのないフレーズで、頭で上手く処理できない。でも、心は素直に反応していて、鼓動がうるさいくらいに打ち付ける。
美緒の純粋すぎる反応は、真一を安心させた。あの頃と変わらない彼女だったから。
「俺は器用な男じゃないから、好意を持った女の子にしか優しく出来ないんだ。でも―――」
言葉を切って、探るように美緒を見つめる。
「今、付き合っている男…いるの?」
こういう場合、どう答えれば良いのだろう。真一は、美緒の定まらない視線を見逃さない。
「考えたらダメだよ。正直にね」
「誤魔化そうなんて、思ってないですっ。――彼氏は…今は、いません」
「〈今は〉って、前はいたのか。妬けるな」
〈妬ける〉なんて言葉を、使う人だったっけ? いつも穏やかで、感情的なことは見せたことがなかった彼だから、その意外な言葉に少し戸惑った。
「でも、“彼”というような付き合いじゃなかったし、第一、何もなかっ―――…」
思わず口が滑り、慌てて噤む。
『何もなかった』だなんて、自分から言うことではない。
いや、そんなことよりも、彼は大切な事を言っていた。
美緒を想っていると思わせるワードを、いくつか言っていたのに気付いて、頬が熱くなる。
視線を合わせただけで、気持ちが伝わってくる。
想いを伝えるタイミングを、言葉を、真一が探っている気配。
上手く息が出来ない。
溢れ出そうな想いを止めて、彼の言葉を待った。
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