第12話
香織の誤解が解けぬまま、数日が経ってしまった。
声を掛けても無視をされているから、どうすることも出来なかった。
「…美緒。お弁当、一緒にいいかな」
香織が弁当箱を持って立っている。
教室で一人になるのが嫌で、今日は場所を変えようかと思った、絶妙のタイミング。
「あっ、うん。ねえ、屋上行かない?」
笑顔で香織を誘った。
晴れの日の屋上は、人がいっぱい。
どうにか居場所を確保して、小さいトートバッグから弁当箱を取り出す。お互いの弁当を覗き込み、笑顔になるのも久しぶりだ。
「美緒、片山先輩を振ったんだってね。先輩、しょげてたよ」
吹っ切れた表情で、香織が呟く。
このタイミングで片山の名前が出るなんて。美緒は驚いて、香織を見つめる。
「先輩にね、告白したの。勿論、振られたけど。気持ちを伝えて、スッキリしたかったんだ。そしたら、『俺も振られたよ』って。ビックリしちゃった。美緒に好きな人がいるって、知らなかったし」
言いながら、手にしていた紙パックの飲み物にストローを刺す。
「先輩に…。そうだったんだ。――あの時は、本当にゴメンね。香織に嫌な思いをさせちゃって…」
「ううん! 謝るのは私の方だよ。美緒は全然悪くないのに、勝手に憎んで…。ゴメンなさい」
謝り合戦になり、頭を下げ続けている。そのうち、ゴチン! とぶつかってしまった。
「痛ぁい!」
二人は笑いながら、わだかまりが解け、以前のように笑いあえる関係に戻っていくのを感じていた。
高校入学当初、美緒は確かに、片山へほのかに暖かい気持ちを抱いた時があった。
でもそれは、〈恋〉ではなく〈憧れ〉という、淡い気持ちだ。美緒には、片山ではなく、別に気になっている男性がいる。
気になっている、だけ。
気持ちを伝えようとか、両想いになりたいとか、夢みたいなことは思っていない。
隣の部屋に住む、牧村に恋をしているなんて、誰にも言えない。
彼とは歳が離れている。
美緒からすれば、牧村はとても大人で頼れる人。恋をしても不思議ではないだろう。しかし、その逆を考えてみると――。牧村が美緒を、とは考えにくい。
美緒だって、相手にされないことくらい、よく解っている。
大人の女性と同じ土俵に上がれるはずがない。最初から諦めている美緒は、ただ、あの人の傍にいたい。隣人として、近くにいられるだけでいい――…そう願い、心で彼を想っていた。
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