第11話

 部屋に入ると、牧村は至って普通に話しかける。顔色が悪い上に、表情を硬くした美雪を落ち着かせるためだ。


 「ベッドで横になれば、だいぶ楽になるだろう。時間は気にしなくていいからね」


 ベッドの上掛けを捲ってあげる。


 「うん。ありがとう」


 大きくて弾力のあるスプリング。身体が沈みこみそうだ。

 照明を落としてくれた。部屋がブラックライトで覆われている。天井には、プラネタリウムが――。


 綺麗な天井、日中の疲れが混ざり、瞼が重くなってきた。

 あっという間に、静かな寝息を立てている。 それに気付いた牧村は、座っていたソファから立ち上がりベッドを覗き込んだ。


 「可愛い寝顔をして」


 微笑んで、彼女の寝顔を見つめる。

 傷つけることはしないと言っているが、彼も成人した男だ。全てを奪いたい気持ちにならないはずがない。


 アパートの部屋で、涙を流す美緒を腕に包んだ。その時も今も、ガラス細工に触れるように彼女に接していた。

 こんな自分、初めてでもどかしい。


 そっと指先を、彼女の唇に触れる。


 「君が好きで、好きでたまらないんだ」


 寝顔に本当の気持ちを囁いた。


*


 アパートへ戻ってきたのは、深夜3時を過ぎた頃。街は静まり返っていて、車のドアを閉めるだけでも騒音に感じてしまう。

 静かに階段を昇り、それぞれが部屋の鍵を出す。


 「それじゃあ、おやすみ」

 「今日は――じゃなくて…。昨日は、本当に楽しかったです。ありがとう」

 「いや。俺も楽しかったよ」

 「…それから、迷惑をかけてしまって。本当に、ごめんなさい。こんな時間になっちゃって」


 それだけは、本当に申し訳なく思った。

 それでも彼は優しくて、いつものように微笑んでいる。


 「気にしなくていいよ。それより、体調が落ち着いて良かった。それに、弁当も美味かったし。また食べさせてくれよ」


 〈また〉をつけたのは、今回のデートを一度だけで済ませたくないという気持ちの表れか。


 「それじゃ」


 牧村の手が、美緒の髪を優しく撫でた。

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