第49話 羨望

就職して三年。

その間、鬱の波が何度か訪れ、欠勤の多い社員でしたが、それでもなんとか勤務を続けられていました。


休日に街へ出るなどという普通のことが出来るようになっていました。


職場には派遣社員が多く、短期間でメンバーが変わるので、親密になる必要がなく、人づきあいが苦手な私は助かっていました。


その人が派遣会社のスタッフと一緒に見学に来た時、私はラインを離れて事務作業に当たっていました。


その人はあまりにも美しかった。

ほっそりした体に長い髪、白い肌とくっきりした目鼻立ち。

私は面食いで、女性でも美人には弱いのです。

ですが、あまりにも美しすぎるために、まさか工場で働くなどということはしないだろう。ここは見学だけで、モデルか何か、美貌を生かした仕事を始めるだろうと思っていました。


ですが、彼女は入社しました。作業服に身を包み、長い髪を一つにまとめて機械を組み立てました。


私は先輩として彼女の指導にあたることになりました。

ですが、私の技量はとても人に教えられるレベルのものではありません。

さらに、私は美しい彼女のすぐ側にいられることに舞い上がりました。

舞い上がった私の精神は鬱状態から躁状態へと突き抜けました。


仕事の指導はしっちゃかめっちゃかで、初めての指導役だった私を観察していた上司がすべてを教えなおしました。

私はそういったことにも気づくことなく、日々、万能感に身を任せ、素晴らしい先輩として、美しい後輩を連れて回ることに没頭していました。

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