第47話 新しい工場
クリーニング工場で働けたという体験は私の自信を取り戻してくれました。
私は働ける。
社会に戻れる。
立派な、一人前の人間として認めてもらえる働きができる。
まだまだ、薬がなければ不安定な精神状態でしたし、ことあるごとに疲れ果てて昼間でも動けず横になることが多かったのですが、なぜか『自分はもう大丈夫』という謎の確信を持っていました。
ハローワークに通いました。
電車で3駅、そこから徒歩30分という、その当時の私にとっては海の果てほども遠く感じる道のりでした。
電車に乗って座席にうずもれ、電車を降りてベンチに座り込み、十歩歩くごとにため息をつきながらハローワークに通いました。
それでも自分は健康になったのだと信じて。
軽作業の仕事ばかりを検索しました。
工場なら働けると思いました。
それまでアナログな事務やら売り上げのない営業やら怪しい訪問販売の手先やら、よくわからない経歴を積み重ねて生きてきましたが、軽作業、工場という、その地に足ついたどっしりとした安定感に縋りつきたかったのだと思います。
自宅から徒歩15分の工場の求人が見つかりました。事前に履歴書は送りましたが、選考は面接のみでした。
何年かぶりにスーツを着て、てくてく歩いて面接に向かいました。
6人の募集に対して応募者は8人。
一人は挨拶しても完全に無視する男性。一人はひどい風邪をひいて声もまともに出せない女性がいて、私が少しくらいおかしくても、採用されるだろうと気楽な気持ちになれました。
その日の私は爽快な気分で身体も軽く、人当たりのいい働きものの仮面をうまくかぶることができました。
数週間後、新年度からその工場で働くことが決まりました。
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