第9話 すき
二十代前半、いや、十代前半から、私は結婚に強い憧れを持っていました。
今考えると、憧れというよりは逃避でした。
今いるココではなく、どこかトオクへ行ける。それが、私にとっての結婚というものでした。
けれど、誰でもいいわけではなかった。
私を遠くに連れ去って、なおかつ匿って、母親のように慰撫して、父親のように守ってくれる、そんなような人でなくてはなりませんでした。
何人か、それに見合う人がいました。
でも、私はその人たちに見合うだけの女ではなかった。
外見のこと、性格のこと、嗜好のこと、様々な点で、彼らにふさわしいとは思えなかったし、何よりも、私は高慢で、自意識過剰で、自己愛に満ち満ちていました。
だから、自分から男に話しかけるなどということは出来ませんでした。
自分に見合う男を跪かせないと気にいりませんでした。
彼らが跪くように、強制しようとしました。
でも、それは全部、言い訳です。
私は、傷つくのが怖かった。
自分を否定されるのが怖かった。
私を他人と比べて卑下するであろう他人の目が怖かった。
いつか捨てられる私が怖かった。
ずっと男子が嫌いだと思っていたのも、私をさらけだすことが怖かっただけ。
性欲と自己愛にまみれた私は、結局、ナニモノにもなれないまま、どこへも踏み出せないまま、自分を痛めつけることで、傷ついて可哀そうな自分を、哀れんで、隠しとおして、誰にも触らせないように殻に閉じ込めて、腐っていきました。
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