第3話 なんで眼科と心療内科?

 保険証をいつも財布に入れているのが役に立った。


 緊張で震える手で問診票を書いた。

 心療内科を受診したいと言うと、それ用の問診票をくれた。


 該当する症状にチェックをいれるだけでいい、簡単なものだった。助かった。

 頭なんか、とっくの昔に回らなくなっていたし、何より、自分のことを他人に話さなければならないとういのは、恐怖でしか、なかったから。


 看護婦さんが問診票を診察室に運ぶと、すぐに名前を呼ばれた。患者がいないんだから速い。当然だ。でも、緊張がいや増した。


 診察室に入ると、少し落ち着いた。

 眼科の診察室だったから。

 眼科なら通いなれてる。

 カーテンで仕切られて薄暗くて、まったり暖かくて。

 先生は中年の男性で、問診票に視線を落としていた。


「座ってー」


 間延びした喋り方をする人だった。

 それも、安心できた。


 たしか、二、三の質問を受けた。


「うつ病だね。薬出すから飲んでみて」


 あっという間に診察は終わった。

 先生と目が合ったのは一回だけだった。


 薄暗い診察室から、明るい待合室に戻るのは気が重かった。

 私にとって、薄暗がりほど居心地の良いところは、なかったから。

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