第9話 1章04……PCの達人とセミプロ漫画家と……そして今日もツンドラ系なデッサン少女と天然アイドルはマイペースで空気を読まない。


     ◇



 幹が舞子に躾けられた後は、残り十名と少しの女子たちが流れるように自己紹介を進めて行くこととなる。


 そこではさすがに個性的なメンバーが集められただけあって、目を瞠るような美少女たちの様々な性格や事情が明らかになっていった。



 そんな美少女たちの一部を抜粋すれば……。



 例えば、持ち込んでいた自分のモバイルノートパソコンをいじることに専心していた、黒縁のメガネを掛けていて髪を内巻きボブカットにした黒猫のような美少女は、自分の出番が来るなり作業していたパソコンをスリープ状態にして閉じた。


 教壇に上がる際にもマイ・パソコンを携えて行くとメガネを外し、くりっとしたこれまた猫のような瞳を露わにすると、パソコン画面を開いて教卓の上から見せつけるようにする。


 そんな彼女には、クラスメイトも大井先生も大きく驚かされた。


 一つは彼女の持っているパソコンについてだが、

 ……もう一つは、彼女がおかこーの制服であるブレザーの上に纏っているのが、一見しただけでもかなり上等な黒の生地に細く朱色で梅の花が描かれている『羽織』だったからだ。


 しかしながら、ブレザー制服の上に纏う和風な羽織、その手元には現代文明機器のモバイルノート……というのがアンバランスながらも彼女の持つ『黒猫』っぽい雰囲気が整えて、絶妙にマッチしていた。


 けれど目を丸くした大井先生は、

「ちょ、ちょっと君、みんなが自己紹介をしている時にもそれで遊んでいたのかい? というか、制服の上に着ているそれはいったい……」

 と発する苦言には、


「これはエクセルにて、みんなの名前や特徴と発言を纏めていたんです。この後で話し掛ける時に相手方の名前を忘れていたりしたら、躊躇して二の足を踏むし、気まずくなるでしょう? データが欲しい人は言ってきて。席順のデータで作っているから、名前を知りたい席に座っている人の名前やデータをこっそり調べられるわよ。エクセルが開けないスマホかガラケー持ちの人も、並行してテキストで出席番号順での名前データも作ってるし。どっちもメールでのデータでの転送も可能よ。携帯のmicroカードに直に移してあげたり、もしいま持ってればUSBメモリに移してもいいけど。コピー代は必要だけどコンビニでプリントできるようにもネットで設定してあげるし。

 ……そして先生。これは漫画やイラストなどのグラフィカルな二次元的記号素材の集まりならともかく、現実世界にて人様の顔を憶えるのが苦手な私の個人的な脳の事情もあり、みんなにも役立つような『ボランティア精神』で作っていたのですが、それでも駄目なのでしょうか?」


 ……などと少し涙で潤んだ瞳の少女に論破されては、大井先生も「ぐっ」と押し黙るしかなかった。


 だが少女の奇抜な服装についても追及しなければ他の生徒に対して示しがつかない。


「し、しかし君のその……ブレザーの上に羽織っている物は……」


「いけませんでしたか? 私、少々寒がりな体質なんですが。防寒着は校則でも認められていますよね? それに入学式の折は羽織っていませんでしたし、現在も『羽織紐』まで結んでいないのは、この制服およびこの学び舎に一通りの敬意を払ってのことです」


 いけしゃあしゃあとのたまう少女に、大井先生は「そうかい……。それなら仕方ない……のかなぁ」と言うほか無かったり。



     ◇



 はたして入学式の本日であるのに、天然パーマの頭髪についた寝ぐせ整えておらず所々が跳ねた彼女のショートヘアーを『無造作スタイル』と安易に括っていいのかは判らない。


 人目を引く印象的な太めの赤縁メガネ以外見た目にはあまり気を遣っていなそうな女子が(それでも充分顔立ちは美少女だが)、実は日本で一番有名で売れている週刊少年漫画誌に中学二年時に初めて完成させた漫画を投稿したら月例賞を受賞したので担当編集も付いていたり。


 しかもおかこー在学中のデビューを目指すため、現在進行形で漫画のプロットやネームを提出しつつも、自宅では同じ編集が担当している連載漫画家のデジタル漫画データアシスタント業を学業に支障の無い範囲で委託されつつ、デジタル漫画作業技術を磨いているセミプロの漫画家であるという自己紹介には、幹を始めとするまさにその漫画雑誌を読んでいる男子たちや一部の女子たちから感嘆の溜め息が上がった。



     ◇



 凛とした美しさはあるが、つり目でキツイ印象も与えるポニーテールの美少女は今日もツンドラ系だった。


 彼女の本音は、高校卒業後の進路としてそこいらの『美大』ではなく、現在の日本において唯一『芸大』と略して呼んでいい国立大学に最低限のお金と最短ルートで入るためだけにこの科に入ったそうだ。


 デザイン云々よりこのデザイン科の専門棟にあるデッサン室とそこの設備と教材たちをタダで使用出来る環境と、志望大合格のために役立つ授業以外には興味が無いことをあっけらかんと暴露し、最後には


「自分のデッサンの邪魔をする奴は死ね」


 と事も無げに言い放って自分の席に戻ったり。



     ◇



 ツンドラデッサン少女の発言にクラス全員がドン引きしていた空気を浄化するかのように、長いロングヘアー、指の先からローファーの磨き具合まで、この場に居ること自体が嘘のように洗練された美貌の少女が教壇に立った。


 同時に幹も椅子から立ち上がって大仰に驚いた顔をして少女を指差しつつ、



「あーーっっ!! 『OKA4』のセンターの『よしみん』じゃん! いやでもまさか本人なんて……そっくりさんとか!?」



 隣のクラスに響くほどの大声を上げる。

 他のクラスメイトも幹と同じ心境だったようで、先ほどからちらちらと彼女のほうを窺っていたのだ。



 そんな超絶美少女は幹の叫びにもアイドルスマイルを崩さず、



「は~いその通り! みなさんはじめまして~。乙女ゲーが大好きな『よしみん』ですよ~」



 肯定の言葉を放ったのと同時に、まるでこの場がライブのステージ上であるかのような満面の笑みと、人差し指と親指を繋げて輪っかを作って他の指は立てる……つまるところ『オッケーサイン』を作って頬の前でかざし、首をちょこん、と傾げて見せた。



『よしみん』たち『OKA4』が取るこのポーズは、普通の『快諾』『了承』などとは違う意図を持つ。



 ライブの開始時やテレビの歌番組に招待された時には、


「みんなーっ! わたしたちと一緒にハジケる準備はオッケーかな? 略して『オッカー?』」


 メンバーが揃って観客や視聴者に問い掛けるように小首を傾げるのが『OKA4』独自の決めポーズでもあるのだった。


 最初にこれを考案したのも『よしみん』であり、ライブ時のマイクパフォーマンスの折に使うようになってユニット全体に浸透させた。


『OKA4』が本格的にライブなどで使うようになって世間に周知されるようになってからは若者を中心に「オッケー?」の代わりに「オッカー?」という風に使われていて、二年前には流行語大賞にもノミネートされたこともある。



 ここまで「もしや」「まさか」などの憶測でしかなかった



『クラスメイトに現役アイドルがいる』



 という事実が本人により肯定されたことで、今度は幹を筆頭とするクラス全員が呆気に取られ、しばらく教室内には大声や驚声が巻き起こる事態となった。

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